犬養裕美子のお墨付き!本格ガストロパブ、東中野「ビスポーク」

連載

犬養裕美子のアナログレストラン【Vol.41〜】

2018/05/25

犬養裕美子のお墨付き!本格ガストロパブ、東中野「ビスポーク」

“アナログレストラン”はレストランジャーナリスト犬養裕美子が選ぶ「いい店」。作り手がその場できちんと料理をしていること。小さくても居心地のいい空間とサービス、かつ良心的な値段。つまり人の手、手間をかけた「アナログ」で「アナ場」な店。第50回は東中野「ガストロパブ」。

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

日本のガストロパブは女性客多し

10数年前からロンドンでポピュラーになったガストロパブ(美食パブ=こだわった料理の気軽な居酒屋)。東中野に女性オーナーシェフのガストロパブ「ビスポーク」があることを散歩の途中、ふいに思い出し口開けなら予約なしでも入れるだろうと、たかをくくって18時5分に扉をそっと開けた。
するとカウンターの中から野々下レイさんが「お電話いただいた方?」と尋ねてくる。ギクッ! すでに8割がたが客で埋まっており、残りの席も予約が入っているという。初めて行く店を甘く見てはいけない。

外観。窓をのぞけば、あたたかな店内が待っている。店名は、洋服や靴をお客さんの要望に応えて作る店の意

その日はあきらめ、後日予約を入れて、カウンター席に座って思った。これは予約で満席なはずだ。メニューは日替わり、小さな黒板にその日のメニューが書かれている。前菜というかワインのつまみというか魚や野菜の料理に、メインの肉料理。魅力的な組み合わせがセンスの良さを語っている。料理はほとんど1000円以下パンやデザートのケーキもホームメイドだ。

黒板メニューは上から前菜、メイン、デザートの順番に並んでいる。生ビールは「バスペールエール」。1パイント1000円。ワインはグラス600円~

10席のカウンター席を占めているのは女性が8割、それも一人の客がほとんど。ワインやビールを飲みながら、その日のおすすめ料理を楽しんでいる。カウンターの中では野々下さんが客と話しながら、手際よく料理をしている。
「まさか自分が料理人になるなんて、私が一番びっくりしています。ロンドンに渡ったのは音楽をやるため。その道ではそこそこの成果を得たと思うけど、もっと大きな収穫は料理の面白さに目覚めたこと」と野々下さんは語る。

落ち着いた雰囲気のインテリアは、イギリスのパブの切リ抜きを見せ、イメージを伝えて仕上げた

初めて経験した料理が楽しくてしかたなかったという。帰国してフレンチで4年、その後、カフェ、大使館や、食堂などいろいろなところで働いた。野々下さんは独立なんて考えもしていなかったが、勤めていたカフェが店を閉めることになった。
そのとき、そこに来ていたお客さんが「野々下さんの料理を食べられなくなるのは困る! みんなでお金を出しあって店を始めたら?」と提案してくれた。「世の中にそんな酔狂な人がいるなら、店を出してもやっていけるかも」と。そこで東中野に2012年2月に店を構えた。

前菜・アジのグリーンレモンマリネ、バジルのソース 750円。皿は1人前の小さなオーバル型。青魚はイワシの塩焼き、サバのスモークなどを素材としてよく使う

もともと野々下さんの料理が大好きなファンに後押しされて独立したのだから、ファンクラブとでも言おうか。本人は、儲(もう)けようとか、店を大きくしようなどの欲はまったくない。
「店名は、洋服や靴をお客さんの要望に応えて作る店という意味。うちの料理は数こそ少ないけれど、これをベースにこうして、ああしてと相談してくれればできるだけ要望に応えたい」と野々下さん。
そんなわがままも聞いてくれて、こんなに安い値付けでいいのでしょうか? 「ええ、私の値付けの仕方は、私が食べていけるぐらいでいいの。できるだけ長くこの店をやりたいから」。

ソーセージ&マッシュ 1250円。イギリスに初めて行った時、ホテルの朝食で出たソーセージのおいしさにカルチャーショックを受けた。その味を再現

常連客によく言われるのは「メニューは3つだけでもいいから、お店を続けて! 集まる場所がなくなっちゃう」。みんなが心配しているのは、無理して体をこわし店を続けられなくなってしまうこと。それだけ、この店が稀有(けう)な存在なのだ。

ビーツと自家製フレッシュチーズのサラダ 650円。ビーツの濃厚な味わいにさわやかなチーズ、香ばしいローストアーモンド。このバランスがヨーロッパっぽい

「私の料理は、私の中のおいしい記憶の再現」と野々下さんは言う。そのためすべてが手作りドレッシング、マヨネーズ、ピクルス、サラダに使うチーズまで何もかも自家製。小さなお店でも、やっていることはレストランと変わらない。だから誰もが野々下さんの料理に感動し、また、食べに来たくなるのだ。
「最近はわざわざ遠くから来てくださる方もいるんですよ。この間は九州から来た方も」。

野々下レイさん。「おいしいものを食べて、飲んで。気分よく帰ってくださいね」

実は昨年出版された著書『おいしいもの好きが集まる店の全部、自家製』(講談社)で、レシピを公開している。著者本人が作った料理を食べてどんな味になるのかを確認したい、という熱心なファンも多いのだ。
でも私は、フィッシュ&チップスや、自家製ハムを挟んだイングリッシュマフィンなどはレシピを知りたくなるけれど、自分で作ってみようなどという無駄な抵抗はやめようと思う。自分で作るより(失敗の可能性が高いので)ちゃんと予約してここで食べるに限る!

ちなみに最後のデザートがガツンとインパクト大! チーズケーキやタルトなど、しっかり甘いのがうれしい。
あれこれ食べて一人5000円弱。ガストロパブならではの気軽なお値段に感謝!

ミルク&ハニーパイ1切れ500円。このシンプルな組み合わせだけでおいしさを想像できちゃう。デザートが焼き菓子というのも好ましい
Yahoo!ロコビスポーク
住所
東京都中野区東中野1-55-5 土田ビル1F

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アクセス
東中野駅[西口(南側)]から徒歩約1分
東中野駅[東口(南側)]から徒歩約3分
落合(東京都)駅[2]から徒歩約8分
電話
03-5386-0172
営業時間
18:00~23:00
定休日
水曜日、日曜日
口コミ・写真など

※この施設の情報はYahoo!ロコから提供されています。

この記事を書いたライター情報

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

東京を中心に地方や海外の食文化、レストラン事情を最前線で取材。ファッション誌から専門誌まで数多くの雑誌で連載を持ち、その店の良さ、時代性をわかりやすく解説。特に新しい店の評価に対する読者の信頼は厚い。食に関わる講演・審査員など多数。農林水産省顕彰制度・料理マスターズ認定委員。

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