犬養裕美子のお墨付き!ベテラン店主の熟練握り「鮨 あさづま」

連載

犬養裕美子のアナログレストラン【Vol.41〜】

2018/09/24

犬養裕美子のお墨付き!ベテラン店主の熟練握り「鮨 あさづま」

“アナログレストラン”はレストランジャーナリスト犬養裕美子が選ぶ「いい店」。作り手がその場できちんと料理をしていること。小さくても居心地のいい空間とサービス、かつ良心的な値段。つまり人の手、手間をかけた「アナログ」で「アナ場」な店。第56回は目白「鮨 あさづま」。

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

“お決まり”はウェルカムのサイン

JR目白駅を降りて山手線沿いに池袋方面へ歩くこと約3分。さわやかな白い暖簾(のれん)が風に揺れているのが目に止まった。「あ、寿司屋ができた」
店頭にはお品書きがあって、夜のコース6000円~と、握り3500円(8カンと巻物1/2本)、5000円(10カンと巻物1/2本)と書かれている。「料理もできる寿司屋さんが独立したんだ。お決まりがあるのもいいな」と思い、とりあえず昼に行ってみようと心にとめておいた。

目白「鮨 あさづま」。白い暖簾が風にたなびく

ひと昔前、寿司屋には客が食べたいものを1カンずつ注文する“お好み”か、手早く食べられる握りの“お決まり”(8カンに巻物1/2本)がどこにでもあった。“お決まり”は、白身、光物、貝類、マグロ(赤身と中トロ)、甲殻類、アナゴ、卵焼と言ったコースが一般的で、季節によって内容は違う。

ところが、30年ほどまえから都心の寿司屋は “おまかせ”が基本になった。お酒を飲むことを想定して、つまみ数種類と8~10カンの握りが出て15000円(西麻布や銀座だと2万円~3万円)が相場だろう。原則的に要予約だから、これだとふと食べたくなって気軽に寿司をつまむこともできない。寿司はもともと屋台の立ち食いで始まったいわば江戸のファストフードだ。私は高額な寿司屋には近づかないが、こうした新しいのに良心的な値段の店を見ると期待が膨らんでしまう

8カン。中トロ、赤身、白身(コチ)、イカ、小肌、アジ、赤貝、アナゴ、巻物(キュウリ)1/2本。夜のお決まり3500円。お決まりを1人前食べてからお好みで追加するのが、好きなネタも味わえてリーズナブル

後日、ランチにおじゃました。ランチはさらに安く2000円(夜の8カンに巻物1/2本と同じ。現在は日曜の昼のみ営業)。握りは小ぶりだが、口の中でネタとすし飯が塩梅(あんばい)よくほぐれ、最後にほどよい余韻を感じさせる。特に赤身のすっきりしたキレがいい。これでこの値段ならなんの文句もない。

専門学校在学中からアルバイトで飲食店に入り卒業後は「新宿ヒルトン」などで修業を重ね、台湾でも2年半、技術指導を行う。白金「箒庵(そうあん)」、リッツカールトン東京「ありた」などで料理長を務める

店主の朝妻吉郎さんは、ホテル内の寿司店で修業し、日本料理店も経験。独立前は、リッツカールトン東京「ありた」で料理長を勤めていたほど。「次は自分の店を出すか、ドバイのホテルの料理長になるか、二者択一を迫られて考えていたんですが……子供のことを優先させてしまって」

左から太刀魚の炙(あぶ)り、金目の炙り。ガリも自家製。8カンにプラス2カンのネタ

そうですよね。実はお店に入った時から気になっていたのだが、カウンター席の奥、本来閉まっているであろう扉がなぜか開いていて、小さな男の子が遊んでいるのが見える。男の子も客席が気になるのか、時折扉の影からこちらをうかがっている。
独立して店を持つ料理人さんたち共通の悩みを私はよく聞いた。子供を預けて奥さんに店を手伝ってもらうか、奥さんが子供の面倒に専念して人を雇うか。なんと朝妻さんは、2歳になる息子くんと奥さんと一緒に仕事をすることを選んだ。

カウンター6席。静かに飲みたい人にはカウンター席がおすすめ
コチのみぞれ椀。夜の6000円コースより。醤油あんがほっこりした味

「人見知りしないので、ハイハイしながら客席に出てきてしまって、お客様のおひざにまでのってしまったことも。いつお客様が怒り出すかヒヤヒヤしましたね。幸い怒った方はいませんが。ご近所では『子供がいるよ』と話題になって、『うちも子供がいるんですが、連れて行ってもいいですか?』という方もいらして。住宅街でつくづくよかったと思います」。

ご主人も女将である奥さんも実に気持ちよく開き直っている。「でないとうち、店が開けないんで」。とご主人が笑えば、音大声楽科卒の女将さんが明るい声で笑い返す。

入口を入るとすぐ右手に4席、4席個室がある。合わせれば8席の個室に

たしかに昔は、こんな寿司屋さんがどの町にもあった。料理人にとって、仕事とは生きるための“なりわい”。それを間近に見て育つ子供は、いつの間にか親の仕事にあこがれを持つようになるはず。後を継ぐかどうかは別にしても、そうでないと、おいしい料理を作りたいと思う料理人がいなくなってしまう。その意味でも、息子くんがどう育つのか。勝手にその成長を見守りたくなる。

Yahoo!ロコ鮨 あさづま
住所
東京都豊島区目白3-14-18 目白ヒカリハイツ102

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アクセス
目白駅[出口]から徒歩約2分
池袋駅[西武南口]から徒歩約9分
雑司が谷駅[2]から徒歩約10分
電話
03-5906-5023
営業時間
ランチ(日曜のみ) 12:00~13:00(L.O.)/ディナー 18:00~22:00(L.O.21:30)
定休日
月曜
口コミ・写真など

※この施設の情報はYahoo!ロコから提供されています。

この記事を書いたライター情報

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

東京を中心に地方や海外の食文化、レストラン事情を最前線で取材。ファッション誌から専門誌まで数多くの雑誌で連載を持ち、その店の良さ、時代性をわかりやすく解説。特に新しい店の評価に対する読者の信頼は厚い。食に関わる講演・審査員など多数。農林水産省顕彰制度・料理マスターズ認定委員。

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