33歳にして回顧展を開催。小松美羽が語る「作品に込めた祈り」
2018/08/18
2018年9月2日(日)より、長野県軽井沢町の「軽井沢ニューアートミュージアム」で、現代アーティスト・小松美羽さんの個展が開かれる。新旧約100点の作品が展示される、またとない個展の見どころ、そして作品に込めた想いを小松さんに聞いた。
Yahoo!ライフマガジン編集部
小松美羽さんの歩みがぎっしり詰まった個展に
この個展のために作品を描く様子を動画で紹介!
出雲大社に絵画「新・風土記」を奉納、大英博物館が有田焼の狛犬「天地の守護獣」を所蔵、ワールドトレードセンターにライブペイント作品が常設展示されるなど、日本だけでなく、世界をまたにかけて活躍する気鋭のアーティスト・小松美羽さん。
そんな小松さんの旧作から新作まで約100点が一堂に会する、まさに回顧展ともいうべき「“The World of Prayer” MIWA KOMATSU 小松美羽展 〜祈り〜」が、2018年9月2日(日)〜9月30日(日)まで、「軽井沢ニューアートミュージアム」で開催される。
本展では、台湾、香港、ニューヨーク、ダラス、シンガポール、そして日本各地で開催された個展やライブペイントの作品を一度に鑑賞できる。
まずは本展の見どころを小松さんに聞いた。
- 小松美羽さん
- 小松美羽さん
- 「世界各地のコレクターさんから作品をお借りして、日本で未発表の作品もたくさんあります。新作が30〜40点、合計100点ほどになります。台湾にこもって描いた作品もたくさんあるので、ぜひ見ていただきたいですね。こうして自分の作品を振り返ってみると、『こんなにたくさん作ったんだ』と驚きました(笑)」
昨年だけで200点以上の作品を制作したという小松さん。その中には、500号という超大型の作品も含まれる。
- 小松美羽さん
- 小松美羽さん
- 「500号の作品は台湾で作りました。量産体制で制作しているコンテンポラリーの方もいらっしゃいますが、私は『祈り』を重視しているので、自分で描かないと意味がないんです。下地などを手伝ってもらうことはありますが、絵を描くのは自分でやっているので。本展で、また一つ、何かを伝えられたらと思っています」
ここからは、2018年7月、都内スタジオで行われた小松さんの強化ガラスを使ったライブペイントの模様を紹介しつつ、本人に作品に込めた想いを聞いた。
小松さんが絵を描く前に祈る理由とは
小松さんは、絵を描く前に祈りを捧げ、マントラを唱える。祈りにかかる時間は、その日そのときによって違う。
- 小松美羽さん
- 小松美羽さん
- 「土地の氏神様に祈っているんです。マントラを唱えることで、氏神様とつながることができるんですね。マントラを唱えている間は、いろいろなイメージが頭の中に入って来るので、ライブペイントでは、それをぶつけるようして描いています」
2015年以降は、海外での活動も増えた小松さん。国が違うと、氏神様もまた違うのだろうか?
- 小松美羽さん
- 小松美羽さん
- 「もちろん国が違えば氏神様も違います。私がモチーフとして描いている神獣も違うんですよ。例えば、東南アジアは東南アジアの龍の形、中国は中国の龍の形。日本は狼系が強いので、狼っぽい感じ。まるで動物図鑑のようですね(笑)」
- 小松美羽さん
- 小松美羽さん
- 「東京のアトリエでも、毎朝お祈りしています。祭壇があって、アガルパティーというんですが、お線香を炊いたり、ロウソクに火を灯すことで、祈りにつなげていくんです。お線香は狼煙(のろし)になるんですよ。『私は今、祈っているぞ』っていう」
子どもの頃の神秘体験。「だから狛犬を描く」
小松さんが神獣をモチーフにするのは、ニホンオオカミとの出会いに始まる。
- 小松美羽さん
- 小松美羽さん
- 「小さい頃、ニホンオオカミを見たんです。のちにテレビでニホンオオカミは絶滅していることを知って。でも、やっぱり身近にいるよなと思って(笑)。そんなある日、雪道でニホンオオカミと遭遇したんですね。あとを追いかけたんですが、よく見ると雪道に足跡がないんです。彼らは一体何だろうと思って調べたら、神社の狛犬のレリーフを依り代にして、あちらの世界に帰っている神獣だと分かったんです」
ところで、小松さんの狛犬の代表作といえば、2015年に大英博物館に所蔵された有田焼の狛犬だ。
- 小松美羽さん
- 小松美羽さん
- 「有田焼には400年の歴史があり、私のような新参者が『狛犬を作りたい』と言っても難しいものがありました。だから私は、東京から佐賀県の有田町まで何度も通って、職人さんとの関係を築いていきました。やがて作品への熱意が伝わり、狛犬がきれいに焼けるよう、職人さんが鋳込みや成型を工夫してくださるようになって。現地で仕事をするのはとても大切なことだと知りました」
本展には、大英博物館に所蔵された狛犬と同型同窯で焼かれた1対の狛犬が展示される予定だ。
小松さんが神獣を描くときのポイントを教えてくれた。
- 小松美羽さん
- 小松美羽さん
- 「神獣は『目』がポイントです。一番マシマシに描いています(笑)。神獣の目は、人の肉体ではなく、魂を見るんですね。この目が、人の魂に悪いものが潜んでいたり、悪いものが入ってくると、発見して排除してくれます」
- 小松美羽さん
- 小松美羽さん
- 「絵は最終的には誰かのところに飾られるものですよね? 私が神獣の目を大きく描くのは、その場所を聖域として守るように、という想いが込められています」
海外での活動を通じて得たもの
これまでニューヨークや台湾、香港などで個展やライブペイントを開催してきた小松さん。海外での活動を通して、彼女はどう成長し、変わっていったのだろうか?
