【丼トレンド2017】江戸時代から愛される“丼”の魅力とは?

特集

食の小宇宙“丼”をもっと知りたい&食べたい!

2017/02/16

【丼トレンド2017】江戸時代から愛される“丼”の魅力とは?

丼鉢に盛ったホカホカご飯に具をのせた丼もの。米、肉、魚、野菜など、どんな食材をも飲み込みながら調和するその姿は、まるで器に盛られた小宇宙だ。そんな多種多様さで愛されてやまない丼の魅力を、食の専門家・松浦達也氏に語ってもらった。

Yahoo!ライフマガジン編集部

Yahoo!ライフマガジン編集部

案内人はこの方!

松浦達也さん

松浦達也さん

編集者/ライター/フードアクティビスト

“丼もの”に歴史あり

「トッピング」という、小洒落た言葉が広まる遥か昔から、おかずをご飯にのせて発達してきた日本の丼文化。その起源は、室町時代に上流階級で流行った汁かけご飯の「芳飯(ほうはん)」だという説や、江戸時代に一杯盛り切りの「慳貪屋(けんどんや)」で使われた器の「慳貪振り鉢(けんどんぶりばち)」が略され「どんぶり鉢」になったという説なども、食のトリビアとして押さえておきたい。

江戸後期から急加速する
丼のバリエーション

江戸から大正にかけて登場した「天丼」「カツ丼」「親子丼」といった、定番丼の地位は今もゆるぎない。昨年SNS経由で大ブレイクした「ローストビーフ丼」など、新顔も加わり日本の丼地図はさらに充実し続けそうだ
松浦達也さん(以下、松浦さん)
松浦達也さん(以下、松浦さん)
「江戸期に起源を持つと言われる丼は、カツ丼、天丼、うな丼、親子丼、牛丼という現代の『五大丼』に加え、海外の食の要素を取り入れながら進化。食文化の重要なカテゴリのひとつとなっています」

おいしい丼のお話を伺うためには腹ごしらえが必要!というわけで、松浦さんが「すべての煩悩を開放して食べたい“カツ丼の王道”を出す」と太鼓判を押すトンカツの名店、有楽町の「あけぼの」にやってきた。


“丼の王道”カツ丼の魔力

これぞ王道という佇まいの「あけぼの」のカツ丼(並:980円/味噌汁、お新香つき)

トンカツの専門店「あけぼの」は1962年ごろ、有楽町駅東側の食堂街「すし屋横丁」で創業。その後、有楽町駅前に東京交通会館が開業すると、その地下に移転。高度経済成長期から現代まで、日本のビジネスの中心地である有楽町・丸の内周辺を行き交う人々の胃袋を満たしてきた。

松浦さん
松浦さん
「ご飯に具をのせる現代と同じスタイルの丼が数多く登場するのは、江戸時代後期の文化文政年間(1804〜1830年)――いわゆる化政文化の華やかなりしころだと言われています。町人文化がさまざまな形で花開くなか、『うな丼』の誕生が先鞭をつけ、『天丼』が続いたと言われています」

ーーなかなか肉を使った丼が登場しませんね。

松浦さん
松浦さん
「肉は薬のような位置づけで密かに食べられていましたが、表向き、明治維新まで解禁されていなかったんです。もっとも、肉食が解禁される明治以降にどっと登場するのでご安心ください(笑)。せっかくなので、『あけぼの』さんのカツ丼を食べながらお話しましょうか。それではご主人、カツ丼(980円)をお願いします!」
「あけぼの」を切り盛りする二代目ご主人の中村文造さん
「あけぼの」店主・中村文造さん(以下、中村さん)
「あけぼの」店主・中村文造さん(以下、中村さん)
「ありがとうございます! 初代の父から習ったとおりに作っているので、特にこだわりはないんですけどね(笑)」
カラリと揚げた分厚いトンカツを切り分けていく

