身内が結婚して、すた丼を思い出した精神科医のつぶやき

連載

星野概念のめし場の処方箋【Vol.21〜】

2018/09/15

身内が結婚して、すた丼を思い出した精神科医のつぶやき

精神科医として総合病院に勤務する傍ら、文筆、音楽、ラジオなどマルチに働く星野概念が「食べに行く」という行為を通して、「こころ」に関する気づきをひも解く。

星野 概念

星野 概念

精神科医

世間で言う吊り橋効果ってどんなものなんだ?

こんにちは、精神科医の星野概念です。

この連載は、日常の食生活の中から僕が感じたり考えたりしたカウンセリング的要素をみなさんにご紹介するものです。

妹がついに結婚しました。その結婚式に参列して、なぜか想起された、すた丼の思い出。今回は主に僕ではなく妹の話です。

  

【目次】
1.すた丼の思い出と落とし前
2.誤帰属について思う


1.すた丼の思い出と落とし前

・家族愛とすた丼

今年の7月、京都で妹が結婚式を挙げました。

  

僕は、妹のうまくいかなかった恋愛を知っているからか、とても素敵なお相手と無事結婚できたことが嬉しくてなりません。

その喜びに関連する食べ物が

  

スタっ!

  

すた丼

です。

・恋愛受難の時期

もう何年も前、動物が好きだった妹は趣味に乗馬を始めました。僕と同じく、何をやっても長くは続かないタイプでしたが乗馬は別だったようで、恐らく生活費以外をほとんど乗馬に使っていたように思います。

  

その甲斐あってか、メキメキと上達し、ますます乗馬クラブに通う頻度が増えていきました。

そして、初級者として時期は早いながらも、気性の荒い馬にチャレンジしてみることにしたそうなのですが、動物はそんなに甘くはないということでしょう。

  

その馬は暴走し、止められなくなり、馬上の妹は死の恐怖さえ感じたそうです。

  

その時、サッとその馬に飛び乗り、王子的に妹を後ろから抱きかかえる形で手綱を操って妹を死の危機から救ってくれた乗馬指導員の方。

  

この方はまさに白馬の王子、ではなく、見た目は完全なるギャル男ルック。

当時の妹の男性の好みは、ボーダーが似合うような原宿系男子だったので、その指導員さんは真逆の風体です。

  

しかし、妹は恋に落ちました。

やはり、男は勇気です。

また、もしかしたらこの時、危機的な状況で感じたドキドキを、半ば誤って彼に対するドキドキと感じる、社会心理学で言うところの「誤帰属」が生じていた可能性もあります。世間でいう「吊り橋効果」などもこれの一つです。これについては後ほど解説します。

  

・しかし、恋、実らず

でも結局、妹のその恋は実りませんでした。

当時、頻繁に深夜に電話が鳴り、出て行く妹。

これは完全に「都合のいい女」化してるのではないか、と兄は心配していました。

  

そこで、野暮だと思いながら、いつもどうしているのか聞いてみたところ、電話がかかってきて言われることは毎回同じで

「今からすた丼食べに行こうぜ」

  

だったそうです。

え、なにその誘い方?

でも、好きな人からの呼び出しだから当然出て行っちゃうわけです。

そして毎回すた丼を一緒に食べる。

そして車で家まで送ってくれる。

こうして、深夜に男女が逢引きしているにも関わらず、すた丼を食べる以外何もなく、とても安全に家まで送り届けられるということが続いたのです。

  

妹は、何もされないことから、自分が大事にされていると解釈していました。

まぁ確かにそうかもしれません。でも、そうかもしれないけど、同じ男目線で考えると、ギャル男指導員さんの妹への対応は、可愛がっている同性の後輩にするようなものではないかと僕は感じました。

  

そしてある日

「大事にされすぎて辛い……」

と、今にも泣きそうな妹に僕は

「もうすた丼には行くんじゃねぇ!」

  

と、言い放ちました。

まぁ、それでもしばらくはすた丼していたようですが、次第に出て行く頻度も減ったので、自然消滅というか、彼とのすた丼関係には終止符が打たれたのでしょう。

  
  

・恋とすた丼に落とし前をつける

そんな妹が、オシャレで優しい、恐らく妹の好みに見合った男性と京都で挙式しました。

ちょうど記録的な大雨の日で、警報は鳴るし、たどり着けない人はいるしで大変でしたが、2人の幸せそうな姿は忘れられません。

  

その姿を見ていて、僕はここまで書いてきたすた丼エピソードを思い出していたのです。

そして先日、たまたま通りがかった

伝説のすた丼屋

に衝動的に入り、もう妹はほとんど思い出すことがないであろう、恋とすた丼の思い出に、勝手に兄として落とし前をつけることにしました。

  

・すた丼、食す!