- 小松美羽さん
- 小松美羽さん
- 「昨年は、ずっと台湾で絵を描いていました。それは言葉がうまく通じない環境で、『絵を描いてつながる』を実践したかったから。ある日、台湾のコレクターさんに、『私のことを台湾の父だと思ってくれ』と言われたときは、うれしかったですね」
一方、海外でライブペイントを行うとさまざまな収穫があるという。
- 小松美羽さん
- 小松美羽さん
- 「その土地その土地で違う神獣と出会えるので、いろいろな発想をいただき、広がっていく感覚があります。不意にいろいろなものが入ってきて面白いんですよ(笑)」
「祈り」と「色」をつなげた重要な作品
本展で最も注目を集める作品の一つが、出雲大社に奉納された「新・風土記」だ。
- 小松美羽さん
- 小松美羽さん
- 「『祈り』と『色』をつなげた初めての作品です。個展のテーマにつながる原点だと思います。ぜひ見ていただきたいです」
では、どんなことがきっかけで「新・風土記」を描いたのだろうか?
- 小松美羽さん
- 小松美羽さん
- 「神在月(かみありづき)に出雲大社さんを正式参拝し、『おにわふみ』をさせていただいたときに、人々の祈りの光が集まり、天に上っていくのが見えたんです。それから、『色を使うことは祈りにつながる』と考えるようになりました。今は人々の祈りを込めた色で神獣を描いています。そうすることで、人々の祈りをつなげられると考えています」
強化ガラスのライブペイントがいよいよ完成!
- 小松美羽さん
- 小松美羽さん
- 「強化ガラスに絵を描いたのは今回が初めて。祈りを捧げてマントラを唱えると、『原点の狛犬を描かなければ』と強く思いました。いつもはこれくらいのサイズなら40分ほどで描けるんですが、本作は1時間ほどかかりました」
本展では、なんと小松さんのライブペイントが見られる。初日の9月2日に開催され、作品はそのまま展示室に飾られる予定だ。目の前で繰り広げられる白熱のライブペイント、ぜひ生で体験してみてほしい。
小松さんが軽井沢のオススメスポットをご紹介
長野県出身の小松さんに、軽井沢の魅力を聞いてみた。
- 小松美羽さん
- 小松美羽さん
- 「軽井沢はオシャレで都会的な街というイメージがあります。東京からのアクセスもよく、新幹線に乗ればあっという間なので、大人はもちろん、小さなお子さんにも美術館に来てもらいたいですね。長野県は、全国で2番目に美術館やギャラリーが多いところです。小さい頃からアートに触れて、感受性を磨いてほしいです」
小松さんは軽井沢には車で行くことが多いという。
- 小松美羽さん
- 小松美羽さん
- 「実家の愛犬と一緒に遊べる施設がお気に入りです。休日は『わんわんドッグレース』などが開催され、犬を走らせて遊びます(笑)。軽井沢は飲食店のレベルが高いのもステキです。私のオススメは、おいしいお蕎麦が食べられる『川上庵』。このお店は何を食べてもおいしいですよ!」
軽井沢のオススメスポットを教えてくれた小松さん。個展をじっくり楽しんだあとに、ぜひ立ち寄ってみよう。
これほど多くの作品が一度に集まる機会は、二度とないかもしれない。ぜひこの機会に美術館へ足を運んで、小松さんが描いた神獣たち、そして作品に込めた想いを肌で感じ取って欲しい。なお、9月2日(日)〜5日(水)は本人が在館予定(※)だそうだ。
※9月4日(火)は定休日で休館
取材・文=樋口和也(シーアール) 映像:内海真人 写真:ZIGEN