吉田類が神田の名店で語る「我々がおでん屋へ行く理由」

特集

今夜はおでんが食べたい!

2016/12/12

吉田類が神田の名店で語る「我々がおでん屋へ行く理由」

年末の忙しさと寒さのせいでお疲れモード。そんなとき、あったかく癒やしてくれるのが、アツアツのおでんですよね。日本全国の酒場を訪ねる酒場詩人・吉田類さんがインタビューに応じてくれました! 類さんはどのようにおでん屋さんでのひとときを楽しんでいるのでしょうか?

Yahoo!ライフマガジン編集部

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旅に出たら必ず食べたい「究極の郷土料理としてのおでん」

BS-TBS「吉田類の酒場放浪記」をはじめ、数々のテレビ・ラジオ番組や著書で“酒場”の素晴らしさを伝道する、吉田類さん。今回、類さんとともに訪れたおでん屋さんが、東京・神田 「尾張家」です。

尾張家があるのは神田駅南口を出て、路地を入ったすぐの場所。こののれんの向こうに、美味しいおでんとお酒が待っています。

同店は、JR神田駅南口を下りてすぐの場所にあり、厳かな純和風の店構え。一見さんにとっては、ちょっと躊躇してしまいそうですが、思い切ってのれんをくぐれば、江戸っ子気質の店員さんたちが温かく迎えてくれます。そんな名店で類さんが語った「おでん屋へ行く理由」とは……?


まずはビールで乾杯! 類さんが必ず最初に食べるおでんの具は「大根」で、理由は「味が染み込みやすいので、そのお店がわかるから」

――数多の酒場を知る類さんですが、おでん屋さんもよく行かれるんでしょうか?

吉田類さん(以下、類さん) 
吉田類さん(以下、類さん) 
そりゃ、もちろん。僕は「旅の基本はおでんにあり」と思ってるんです。どういうことかというと、まずおでん屋は駅の近くにあることがほとんどで、街の玄関のような存在なんですね。そんな立地条件だから、お店の人も街のことをよく知っていて、情報収集ができる。そして、おでんは温かいしお酒も熱燗で飲むことが多いですから、「体も温まったし、次はどこ行こうかな」と酒飲みの止まり木となる存在でもいてくれます。

――酒飲みの止まり木…いきなり名言です! おでんといえば、屋台を思い浮かべる人も多いですよね。

類さん
類さん
屋台もいいねぇ。屋台の親父も、街の事情通である場合が多いんですよ。地元の常連さんたちが来て、話をするわけだからね。なので「駅の近くのおでん屋」と同様に情報源になってくれますし、あとはベーシックなおでんがいつでも食べられるところもいいですね。おでんのつくり方や具材、味は地方によって異なるとはよくいわれますが、屋台のおでんの場合は、どこの土地でも手に入る、最低限の食材を具にしているので。

――なるほど。それでは反対に、各地方の特色あるおでんについても聞かせてもらえますか?

類さん
類さん
まず東京やその近郊に住む人々は忘れがちなのですが、こちらの尾張家さんで出されているおでんも、ひとつの確立した「東京のおでん」だということ。それと同じように、各地ならではのおでんがあるわけで、金沢おでんは「ふかし」や「赤巻」のような独特の具材がありますよね。あと、新潟のおでんも地酒を煮切り(加熱してアルコールを飛ばす)にするもので、特徴的です。
尾張家さんのおでんは、ここに写っている大根、がんものほか、はんぺんやロールキャベツなど東京おでんの王道といえるメニュー。初めての人でも、気軽に楽しめる

――そんな各地のおでんの中で、特に類さんが好物なのは?

