特別対談 樋口真嗣監督×神田松之丞氏『ひそねとまそたん』後編

特別対談 樋口真嗣監督×神田松之丞氏『ひそねとまそたん』後編

2018/04/12

アニメファンのみならずと注目を集めている完全オリジナルアニメ『ひそねとまそたん』。本作品で、アニメ初監督をつとめた樋口真嗣氏と声優に初挑戦する講釈師・神田松之丞のスペシャル対談の【後編】がスタート!

Yahoo!ライフマガジン編集部

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監督と講談師の二人には、絶滅危惧という共通項があった!?

『ひそまそ』で樋口監督が講談師・神田松之丞さんを「まそたん」の声に抜擢した経緯から、アニメをきっかけに岐阜がにわかに盛り上がっているというのが前編のトーク。さらに話は進んで……。

©BONES・樋口真嗣・岡田麿里/「ひそねとまそたん」飛実団
樋口真嗣監督
樋口真嗣監督
「それにしても、今日は松之丞さんを前にして話すのが恥ずかしいなあ」
神田松之丞氏
神田松之丞氏
「どうしてですか?」
樋口真嗣監督
樋口真嗣監督
「この半年くらい、録音した神田さんの声をどこに使うか聞いて選んで、タイムラインに貼り付ける作業も僕がしているんですが、ラジオを含めていちばん耳にしているのが松之丞さんの声なんです。だから、話し方がものすごく影響を受けてる」
神田松之丞氏
神田松之丞氏
「本当ですか(笑)?」
樋口真嗣監督
樋口真嗣監督
「だから、本人を前にしてこういう喋り方をしているのが、ものすごく恥ずかしい。普段はそんなことないのに、テンションが上がると『松之丞化』しちゃって、しかも本人の前で話すという、もう、どうしてこんな目に遭わなくちゃいけないんだろうって、いま思ってるところです」
神田松之丞氏
神田松之丞氏
「監督、ちゃんと『ひそねとまそたん』の宣伝しましょうよ(笑)」
樋口真嗣監督
樋口真嗣監督
「いや、『シン・ゴジラ』のときは宣伝しないのが宣伝になるという方針で、ほとんどこういう場がなかったし、『見どころを教えてください』って聞かれても、どう答えたらいいかわからなくなっちゃってて」

二人にとっての聖地とは

ーー監督、とりあえず、お話を聞かせてください!

「あ、すみません!」(樋口監督)

ーーでは、対談に戻りましょう(笑)。『ひそねとまそたん』では、航空自衛隊岐阜基地が舞台になっています。今回はお二人のキャリアにとって大切な「舞台」、「場所」についてお話を聞いてみたいんです。

樋口真嗣監督
樋口真嗣監督
「やっぱり東宝の撮影所でしょうね。僕が中学、高校のころ、特撮が好きすぎて、東宝のスタジオに忍び込んでいたんです」
神田松之丞氏
神田松之丞氏
「いい時代だなあ」
樋口真嗣監督
樋口真嗣監督
「忍び込んでいるうちに撮影所のおじさんと仲良くなってね。そのうち、買い出しを命じられるようになる。『パシリ』ですよ。いろいろなものを頼まれたんだけど、自分としてはおいしいと思っていたケンタッキー・フライド・チキンをバケツで買っていったら、おじさんは食べたことがなかったことらしくて、『こんなにおいしいものがあるのか!』と驚いてた(笑)」
特撮が好きすぎて東宝スタジオに忍び込んだ樋口監督
神田松之丞氏
神田松之丞氏
「ひょっとして監督は、そのまま居ついちゃったんですか? 試験とかなかったんですか?」
樋口真嗣監督
樋口真嗣監督
「ない、ない。僕は1965年生まれですけど、1980年代前半には、東宝の特撮というのは絶滅危惧種なんてもんじゃないですよ。壊滅してたんです」
神田松之丞氏
神田松之丞氏
「いまの日本では講釈師が絶滅危惧職ですよ(笑)。でも、そういう時期だったからこそ、撮影所のおじさんたちは、樋口さんがかわいかったんでしょうね。そういう子が来てくれたことが」
樋口真嗣監督
樋口真嗣監督
「そうだったんだと思います」
神田松之丞氏
神田松之丞氏
「監督は本当に筋金入りなんですね。その経験が『シン・ゴジラ』につながっていくわけですから、人生って面白いなあ」

ーー松之丞さんにとっての大切な場所、聖地みたいなところはありますか。

神田松之丞氏
神田松之丞氏
「そう訊かれてパッと思い浮かぶのは、新宿末廣亭という寄席ですね。そこで僕は師匠である神田松鯉に名前をつけてもらい、『松之丞』になったので」
高座にあがる神田松之丞氏。二ツ目ながら独演会のチケットは即完売、「いまチケットの最も取れない講談師」と言われるほどの人気だ(写真/橘 蓮二)
樋口真嗣監督
樋口真嗣監督
「どういうタイミングで名前をもらうものなんですか?」
神田松之丞氏
神田松之丞氏
「寄席というのは10日間興行なんですが、その時は師匠が毎日高座に上がっていて、僕はまだ本名の古舘克彦として楽屋に入っていたんです。そうしたら、千穐楽を前に師匠が、『古舘くん、最後に名前をつけてあげよう』と言ってくれたんです」
樋口真嗣監督
樋口真嗣監督
「それはドキドキするだろうなあ」
神田松之丞氏
神田松之丞氏
「決してきれいとはいえない末廣亭の楽屋で、師匠から和紙に書かれた『松之丞』という名前を渡されたんです。その瞬間、僕は神田松之丞になった。その意味で、新宿末廣亭はある意味、僕が生まれた場所なんです」

