埼玉・鴻巣市 江戸時代に生まれた庶民のためのお守り

2018/02/20

埼玉・鴻巣市 江戸時代に生まれた庶民のためのお守り

江戸時代、埼玉県鴻巣市で作られ全国に広まった赤物は、流行り病を避け、子どもの健やかな成長を願った庶民のお守りだ。150年にわたって赤物作りを続けてきた太刀屋人形で、今も技術を守る大塚文武さん、雅道さん親子に話を聞いた。

中広

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赤物に込められた人々の願い

江戸時代から受け継がれる桐塑製玩具の製作技術

「古来から日本では、赤が魔よけの色だと言われていました」。

赤いだるまを手に話すのは、鴻巣市にある太刀屋人形の12代目・大塚文武さん。赤物作りに携わって50年のベテラン職人だ。

赤物とは、全体を赤く塗った桐塑製玩具の総称。江戸時代、鴻巣市から北本市にかけての一帯は、桐だんすの名産地として知られていた。たんすをあつらえる際に、おがくずが大量に出る。これに、でんぷんから作った正麩糊を混ぜて練ったものを桐塑と言い、型に詰めて抜いた人形や玩具が、作られるようになったのだ。

桐塑のひな人形の頭は、やがて全国に鴻巣雛として名を馳せていく。

「立派なひな人形が買えない庶民にとって安価な赤物は、子どもの玩具であり、お守りだったのです」と、文武さんは続ける。

太刀屋人形・12代目の大塚文武さんは慣れた筆さばきで、だるまの表情を決める眉やひげを描いていく

日本では江戸時代に疱瘡(天然痘)の流行で、多くの人が命を落とした。病は疱瘡神がもたらすと信じられ、子どもを守るために赤いものを身につけさせ、身の回りに置いて退けようとしたのだ。

赤物の形は、だるま獅子頭、海老、招き猫など、縁起の良いものが喜ばれた。健康で力強く育ってほしいという、親から子への気持ちを託したのだろうか、全身を赤く塗られた金太郎が、熊と相撲をとったり鯉を押さえたりするものもある。文武さんによれば魔よけだけでなく、端午の節句の祝いにも使われたそうだ。

当時の玩具には、張り子や土人形もあったが、赤物は軽くて丈夫なため運びやすく、中山道沿いを中心に、遠方まで広まっていった。明治時代から大正時代にはさらに発展し、第二次世界大戦後には海外輸出もされる。しかし、プラスチック製の玩具の流行とともに、生産量と製作者は減少してしまった。現在は鴻巣市内の2軒で作られるのみだが、2011年に、鴻巣の赤物製作技術は、国の重要無形民俗文化財の指定を受けている。

鯛や招き猫、金太郎など、どれも全体を赤く塗っているのが赤物の特徴だ

今も昔も変わらずに人々が赤物に託す願い

太刀屋人形が赤物を作り始めたのは150年ほど前、江戸時代の終わり。大塚さんは25歳頃から50年間、父である先代の元で赤物作りに携わってきた。技術の継承については、「先代からの指導は、なかったですね。見よう見まねで覚えました」と笑う。現在同店には、大塚さんのほかに3人の職人がいる。うち一人は、息子であり13代目の雅道さんだ。自身も子どもの頃から父親の仕事を見て育ったといい、「私も、誰からも教わってはいないですね」と、笑顔を見せた。

文武さんによれば、赤物はもともと、農家が冬の閑散期に作っていたもの。それを今は1年がかりで行う。春から夏にかけて、1年間に作る分の型抜きをすべて終わらせ、8月の半ばにそれらを並べて天日で乾燥させる。乾いたら、型の合わせ目からはみ出た桐塑を削って整え、底の部分は紙でふさぐ。下地の白い胡粉を塗るのは秋になってから。その上から全体を赤く塗り、分業して顔や装飾を描く。

13代目の雅道さんは、赤物作りに携わるようになって10年目

作った赤物は神社へ納められ、初市に並ぶ。干支の動物や招き猫、だるまは不変の人気があるそうだ。「毎年、一番多く作るのは、だるまですね」と、文武さん。だるまの型は、サイズ違いで10種類あり、なかでも注文数が多いのは、大人の手のひら大だ。「これの原型は、先代が木を彫って作りました」。

桐の木を彫って作った原型はタネという。タネ一つを数世代にわたって受け継ぎ、多くの赤物が作られるので、一番の財産とされ門外不出だ。同店ではいまも、一部に昔からのタネを使い、年に万を超える赤物を手作業で作る。

鴻巣の赤物製作技術を持つ、太刀屋人形の職人の皆さん。前列左が大塚文武さん、その後ろに雅道さん

近年では、カラフルな色の赤物も作り始めた。人々の生活スタイルの変化とともに、願い事も長寿や健康、学業、恋愛など多様化してきたからだ。昔の人の祈りが赤いお守りを生んだように、さまざまな願いを支えるために色を変えた。けれど製法は昔のままだ。

「赤物を作る人は減ってしまいました。古い技術をどう残していくかが課題だと思っています」と、雅道さん。

赤くない赤物はその第一歩だ。いずれ、思いがけない形の赤物が生まれる場合もあるだろう。色や形が変わろうとも、赤物は人々の込めた願いを支え、不安を払っていくのだ。

文武さんが使う筆の穂先は、線の強弱をつけやすいように一部を切ってある
Yahoo!ロコ太刀屋人形
住所
埼玉県鴻巣市人形3丁目1-51

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アクセス
鴻巣駅[東口]から徒歩約17分
鴻巣駅[西口]から徒歩約19分
電話
048-541-0568
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