類さん
類さん
いやぁ、どこのおでんも美味しいですよ。

――そこを何とか教えていただければ(笑)。

類さん
類さん
そうですねぇ。リーズナブルで外れがないという意味では、大阪でしょうか。当地のおでんは「関東煮」と書いて「かんとうだき」と読むところも面白いですね。おでんって、名前にも特色があるんですよ。ほかに、有名な静岡おでんも正しい発音は「しぞーかおでん」ですしね。

――「しぞーか」、初めて知りました。

類さん
類さん
こういう風に挙げていくと、どこのおでんもオンリーワンで、ここが一番とは言いにくいんですよ。本当に地元に根づいた食材と味付けになっていますから。そういった意味で、おでんは“究極の郷土料理”といえますね。

老舗「尾張家」は政財界の大物も多数来店!?

ここで、尾張家の女将・長江操さんが登場。類さんとの間で、アツい酒場トークが交わされました。

長江さんは大企業の社長から若い一見客まで誰にでも気さくに会話してくれる女将さん
長江操さん(以下、女将さん) 
長江操さん(以下、女将さん) 
いらっしゃい。テレビで見るよりいい男ねぇ(と言いながら、類さんにお酌する女将さん)。
類さん
類さん
ありがとうございます。かなりの老舗とお見受けしましたが、こちらではどのくらいの間、ご商売されているんですか?
女将さん
女将さん
おでん屋としては昭和2年の創業で、来年で90年を迎えます。
類さん
類さん
ほう、90年ですか。
女将さん
女将さん
おでん屋をやる前も、明治のころからウチの先祖はここに住んでるんです。だから、関東大震災と東京大空襲、2回も焼けちゃってねぇ(苦笑)。
類さん
類さん
東京の歴史を知るおでん屋さんですね。ところで、僕、猫好きなのでお店に来たときから気になっていたのですが、カウンターの奥の棚に置いてある大きな猫は……?
女将さん 
女将さん 
三井物産の皆さんから80周年のお祝いにいただいた招き猫です。それまでの何十周年という節目のときは、社長さんなどの役員・社員の方から大入り看板をいただいたんですけどね。
三井物産から贈られた尾張家創業60周年・70周年記念の「大入り看板」。贈呈人として同社の社長の名が刻まれている
女将さん 
女将さん 
でも、80周年のときは「ウチ、狭いからもう看板は飾れないんです」ってお断りして(笑)。そうしたら、あの招き猫をお贈りいただきました。「千客万来」と「金運招来」の2匹セットのものなんです。
2匹の招き猫の前での、女将さん。左手を上げる猫は「千客万来」、右手は「金運招来」で、1匹が両手を上げると「万歳(お手上げ)」となり縁起が悪くなるから、2匹に分けて贈られたそう
類さん
類さん
そんな大企業の方も来られるんですねぇ。
女将さん 
女将さん 
大手町や日本橋が近いので、さまざまな企業の方にもごひいきにしていただいています。古い話ですが、日銀の前川総裁(前川春雄。第2次オイルショック期の日本銀行総裁)にもよく来ていただいて、今、類さんが座られてる角の席が好きだったんですよ。
類さん
類さん
そうですか。ここに来れば、政財界の大物が愛したおでんを食べられるというわけですね。反対に、若いお客さんは来られますか?
女将さん 
女将さん 
ええ。大体、営業時間(17〜22時)の“後半戦”が若い方が多いですね。私は孫が4人いるのですが、(同じ年頃の)お客さんと話しているとついつい、口の利き方が乱雑になってしまって…。それを見た孫から「店の人間がお客さんにする言葉遣いじゃない」って怒られることもあるんですよ(笑)。
類さん
類さん
あはは(笑)。でも、女将さんと忌憚(きたん)なくお話できるところが、尾張家さんのいいところじゃないですか。さっき「旅の基本はおでん」といったけど、お酒の基本もおでんだと思うんだよね。こうやって、女将さんとお話しながら、お酒とおでんを楽しむのは酒飲みの“基本のき”になるんじゃないでしょうか。
女将さん 
女将さん 
口が達者なだけですよ(笑)。でも、そう言っていただけると、ありがたいです。