ーー普通に生きていたら、本名とは違う名前をもらうということは、まずないですもんね。

神田松之丞氏
神田松之丞氏
「この業界、名前を頂戴して今日からこの名前で生きていけって、なんだか『千と千尋の神隠し』みたいですよね(笑)。師匠から名前をいただいたとき、楽屋ではテレビがガーガーと砂嵐を映し出していたのも覚えています。楽屋には、漫談の出番が終わった国分健二先生がいて、ビールを飲みながら、『俺はすごくいい場面を、目にしているんだろうなあ』と言っていたのを、今でもありありと思い出せるんですよ」

ブースの中での格闘

ーーお二人とも、キャリアの原点になった場所が大切な場所になっているんですね。今回はブースが仕事場所になったわけですが、なにか印象的なことはありましたか。

神田松之丞氏
神田松之丞氏
「監督はブースの中で熱かったですね。体温が(笑)。いや、とにかく熱量が半端なかった。監督自ら竜のポーズまでしてくれたんですが、でも、ブースにいる誰もがそれに対して突っ込んじゃいけない雰囲気になってて。僕だけひとり、ちょっと笑いそうになってましたけど(笑)」
樋口真嗣監督
樋口真嗣監督
「なにか、体を使って伝えたくなってたんですよ」
神田松之丞氏
神田松之丞氏
「監督の姿を見て、作品を作るときはこれだけ熱を入れるものなんだな、ということを肌で感じたわけです。自分も講談を一生懸命やってるつもりですけど、講談には台本がありますからね。『ひそねとまそたん』では、作品作りのいちばん最初の部分に立ち会わせてもらって、本当に勉強になりました」

――監督の要求は、難しかったですか?

収録では、松之丞氏に監督の手書の文字台本が渡された
神田松之丞氏
神田松之丞氏
「監督が求めている音を、僕は意図して出せないんです。声優に関しては、素人だから。『もうちょっと高い音が欲しい』といわれて、体のどの器官を動かせばいいかがわからない。即興でやっていて、監督が時々『今、いいの出た。これ、声優さんにはできないですよ。もう一回お願いします』っていわれても、もう一度できない(笑)。技術がないから再現性がないんです。でも、その瞬間を録音してくれてるから安心してましたけど」
樋口真嗣監督
樋口真嗣監督
「ところがそのとき、僕が「それですよ!」と言ってるのがかぶってて……」
神田松之丞氏
神田松之丞氏
「えーーーーーっ!」
樋口真嗣監督
樋口真嗣監督
「後で聞き直して、かぶってるのがわかったとき、自分に向かって『死ね、このバカ!』って思うわけです。どうして、一拍置いてから『いいですよ!』っていえないんだ、このバカって。でも、今の録音技術で、僕の部分だけは削除できました」
神田松之丞氏
神田松之丞氏
「いやー、それはそれは良かったです」

「いまやってる仕事が映画だったら映画に誘ってた(笑)」

ーー松之丞さんは苦戦したことをお話されてますけど、監督から見て、松之丞さんが「プロ」だなと感じられた瞬間はどんな時ですか。高座の話でもいいです。

樋口真嗣監督
樋口真嗣監督
「初めて松之丞さんの講談を聞いて、ものすごいものに出会ってしまったという衝撃があったんです。まず、マクラがあって、そこから一気に本編に入るじゃないですか。あそこは何か決まり事があるんですか?」
神田松之丞氏
神田松之丞氏
「ないですね。話の流れで入っていくんで」
樋口真嗣監督
樋口真嗣監督
「そうなんですか。松之丞さんがマクラでみんなを笑わせておいてから、張り扇と扇子をコンッ! って叩いてから本編に入る。あそこがカッコ良くて、本当にゾクッとしましたね」
神田松之丞氏
神田松之丞氏
「本編に入った瞬間、確かに空気が変わるんですよ。僕だけじゃなく、お客さんも変わるというか」
樋口真嗣監督
樋口真嗣監督
「この瞬間を、自分は記憶に残さないといけないと思ったんです。それで、独演会が終わって松之丞さんに会いに行くまでの間に、『自分の人生の中で、あとどれくらい松之丞さんと仕事ができるんだろう?』みたいなことを考えていたら、とにかくいま仕事をしなきゃいけないと思ったわけです。自分の目の前に『ひそねとまそたん』があって、『これなら行ける!』と気づいた。もしかして、いまやってる仕事が映画だったら、映画に誘ってたんじゃないですかね」
神田松之丞氏
神田松之丞氏
「ああ、俳優デビュー逃がしたなあ(笑)。監督、オファーお待ちしてます」
樋口真嗣監督
樋口真嗣監督
「また、一緒に仕事しましょう!」
 
樋口真嗣

樋口真嗣

特技監督・映画監督・映像作家

神田松之丞

神田松之丞

講談師

『ひそねとまそたん』

『ひそねとまそたん』

4/12よりTOKYO MXほかで放送スタート!

樋口真嗣(総監督)・小林寛(監督)・青木俊直(キャラクター原案)・伊藤嘉之(キャラクターデザイン)・岩崎太整(音楽)を始め、豪華スタッフが全方位から盛りあげる愛と笑いと涙の現代日本神話!

取材・文/生島 淳 撮影・動画/竹内道宏・キンマサタカ(パンダ舎)

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