初めて入る店内。

色々なメニューがありましたが、もちろん注文したのは「すた丼」

店内を見渡すと

「掟」

と書かれた大きなボードが飾られています。そこには

其の壱
絶対、すた丼を喰うべし

其の弐
いつ何時も、すた丼を喰うべし

其の参
さすれども、時には・・・

其の四
飯は、一粒も残すべからず

其の五
味わいつつ、ぶっこむべし


と、毛筆体で書かれていました。

これ、参と四が繋がっているとしたら、「時には、飯は一粒も残さない」という、基本的には残せ、というメッセージになるな、とか、壱と弐はどっちかでよくない? なんてひねくれたことを考えていたら、運ばれてきました、すた丼さんです。

  

僕は大量のニンニクを食べると体調が悪くなる傾向があるのですが、その不安、いや、其の不安を煽りまくる香り。

  

でも、落とし前をつけにきたわけですからひるむわけにはいきません!

生卵を割って、落として、いただきます。

  
  

食べてみると、思ったよりもニンニクは気になりません。

しかも、よく考えたら、豚肉と卵とニンニク……

超栄養食!

  

そうか、すた丼は「スタミナ丼」だったのか!

おもむろにYahoo!ライフマガジンを検索してみると、やはり記事がありました。

結局、落とし前をつけるどころか、ペロリと完食して、次は↑の店にも行ってみよう、と大満足で店を後にしました。

  

2.誤帰属について思う

前述しましたが、誤帰属とは、自分の中で生じた感情などの生理的換気を誤って他者に帰属させることです。

  

なんのこっちゃって話ですが、1974年にDuttonAronという心理学者が行った「吊り橋の実験」というのがあります。

これは、揺れる吊り橋を渡っている男性と揺れない吊り橋を渡っている男性それぞれに対して女性がアンケートをとり、「結果を知りたい場合は私に電話をください」と
言います。

すると、揺れた吊り橋の男性たちからの電話が有意に多かったというという結果でした。

この結果は、揺れた吊り橋でのドキドキを女性に対するドキドキというように誤って帰属させた結果であろう、と解釈されました。

というものです。

  

これは社会心理学の理論です。

でも、よく考えるのですが、この結果って男女差がありそうです。

自分で言っておいてなんですが、妹の話にしても、危険なところを救ってもらったということがきっと大きいですよね。

やっぱり、男は勇気!

  

なのかもしれません。

・妹よ、幸せに

妹の結婚式は記録的な大雨の日でした。

ハラハラしながら無事式を終えたわけですが、そのハラハラがまた、お互いに誤帰属として働いて2人の絆が強くなっていればいいな……

なんてややこしいことは考えていません。

  
  
  

一人で神奈川の外れですた丼に落とし前をつけながら、しみじみと、妹が幸せになれそうでよかったなぁ、と結婚式後の嬉しさとニンニク風味たまごまみれの豚肉を噛みしめました。

  
  
  
  
  

文・構成:星野概念
イラスト:権田直博


星野概念(ほしのがいねん)

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精神科医

権田直博(ごんだなおひろ)

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画家

Yahoo!ロコ名物 スタ丼 サッポロラーメン 国立本店
住所
東京都国立市西2-10-4

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アクセス
国立駅[南口]から徒歩約13分
矢川駅[南口]から徒歩約16分
西国立駅[出口]から徒歩約16分
電話
042-575-9590
営業時間
11:00~23:30
定休日
毎週水曜日
口コミ・写真など

※この施設の情報はYahoo!ロコから提供されています。

この記事を書いたライター情報

星野 概念

星野 概念

精神科医

総合病院に勤務し、日々精神医療に従事する傍ら、執筆や音楽活動を行う。

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