ーーまずはカツ丼の歴史から教えてください。

松浦さん
松浦さん
「肉全体の話で言うと、明治の文明開化とともに政府によって、肉食が解禁・奨励されるようになり、牛肉の人気が爆発します。ところが、過熱する人気や日露戦争での保存食需要などで、品薄になった。そこで豚肉を食べようというムーブメントが大正にかけて起きました」

ーー牛が高いと豚が注目されるのは昔も今と同じなんですね。

松浦さん
松浦さん
「カツ丼で言うと最古は1913(大正2)年、早稲田の『ヨーロッパ軒』が考案したソースカツ丼とされています。現在主流となっている卵とじカツ丼については、同じく早稲田の蕎麦店が発祥だとか、大阪生まれだとか諸説ありますが、いずれも1921(大正10)年ごろ生まれたとされています」
卵を流し入れた後に味の調整ができないので高い技術が必要
「あけぼの」の丼に使うご飯は、羽つき釜で炊き上げられる。2升のお米を一日に8回炊くのだとか

ーーカツ丼を作っている作業は見ているだけでも楽しいです。

松浦さん
松浦さん
「カツ丼の調理法は、天丼の『揚げる』、親子丼の『卵でとじる』、牛丼の『煮る』といった、3つの技術の結晶。しかも、卵を入れた後に味の調整ができないので、最初に丼タレの量や濃さをバチッと決める技術が必要なんです」
卵でとじたカツ丼の「あたま」をご飯の上に滑り込ませる
中村さん
中村さん
「昔と今で変わったのは、お客様の卵とじの固さの好みくらいでしょうか。うちはしっかりと火を通す古典的なスタイルですが、一声かけていただければ半熟にも調整できます」
分厚い豚肉、衣に染み込んだ丼タレ、程よい固さの卵が渾然一体に
我を忘れてカツ丼をかきこみご満悦の表情
松浦さん
松浦さん
「カツの状態やご飯の炊き加減の組み合わせがすばらしく、あけぼのさんのカツ丼は本当においしい。ビジネス街という土地柄か、質の高さだけでなく、ボリュームにも気を配っているのがうれしいです」

ーー1000円近いカツ丼はちょっとした贅沢品として楽しみたいです。

中村さん
中村さん
「そう言っていただけると嬉しいです。中学生時代から店を手伝っていますが、およそ30年前の値段が確か950円。実はほとんど値上げしていないんです」
松浦さん
松浦さん
「トンカツ専門店の場合、定食なら1000円超えは普通です。カツ丼はそこからさらに卵で煮とじる手間が加わるわけで、カツ丼が定食とほぼ同じ値段なのはお店の心意気。今も昔もカツ丼は、高級なごちそうであっていいと思うんです」

丼ものには王様と女王がある

作家の池波正太郎が好んだという山の上ホテルの天丼(3600円)

ーーカツ丼が「丼の王道」なら、天丼は?

松浦さん
松浦さん
「以前、老舗蕎麦店の『神田まつや』のご主人が『天丼は丼の王様。女王様は親子丼』とおっしゃったという話を伺って、『なるほど!』と膝を打ちました。職人の揚げた天ぷらは、いいお値段に思えるかもしれませんが、天ぷらの調理は技巧を凝らした難しいもの。いい店の値付けは技術料だと捉えるのが自然です。でもそんな天ぷらにしても、丼によそった瞬間にお手ごろ価格になる。天丼は蕎麦屋さんを始め、専門店で食べるとよりお得感がありそうです」
外神田の「鳥つね自然洞」の特上親子丼(1600円)は女王の名にふさわしい優雅さ
松浦さん
松浦さん
「一方、女王の親子丼は『庶民のごちそう』の代表格ですが、鶏肉と卵というシンプルな素材のため、料理人の腕前がはっきり出てしまう。鳥料理専門店や蕎麦店でも楽しめますし、街の食堂でもキラリと光る親子丼を出す店も少なくありません。メニュー選びに迷うと『知られざる名丼に会えるかも!』とつい頼んでしまいます」

