日本酒好きが集う角打ちがオフィス街の地下にある。そこは、電話が10件来たら8件は、店の場所を尋ねられるというくらい穴場だった。
Yahoo!ライフマガジン編集部
日本酒をこよなく愛する男の夢が詰まった酒場
清らかな水、仕込みに適した冷涼な気候。もともと北海道は日本酒づくりに適した土地だ。ここ数年で北海道独自の酒米の品質が上がり、各蔵が道産米メインの酒をつくったり、新しい酒造が登場したりと、日本酒シーンは盛り上がっている。
近年、日本酒を飲み比べできる場として注目されているのが、酒屋が営む「角打ち」だ。日本酒を知り尽くした酒屋が仕入れた酒を味わえる角打ちが、繁華街すすきのではなく、オフィス街のど真ん中にある。
店の名は「鮨角打ち 裏・小樽酒商たかの」。しかし、そこは地元の人でもたどり着けないほどの、隠れ家中の隠れ家なのだ。
この店の本店である、酒商たかのは小樽市で1947年に創業。絹糸の行商からスタートしたが、創業者が早くに亡くなり、現社長である二代目が跡を継いだ。やがて食料品や日用品を扱う街の商店として、地域に愛される存在となった。
地酒専門にシフトしたのは2005年頃。社長自らが全国各地の酒蔵と交渉し、40~50軒の酒蔵と特約店契約を結んだ。その3年後には店舗の2階で角打ちを始めた。
「もっと多くの人に、気軽に日本酒を飲んでほしい」という社長の思いから、2013年に大通駅近くに札幌1号店となる「小樽酒商たかの札幌大通り店(現・酒商肉野)」をオープン。その後、2015年に開店したのが「鮨角打ち 裏・小樽酒商たかの」だ。
この店を任されている店長の荒川創さんは、もともとは1号店の常連客。通ううちに日本酒の世界に魅了された一人だ。かつては証券マンだったが、酒をメインとする音楽フェスなども開催する普通の酒屋とは違う酒商たかのにひかれ、3年前に入社した。
全国のうまい地酒100種をセルフサービスで!
冷蔵庫には全国各地の地酒が常に100本用意されている。1杯300円の酒から、メール会員になると飲める限られた特約店でしか扱えない1杯2000円の酒まで、多種多様に取りそろえている。
- 鮨角打ち 裏・小樽酒商たかの 店長 荒川創さん
- 鮨角打ち 裏・小樽酒商たかの 店長 荒川創さん
- 「社長が酒屋視点で選んだ日本酒の中から、この店の客層に合わせて僕が選んでいます。30代以上のサラリーマンが多く、酒通の方もいらっしゃるので、あまり出回っていない珍しい酒も入れています。僕の好みも多少入っていますけどね」
同店はチケット制を採用している。まずはレジに行き100円券×10枚・1セットを購入。チケットには有効期限がないため、一度に使い切ることができなくても、次回に持ち越せる。
チケット購入後、席料として300円分を店員に渡したら、酒を選ぶのはセルフサービス。冷蔵庫から酒を選んで瓶を店員に渡す。
フードもチケットを店員に渡し、食べ終えたら食器を指定の場所にさげる。
店長が厳選! 飲んでほしい道産酒&レア酒
「これまでの北海道の地酒は、すっきりした味わいの辛口が多かったですが、最近はコクを感じられる酒が増えています」と話す荒川さんに注目の酒を選んでいただいた。
\キレのある味わいならコレ!/
倶知安町にある大正5年創業の二世古酒造がつくる大吟醸酒。羊蹄山麓で栽培された北海道産酒造好適米「彗星(すいせい)」を使用している。
- 鮨角打ち 裏・小樽酒商たかの 店長 荒川創さん
- 鮨角打ち 裏・小樽酒商たかの 店長 荒川創さん
- 「香りが豊かで、飲むとすぱっとしたキレがあります。冷酒で飲むのがおすすめです」
\飲み応えがある純米酒/
JA東旭川の職員自らが作付けを行い、収穫した北海道産酒造好適米「きたしずく」を100%使用。国士無双で知られる旭川市の酒蔵・高砂酒造が手がけた1本だ。
- 鮨角打ち 裏・小樽酒商たかの 店長 荒川創さん
- 鮨角打ち 裏・小樽酒商たかの 店長 荒川創さん
- 「雑味がなく、米のコクを感じるしっかりした味わいです。冷酒でも燗(かん)でも楽しめます」
\酸味と香りが印象的な個性派/
こちらは、珍しい1本を…とお願いして挙げていただいた、奈良県・美吉野醸造がつくる純米酒。酵母無添加で空気中に存在する酵母を取り込んで発酵している。
- 鮨角打ち 裏・小樽酒商たかの 店長 荒川創さん
- 鮨角打ち 裏・小樽酒商たかの 店長 荒川創さん
