昭和7年創業「フロイン堂」レンガ釜で焼く食パンは今でも手ごね

特集

地元で愛されるノスタルジックなパン屋さん

2016/04/07

昭和7年創業「フロイン堂」レンガ釜で焼く食パンは今でも手ごね

神戸きっての文教地区、岡本で80年以上にわたり親しまれる小さな、しかし偉大なベーカリー「フロイン堂」。4世代に愛される秘訣は何なのか。そのヒストリーをひと解く。

エイ出版社

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昭和7年から受け継がれる本格的なパン

午後1時の「フロイン堂」。発酵を終えてホイロから出された食パンの生地を見つめ、店主の竹内善之さんは「ほな、いこか」とつぶやいた。無駄のない動きで1本ずつ、型が窯に収められていく。すべてを入れ終わると、竹内さんは少しほっとした表情を浮かべた。

「フロイン堂」の開店は昭和7年。竹内さんの父である初代は、ドイツパンを日本にもたらした神戸の名店「フロインドリーブ」に勤務。その暖簾分けというかたちでのスタートだった。日本ではまだパン自体が一般的ではない時代だったが、外国人や商社マンが多く暮らしていた岡本界隈で、本格的なパンや洋菓子はたちまち評判を呼ぶ。

工房内に置かれた先代の写真が温かく見守っている

窯のクセをつかんで納得のいく焼き上がりに

開店から10年あまり、昭和19年に満を持して導入されたのが、一層式のレンガ窯。薪を燃やして庫内を約300℃まで熱し、余熱だけでパンを焼き上げる。中からじんわりと火が通った生地は、余計な水分が飛び、驚くほど軽やか。小麦の香りとうまみが引き出され、パサつきや風味の劣化もゆっくりだという。いまもその窯は現役。戦災や震災をも乗り越え、堂々とした姿をとどめている。

しかし時代が移り変わる中、別の苦難もあった。燃料となる良質の薪が入手できなくなったのだ。やむなく7年前、窯をガス式にした。「熱源を変えた当初は、心配で寝られませんでした。ガス特有のクセをつかんで、納得いく焼き上がりやなと思えるようになるまで、2年はかかったでしょうか」と振り返る竹内さん。薪の場合、庫内のアーチに炎が当たるよう調整して全体をまんべんなく熱することができたが、ガス式は熱した空気を対流させるため、どうしても微妙な温度ムラが生じる。それを解消するため、焼成中にパンの位置や前後を入れ替える。地道で骨の折れる作業が、均一で美しい焼き上がりを支えている。

のぞき窓からこまめに焼き具合を確認する竹内さん

竹内さんがこだわっているのは「手渡し」ということ

竹内さんの真摯な姿勢は、仕込みにも表れる。一度に焼く食パンの本数は70本。小麦粉だけで35kg、副材料を入れると50kgにもなる生地を、いまなおミキサーに頼らず、手でこねている。「立派になれよ、って言い聞かせながらこねてやると、不思議と出来が違います」と微笑む竹内さん。完成度を機械のせいにしたくない、とも。ひとつひとつの言葉に、パン職人の矜持がにじむ。

知名度が全国区となり、出店や催事のオファーは数えきれないほど舞い込んだ。地方発送の問い合わせも毎日のようにある。それらが叶わない理由は明快。「やっぱり、手渡しでないとあかんのです」

金・土曜には予約で完売することも。この札が出ていれば購入可能だ

いよいよ窯から店頭へ並ぶパン

ふくよかな香りとともに、窯が開かれ、食パンが窯から出された。型から外し、山の部分にバターを塗ると、パチパチと小気味いい音が弾ける。「この音は、うまいこと焼けた証拠なんです」と目を細める竹内さん。「パンの産声ですよ」。産まれたてのパンは、すぐさま店頭へ。焼き上がり時間を知っているお客さんが、待ち構えたように次々と買い求め、うれしそうに抱えて帰っていく。その光景を、竹内さんは穏やかな眼差しで眺める。中には、4世代にわたるファンも。まさに手から手へ、ベーカリーの原点たるあり方だ。

パンが焼きあがって店頭に並ぶまでは1分ほど。棚いっぱいのパンが飛ぶように売れていく

半世紀近いキャリアをもちながら、竹内さんは言う。「100点満点のパンがどういうものか、いまもわかりません。毎日が新しく、毎日が素人のような気持ちですよ」。パンもその人柄に似て、まっすぐできれいな味がした。

Yahoo!ロコフロイン堂
住所
兵庫県神戸市東灘区岡本1-11-23

地図を見る

アクセス
岡本(兵庫県)駅[出口]から徒歩約0分
摂津本山駅[北口]から徒歩約4分
青木駅[出口1]から徒歩約19分
電話
078-411-6686
営業時間
月~土 08:00~19:00
定休日
毎週日曜日、祝日
口コミ・写真など

※この施設の情報はYahoo!ロコから提供されています。

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※この記事は『別冊Discover Japan ニッポンの美味しいパン(P44)』を元に再編集・構成されたものです。掲載している情報は2016年3月25日時点のものです。予告なく変更される可能性もありますので事前確認をおすすめします。

この記事を書いたライター情報

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年間600冊以上の雑誌・ムック・書籍を出版する出版社。動画、ウェブ、イベント、飲食店などを提供するコンテンツクリエイター集団でもある。バイク、自転車、サーフィン、釣り、登山、ゴルフなどの趣味や、ファッション、旅、飲食、暮らし、などのライフスタイルに強い。写真とデザインにこだわる。

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