ーー親子丼の人気が高まる一方、玉子丼の存在感が薄れた印象も。

松浦さん
松浦さん
「玉子丼は卵の煮加減が命で、単価も高く設定しづらい丼です。だからこそ玉子丼を出してくれる店には心意気を感じますね。最近では気軽さという点ではチェーン系の牛丼の存在感が目立ちますが、たまには玉子丼に目を向けてみると、丼ライフがより多様になると思います」

魚介系丼もお忘れなく

京急本線の鮫洲駅前にある「しながわ葵」では、都内の一流店で修行した寿司職人の手がけるバラちらし丼がランチでは1500円で提供される

ーー魚介類を使った丼では、海鮮丼や鉄火丼が人気です。

松浦さん
松浦さん
「魚介系は色味が鮮やかで華がありますし、あっさりした丼が食べたい時にぴったりです。鮮度など素材の質が左右する部分が大きいのですが、だからこそ目利き力も含めた料理人の手腕が試される。漁港や魚市場などでよく見かけますが、当たり外れが大きいので客としても店の見極め力が問われます。都市部でしたら、高級寿司店のバラちらし丼も見逃せません。ランチでも質の高い素材を使った丼が、驚くほどオトクな値段で食べることができる店もあります」
中村さん
中村さん
「ウチの数少ない魚系メニューで、季節限定裏メニューの『牡蠣丼』を召し上がってみませんか?」
松浦さん
松浦さん
「ぜひとも! いただいてみたいです!」
「あけぼの」季節限定裏メニューの牡蠣丼(1000円/味噌汁、お新香つき)。大粒の牡蠣フライをカツ丼と同じ割り下で煮込み卵でとじてある
中村さん
中村さん
「牡蠣フライをカツ丼と同じように割り下で煮て卵でとじた丼で、先代が出していた料理でした。旬が過ぎるとお休みするのですが、ある年に再開するのを忘れてメニューから消えてそれきりに。ただ、覚えてくださっているお客様が思いのほか多いので、年によって違いますが、10月中旬から4月の初旬ごろの、おいしい牡蠣が手ごろになる時期にはメニューに載せずに提供しています」
大粒の牡蠣フライを一口かじると豊かな味と香りが
松浦さん
松浦さん
「牡蠣フライというのは洋食の文化ですが、卵とじにしてご飯に乗せるだけで和のメニューになりますね」
すっかり牡蠣丼に魅了される松浦さん

ーーご飯に乗せさえすれば、何でも「丼」と言えてしまいそうですが?

松浦さん
松浦さん
「最近ではローストビーフ丼ステーキ丼も人気ですよね。ロゼ色の写真映えする鮮やかなビジュアルも手伝って、SNSで爆発的に拡散しました」

ーー海外にルーツを持つ丼もあります。

松浦さん
松浦さん
中華丼麻婆丼のように日本風にアレンジされた丼や、ハワイ生まれのロコモコ丼のようにほぼ原型を保った丼もある。なかには天津丼のように、海外生まれのようで実は日本生まれという変わり種も。あっさりやこってりという味のバリエーションはもちろん、定番から新顔までの幅広いキャラクターから選べるニッポンの丼飯という小宇宙には、無限の懐の広さがあるのです」
昭和から続く名店の趣が味わえるのも「あけぼの」の魅力

長い歴史を持つ定番は着実に魅力を増し、あっと驚くようなユニークな新顔も登場する丼飯の世界。まずは今日の腹具合にぴったりな一品を探しに街へ出かけてはいかがだろうか。

あけぼの

口コミ・写真など

※この情報は取材時の情報です。ご利用の際は事前にご確認ください。

取材メモ/「あけぼの」のご主人の慣れた手つきで仕上げるカツ丼の調理の様子は、見ているだけで楽しくなります。牡蠣のシーズンは4月ごろまでなので、牡蠣丼が気になった方はお早めに!

取材・文=杉山元洋/撮影(あけぼの)=福田栄美子/イラスト=福田百花

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Yahoo!ライフマガジン編集部

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