おでん屋は「人生の行動半径が広がる」学びの場

常連さんとの一枚。「酒場で出会った人から自分の知らない本や歴史などを教えてもらうこともあるんです」と、“人生の行動範囲”を広げる大切さを教えてくれた類さん

取材中、尾張家にはひっきりなしにお客さんが訪れます。店内がかなり忙しい様相になってきたところで、一緒に盛り上がっていた女将さんも、再びカウンターの中へ。

一方、お酒が進むにつれ饒舌になる類さん。アツアツのおでん屋トークは「酒場論」へと展開していきます。

類さん
類さん
今、女将さんと若いお客さんの話していて思い出したんだけどね、海外から日本に来た大学教授が学生たちに、「大衆酒場へ行きなさい」っていうんですよ。

――えっ? そうなんですか?

類さん
類さん
うん、酒場へ行って、大将や常連さんたちと話をして、そのことをレポートにまとめて出しなさい、と。海外から来た人の目には、日本の大衆酒場が“子どもが大人への第一歩を踏み出すスポット”と映るみたいなんですよね。

――上手なお酒の飲み方を覚えられる、ということでしょうか?

類さん
類さん
そういう面もあるかもしれません。ただ、僕も若い頃、海外を歩き回って感じたんですが、やはり外国の酒場は他人を気にしなくても、1人で飲んでいられる。日本と比べれば根底に個人主義があるわけですから、1人で黙って酒を飲んでいる人間がいても、周りは気に留めないのです。でも、日本の酒場はそうはいかない。周りの人に最低限の気遣いはして、取り留めのない話題でもいいから会話をして、何かを教えてくれたりした人にはきちんと感謝する。すると、「大人の付き合いってこうするんだな」とわかるじゃないですか。海外の人々は、日本の大衆酒場を大人のコミュニケーションを育める場所と考えているようです。

――なるほど。ただ、一方で「そういう付き合いは面倒くさい」と感じてしまうのが、現代人ですよね(苦笑)。

類さん
類さん
なんていうのかな、「面白い物事がそこに転がってる」ってことがなかなかわかってもらえないのかもしれませんね。面白いことって、いいホテルに泊まったり、高級料亭に行ったりとか、あるいは高尚なことをしなくても発見できるんですよ。ちょっと行動半径を広げるだけで、必ず見つけられる。こうやって、おでん屋さんの扉を開けば、絶対面白い何かがそこに落ちているはずなのに、そこから遠ざかるのはもったいないですよ。

――では、そんなおでん屋さんの扉を開いたことのない人のために、何かアドバイスをいただけますか?

類さん
類さん
それはズバリ「酒場にドラマを求めなさい」ということに尽きますね。「ドラマ」というのは、今言った、何か面白い物事を見つけられるのはもちろん、今まで酒場に足を踏み入れていなかった人が「酒場というドラマの中にいる自分」を演じることで、自然と粋な振る舞い方も身についてくるといったこともあります。「こういうお酒を飲んだら絵になるかも」「隣のお客さんとはこう接すれば、喜んでもらえるかも」と楽しんでいけば、人生の行動半径がより広がりますよ。

この日、多数の常連さんたちが類さんの存在に気づきましたが、類さん本人もそうした人々との出会いと語らいを楽しみ、快く一緒に写真に収まる、といった場面もありました。今まで入りづらいと感じていたおでん屋さんの扉を開いてみれば、あなたにも必ず新たな発見や出会いがあるはずです。


吉田類――よしだるい。高知県出身。酒場詩人。BS-TBS『吉田類の酒場放浪記』、NHKラジオ第1『ラジオ深夜便』に出演。日本各地で酒場や旅をテーマに講演。著書は『酒場歳時記』(NHK出版)、『酒場詩人の流儀』(中央公論新社)等。中央公論にエッセイ「吉田類の酒は人の上に人を造らず」を連載中。

取材・文/藤麻迪

尾張家

住所:東京都千代田区鍛冶町1−6−4
電話:03-3251-4320
営業時間:17:00〜22:00
定休日:土・日・祝日定休

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※この情報は取材時の情報です。ご利用の際は事前にご確認ください。

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