昭和の面影を残す椎名町の普通のすし屋…<br />
ところが普通じゃない!

連載

犬養裕美子のアナログレストラン【Vol.1〜20】

2016/04/19

昭和の面影を残す椎名町の普通のすし屋…
ところが普通じゃない!

“アナログ”はレストランジャーナリスト犬養裕美子が選ぶ「いい店」。作り手がその場できちんと料理をしていること。小さくても居心地のいい空間とサービス。かつ良心的な値段。つまり何でも人の手、手間をかけた「アナログ」で「アナ場」な店を紹介する。第3回は椎名町「松野寿し」。

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

控えめだけれど、仕事を惜しまない江戸前ずし

はっきり言っちゃおう。最近の都心のすし屋には興味がない。だって、どの店も同じ。カウンター8席前後のこぎれいな作りで、おまかせのみで予算はお酒も含めて2万円前後。そろいもそろって築地の高級まぐろ卸の本まぐろを使えることがご自慢。そしてこの本まぐろが高い客単価の免罪符になっている。

私は本まぐろなんかなくても、気軽に何カンかつまめる店がないかなと、ずっと思っていた。

そしてこの店、椎名町「松野寿し」を知った。これが大当たり。池袋の隣駅、椎名町駅の南口は駅前らしき広場も何もない。5分ほど歩き商店街を抜けた場所にある「松野寿し」の看板は、昭和そのまんまの店がまえ。

(左・外観)看板はひときわ目立つ。かつては、近くに漫画ファンの聖地「トキワ荘」があった。(右・内観)カウンター9席、小上がり2卓。昭和の頃の町のすし屋さん
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いつも優しい笑顔の野呂さん。魚河岸の隅から隅まで見て、その日の安くて旨いものを探してくる。これぞ“目利き”

「昭和44年に父が店を構え、私が二代目になります」という店主の野呂敏充さん(49歳)。

「父の元で10年ぐらい一緒に仕事をして覚えました。外で修業したことはないんです」(野呂さん)

30歳で店を引き継ぎ「あとはすべて独学です。都内のすし屋さんを食べ歩いて、自分で研究して」

赤酢のすし飯、自家製のガリ、玉子焼きなど、一つひとつをていねいに仕込む。見かけこそ古めかしい昭和の店だが、すしは平成の洗練さを幾分控えめに表現しているところが好ましい。野呂さんのすしは、いくつでも食べられる端正なすしなのだ。


昔ながらの“おきまり”と、今風だけど良心的な“おまかせ”

ここでは、“おきまり”でも“おまかせ”でも“お好み”でも、本当に“お好きなように”楽しめるのがいい。

“おきまり”とは、内容も数もお値段も「決まっているもの」。ここでは竹(握り5カン、玉子焼き)1500円、から獅子(握り8カン、巻物、玉子焼き)3200円まで4コースある。“おまかせ”はその日のいいところを選んで握り10カン、巻物、玉子焼きで3700円~。お酒を楽しむなら、ちょっとつまみを3~4品、それから“おまかせ”で。お酒もつまみも握りも十分に楽しんで7000円~1万円。

この値段を高いと思うか、安いと思うか。すしを食べなれた人ほど、驚いてくれるに違いない。

珍味4種盛り。穴子の肝、穴子のつくだ煮、赤貝のワタ、タコの頭
イカの卵。酒飲みにはうれしい、ひと手間かけた珍味を用意している
松2100円の一例(握り7カン、玉子焼き)。穴子、平目の昆布締め、赤貝のヒモ、スミイカ、小肌、車海老、メバチのヅケ、玉子焼き

懐かしさだけではない、
日常のごちそうがそこにはあった

あるすし屋さんをお連れした時のこと。まぐろはキハダマグロだった。

「これだよね。キハダも十分にウマイ魚なんだから、そのおいしいところを出せばいいんだ」

ほんと、すしは本まぐろじゃなくちゃいけないなんてことはない! 何より、こまめに築地を回って少しでもいい魚を、少しでも安く手に入れようと通うご主人の思いが、間違いなく味に出る。

どんどんつり上がるマグロの値段。それに乗じて銀座では握り3~4万円に! 一方で回転すしがもう、開店しなくなってきた。魚が高くて買えなくなったからだ。回転すしにだって、それなりの味や楽しさがあるのに。日本のすし文化はこの先どうなるのか。マグロがなくなる日が来たらおしまいなのか?

だからこそ「松野寿し」に来るとホッとする。ここには懐かしさだけではなく、誰もが楽しめる日常のごちそうが今も存在するからだ。

松野寿し

【住所】豊島区南長崎2-16-12
【アクセス】椎名町駅[南口]から徒歩約6分
東長崎駅[南口]から徒歩約11分
落合南長崎駅[A2]から徒歩約11分
【電話】03-3951-3588
【営業時間】11:45~14:00、17:30~22:00
【定休日】水曜
【予算】食べて飲んで一人7000円~

口コミ・写真など

※この情報は取材時の情報です。ご利用の際は事前にご確認ください。

この記事を書いたライター情報

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

東京を中心に地方や海外の食文化、レストラン事情を最前線で取材。ファッション誌から専門誌まで数多くの雑誌で連載を持ち、その店の良さ、時代性をわかりやすく解説。特に新しい店の評価に対する読者の信頼は厚い。食に関わる講演・審査員など多数。農林水産省顕彰制度・料理マスターズ認定委員。

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