- 「チーズのような発酵した香りと、フルーティーな酸味が特長。アツアツになるまで温めるのもいいですよ」
酒好きがつくる酒好きのための肴(さかな)
鮨(すし)を味わえる角打ちにした理由について荒川さんは次のように話す。「社長が『鮨で酒を飲めたらこんなに幸せなことはないよなぁ』とよく話していました。1号店もそうですが、日本酒をこよなく愛する社長の願いを形にしています」
早速、「かにいくら鮨」を注文すると……
\インパクト大! 握らない鮨/
酢飯の作り方は小樽の有名料亭に教わったが、握りは何年も修業を積まなければマスターできないということで誕生した鮨。酒と一緒にちびちび味わうには、ちょうどいい。
- 鮨角打ち 裏・小樽酒商たかの 店長 荒川創さん
- 鮨角打ち 裏・小樽酒商たかの 店長 荒川創さん
- 「このほかにも殻付きのエビをのせたもの、山わさびをのせたもの、シメサバをのせたものなど常時約6種類あります」
\塩気がたまらない!/
ねっとりした食感と熟成された深い味わいに、ついつい酒が進む人気メニュー。
- 鮨角打ち 裏・小樽酒商たかの 店長 荒川創さん
- 鮨角打ち 裏・小樽酒商たかの 店長 荒川創さん
- 「この味は僕らでは出せないので、小樽の業者から仕入れています。カズノコを入れているものが多いですが、これはニシンと麹(こうじ)と鷹(たか)の爪のみで、ニシンのうま味を楽しめます」
\酒かすを使った一品も外せない!/
ペースト状にした楯野川の酒粕(かす)に味噌を混ぜ合わせ、クリームチーズを漬け込んだおつまみ。味噌のしょっぱさがチーズのまろやかさと絶妙にマッチする。
- 鮨角打ち 裏・小樽酒商たかの 店長 荒川創さん
- 鮨角打ち 裏・小樽酒商たかの 店長 荒川創さん
- 「食のプロに教わり、改良を重ねて完成しました。鮨、にしんの切り込みに並ぶ人気メニューです」
\THE男の料理/
ぜひ味わってみてほしいオリジナルメニューがある。「ごま油そば焼」(300円)だ。注文をしたところ、フライパンに投入されたのは……なんと日本そば!
仕上げに取り出したのは、むかわ町でつくられている麺つゆ。ほかの麺つゆでも試してみたが、これでなければこの味は出せないそう。
- 鮨角打ち 裏・小樽酒商たかの 店長 荒川創さん
- 鮨角打ち 裏・小樽酒商たかの 店長 荒川創さん
- 「このメニューは三代目(オーナー)が学生の頃に考案したもの。中華麺よりも日本そばのほうが日本酒に合います!」
「酒屋なので気の利いたものは出せませんが、愛情はこもっています!」と荒川さんが話すように、うまいものを選び抜き、さらに工夫を凝らして酒のアテにぴったりなメニューをそろえている。
新しい出会いが待っているオアシス
店名に「裏」と付くように、あてもなく歩いていると絶対に見つけられないこの場所。だからこそ、日本酒をこよなく愛する人たちが集うという。そこで常連さんにこの店の魅力を伺った。
- 46歳・男性会社員
- 46歳・男性会社員
- 「ここではいつも2000円分食べ飲みしているかな。サンマやウニなど旬の食材と酒を味わえるのがいいよね。ここで知り合った飲み友達もいますよ。地位も関係なく話せるのが酒場のいいところ。後で『あの人、○○の理事長さんだよ』と教えられ、びっくりすることもあります」
ステータスにとらわれないことで、人間関係はどんどん広がっていく。それは酒も同じだと荒川さんは語る。
- 鮨角打ち 裏・小樽酒商たかの 店長 荒川創さん
- 鮨角打ち 裏・小樽酒商たかの 店長 荒川創さん
- 「味を示す指標として+5、−10などの数値がありますが、スペックにとらわれずに飲んでみてください。フルーティーな香りの酒はちょっと……という方に、何も言わずに試飲していただいたら、おいしいね!と気に入ってくださったこともあります」
奥深い日本酒の世界。酒通の人もまだまだ知らない酒があるはず。札幌のオフィス街にひっそりたたずむ酒場で、一期一会の出会いを経験してみてはいかが。
取材メモ:筆者は日本酒が苦手なのですが、レジ横ですすっている写真は本当に飲んでいます。しかも、まさかの+25の超辛口! でも、「あれ?飲めるじゃん」と調子に乗り、おすすめの3本も飲みました。店長の言う通り、スペックにとらわれていたのかもしれません。
取材・文=山下晴美、撮影=小林かほり(みんなのことば舎)
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