岐阜・中津川 杜氏の人柄を映す地酒 恵那醸造株式会社「鯨波」

2018/02/12

岐阜・中津川 杜氏の人柄を映す地酒 恵那醸造株式会社「鯨波」

酒米「ひだほまれ」の旨味を引き出したものや、もろみを荒く濾したフルーティーな「おりがらみ」、さっぱりとした冷酒「夏吟」などをラインアップ。小さな蔵元でありながら、全国のファンが「鯨波」を待ちわびる。杜氏・長瀬裕彦さんの後を追うと、素朴ながら情熱的で深い情に溢れた人柄が見えてきた。

中広

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自然の中で始めた酒造り。江戸後期から続く老舗銘柄

二ツ森山の中腹・標高約600メートルに位置し、人々に「天空の酒蔵」と呼ばれる恵那醸造株式会社。毎年12月上旬ともなると、「しみる」と表現するほど冷え込む。年明け頃には、日中でも蔵内の気温が1~2℃になるという。水は貯まれば凍てつき、40~50センチほどの大雪に見舞われる時もある。

そんな人里離れた蔵に足繁く人々が訪れるのは、7代目蔵元であり、杜氏を兼任する長瀬裕彦さんの温かい人柄があってこそ。きりりとした眉の下からのぞく大きな瞳で相手の目をまっすぐに捉える姿は、誰にでも好感を抱かせる。そんな蔵元杜氏は、自身の蔵の主要銘柄「鯨波」をたいそう気に入っている。

「蔵から見渡す山間部に流れる雲を波にたとえ、鯨の泳ぐようだと見立てたのが由来です。創業した1818年は江戸後期。鶴や桜などが銘柄に採用されがちなのに、あえて鯨とは。先人のロマンには感心します」。そんな「鯨波」は取材時、ちょうど搾りの時を迎えていた。

ラベルを貼るのも手作業と、随所に手仕事が光るのは恵那醸造の特色。一瓶ごとに丁寧な仕上げが施され、送り出される

みずみずしい新酒の香りに包まれた仕込み蔵の一角では、酒をたっぷり含んだもろみを入れた袋と鉄板が交互に積み重ねられ、染み出た酒が槽口から静かに滴り落ちていた。「圧搾機を使うほどの生産量はありません。だからといって、旧来の手搾り方法『佐瀬式』では大変な労力がかかります。そのため、これを改良した『八重垣式』を採用しています」。「適度な香りがありつつも、流れるように入っていく酒」を目指す、「鯨波」のふくよかな旨味とかぐわしい香りの一端を支えるのが、全国でも珍しいこの手搾りなのだ。

長瀬さんの1年は多忙を極める。冬の造りが終わると、杜氏の研修会のため岩手や東京へ出張し、合間を縫って全国各地の取扱店を飛び回る。蔵元杜氏の人当たりの良さと腰の低さ、そして、その素朴な人柄にはちょっと似合わない活発なコミュニケーション力。それらすべてを、より旨い「鯨波」を造るために注ぎ込んでいる。

岐阜駅前広場で開催されたイベント「岐阜の地酒で乾杯」では、日本酒ビギナーの参加が多く、酒や蔵へ寄せる関心は高い。近年、地酒に注目が集まっているようだ

小さな蔵を生かそうと杜氏という険しい道へ

蔵元を経営する父・規男さんの長男として生まれ育った長瀬さんにとって、酒は子どもの頃から身近な存在だった。冬にやってくる杜氏や蔵人と夜な夜な将棋にふけったのは、今となっては良い思い出だ。

「蔵人はいわば遊び相手でしたから、実は酒造りに興味がありませんでした。高校卒業後は、中央大学経済学部に進学してプログラマーとして就職したんです」。それでも、ものづくりのおもしろさに惹かれて帰郷したのが、30歳の時。父親と同じ経営者の立場で、酒造りの職人たちに酒を造ってもらうつもりだった。しかし、当時はバブル崩壊直後。小さな蔵を後世に残すには、自ら杜氏になる決心を固める以外に方法はなく、社外の杜氏のもとで6年間修業し、資格を得た。しかし、一通り酒造りについて学んでも、スタートラインに立ったに過ぎなかった。

旧来の「佐瀬式」にさらに改良を加えた搾り方法「八重垣式」。金属の板に挟まるもろみ袋の中には、酒をたっぷり含んだもろみが詰まっている

「稲の苗が伸び、育ち、実る。これを収穫して仕込み、飲む。そんな生き物たちの営みが愛おしくて仕方がないんです」。

酒造りの初期段階である酒米の「蒸し」は、その後の麹づくりにつながる重要な作業。その年の酒米の出来を鑑みながら、慎重に蒸し上げられる。酒造りは理論の世界だ

「自分としては、10年目でもビギナーだと思っています。造り始めたばかりの頃には、途中で発酵が止まったり、目標とする味わいに到達しなかったりと幾度も失敗がありました。酒造りに何度も取り組んでようやく、勘どころがわかってくるものです」。

キャリア15年となった今では、酵母が好む麹の製法や温度管理にも精通してきた。それでもなお、酒造りの奥深さには翻弄されるばかり。「その年の酒米の出来により、含まれる水分の量は違います。予測した上で『浸漬』『蒸し』での吸水量を調整し、麹をつくります。それでも、麹の温度が目標温度まで達しない時があり、苦悩の連続です」。だが、そんな事細かなハンドリングが苦にならないのは、長瀬さんが無類の酒好きだからだ。

蒸し上がった酒米はすぐに放冷に入る。岐阜県の酒造好適米「ひだほまれ」の中でも恵那産と飛騨産を主力米として使用。発酵力が強く温度管理が難しい「じゃじゃ馬」の異名をとる岐阜県独自の「G酵母」も積極的に採用

「最近、たった2反ですが自社水田での酒米づくりを始めました。稲の苗が伸び、育ち、実る。これを収穫して仕込み、飲む。当たり前のようですが、そんな生き物たちの営みが愛おしくて仕方がないんです」。「鯨波」を飲むと、「しみる」寒さが春の雪解けのようにほぐれるのは、かくも酒造りに人生を賭ける杜氏がいるからなのだ。

「恵那醸造の酒は、バックボーンを見てもらった方が早いんです」。そう話す長瀬さんの言葉に、深く納得した。悠々と海をたゆたう鯨を思わせる、蔵元杜氏の穏やかな温もりこそが、「鯨波」の旨味そのものなのだと。

仕込み蔵の中にはタンクが密に並ぶ。生産量は180石(一升瓶換算で約1万8千本)と決して多くはない
Yahoo!ロコ恵那醸造株式会社
住所
岐阜県中津川市福岡2992

地図を見る

電話
0573-72-2055
口コミ・写真など

※この施設の情報はYahoo!ロコから提供されています。

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