発祥の地で日本一ナポリタンに詳しい男に教わる“ナポリタン史”

発祥の地で日本一ナポリタンに詳しい男に教わる“ナポリタン史”

2016/06/30

ナポリタンは日本で生まれた正真正銘の「和製イタリアン」。老若男女、日本人なら誰もが一度ならずとも口にしたことのある国民食である。そんなナポリタンを心から愛するひとりのアラフォー男性がいる――その名もイートナポ。

Yahoo!ライフマガジン編集部

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講師は2000食のナポリタンを食した日本一のナポリタニスト

会社勤めの傍ら、ナポリタンの食べ歩きを始め、2007年にブログ『ナポリタン×ナポリタン』を開設。

2013年には書籍『日本全国 懐かしくておいしい! ナポリタン大図鑑』を上梓し、それ以外にも「マツコの知らない世界」や「お願いランキング」などテレビ番組にも出演。今までに2000食以上も実食してきた、日本でもっともナポリタンを知る男……それがイートナポ氏である。

そんな彼に、ナポリタン発祥の地・横浜で、ナポリタンの歴史について学んでみた。

“あの”ナポリタンは横浜の下町から生まれた!

終戦直後に横浜で産声を上げた洋食屋「センターグリル」

6月某日。我々がやってきたのは、横浜・野毛の老舗洋食店「センターグリル」だ。店に到着すると、イートナポ氏は開口一番、こんな事実を口にする。

イートナポ(以下ナポ) 
イートナポ(以下ナポ) 
最初に言っておきますが、ここはナポリタンの本当の発祥の店ではないんですよ。

ほげっ!? 聞くところによると、日本で初めてナポリタンを提供したのは横浜・山下町にある老舗ホテル「ニューグランド」だという。しかし、その味が引き継がれているホテル内のレストラン「ザ・カフェ」は、生憎ホテルの改修工事に伴い今秋まで一時休業中だ。

――なるほど……本当の元祖の店で取材できないのは残念ですね。

ナポ
ナポ
ご安心ください。「ニューグランド」のナポリタンは私たちがイメージするようなナポリタンとは少し違って、トマトソースを使った上品なスパゲティです。もちろんとても美味しいのですが、みなさんが持つナポリタンのイメージとは随分違うスタイル。言うなれば“高級料理”です。

――ほうほう。ナポリタンといえば庶民の味ですもんね。

ナポ
ナポ
そうです。一方、こちらの「センターグリル」は、その「ニューグランド」の流れを汲みつつ、おなじみのケチャップを使った庶民派ナポリタンを生んだ店。つまり現在のナポリタンの“雛型”を作ったと言っても過言ではない、ナポ史上、もっとも重要な店のひとつなのです。今回の取材テーマであれば、バッチリの店と言えます。

ということで、「センターグリル」の絶品ナポリタンとともに歴史を学ぶ

同店のオープンは70年前の1946(昭和21)年。歴史を感じさせる店内の雰囲気が、妙に気持ちを和ませてくれる

――いかにも老舗洋食屋然とした佇まい。さすが定番ナポリタン発祥の店と言われるだけはありますね。

ナポ
ナポ
そうでしょう、そうでしょう。僕もいろいろなところでナポリタンを食べ続けてきましたけど、「センターグリル」で食べるナポリタンは「お伊勢参り」みたいなもの。「本当に僕はナポリタンを食べ続けていいのか……」「ナポリタンって結局何なんだっけ……」と悩んだ時にここに戻ってくると、安心するんですよね。

「センターグリル」は“ナポリタン界のお伊勢さん”と語るイートナポ氏。というより、氏が、そこまでの思いをしてナポリタンを食べ続けていたことにビックリである。

そうこうしているうちにお待ちかねのナポリタンの登場だ。ケチャップで炒められたモチモチの麺に、玉ねぎ、ピーマン、そしてハム。これこれ、ナポリタンといえばこれである。

ステンレスの皿に乗ったセンターグリルの「スパゲティナポリタン」(720円)

――おぉっ、めちゃくちゃ美味しい! では、早速ですがこの絶品ナポリタンを食べながら、ナポリタンというメニューそのものの生い立ちを教えてもらえますか?

ナポ
ナポ
一般的には、終戦後に進駐軍と共に日本にパスタやケチャップといった欧米の食材が大量に入ってきて、そこで生まれたと言われています。でも、実はナポリタンの歴史ってちゃんと解明されていないんですね。一般的に、ナポリタンを提供した店はホテル「ニューグランド」と言われていますが、たとえば上野には「100年前からナポリタンを出しています!」という店もある。多分、探せば元祖を名乗る店はいくつも出てくる(笑)。

おそらく日本に洋食文化が根付く中で、似たようなメニューがいろんなところで生まれたのでしょう。ただ、それを「ナポリタン」という名前で初めてメニューに載せたのが「ニューグランド」だった、ということだと思います。

――ちなみにこちらの「センターグリル」は、先ほど庶民派ナポリタンの元祖という説明をされていましたけど、もう少し詳しく教えていただけますでしょうか?

ナポ
ナポ
それについては、せっかくなので“伝道師”から直接教えてもらいましょう。ご主人、ちょっとお話を聞きたいのですが!
「え、私がですか? いやー、うまく話せるかなぁ。自信ないなぁ」(と、言いつつナポリタンを持って笑顔で登場する「センターグリル」二代目のご主人・石橋秀樹さん)

――ご主人の作るナポリタン、めちゃくちゃ美味しいです! そもそもこちらのお店はどのようにして始められたのですか?

ご主人
ご主人
店自体は私の親父が始めたものです。親父はもともと「ニューグランド」の初代総料理長だったエス・ワイルさんの弟子でした。エス・ワイルさんは「ニューグランド」の裏で「センターホテル」というホテルを経営していて、親父もそこで洋食の修業をしてたんです。そして親父が独立するとき、「センターホテル」から名前をもらって「センターグリル」という店を開いたと。

――なるほど。

ご主人
ご主人
ナポリタン自体は「ニューグランド」2代目総料理長の入江茂忠さんが考案されていますが、親父はその入江さんに「洋食屋をやるならトマトソースのパスタの『ナポリタン』を出したらどうだ」と提案されて、「センターグリル」のメニューにも加えることにしたんです。ただ、当時トマトは貴重でしたから、代わりにケチャップで炒めて提供するようになったんですよね。

――それが今に続く定番ナポリタンの「はじまり」だったんですね。当時からケチャップは一般家庭でも使われていた調味料だったのでしょうか?

ご主人
ご主人
いいえ、そういうわけではありませんでした。戦後はまだまだケチャップは一部の洋食店でしか使われていなかったと記憶しています。そういえば、ある食品メーカーがケチャップを流行らせようと「あけぼのうどん」という、うどんをケチャップで炒めたメニューを提案したこともありました。昔の日本人にとってはスパゲティよりうどんの方が親しみやすいですからね。でも、“うどんナポリタン”は流行りませんでしたねぇ(苦笑)。結局定着したのはスパゲティナポリタンの方でした。

ナポリタンの名店が集まっているのは、ビジネス街と“夜の街”?

「センターグリル」のナポリタンを食べながら、ナポリタンの歴史を語るイートナポ氏(実はサウスポー)
ナポ
ナポ
ここからお話することは僕の経験に基づく推測なのですが、やはりビジネス街にナポリタンを出す店が多いことと無関係ではないと思います。事実、都内屈指のナポリタンの激戦地は、サラリーマンの街・新橋です。おそらく高度経済成長期が、普及のきっかけのひとつになっていると思うんですよ。景気が良くなるにつれ、会社勤めのサラリーマンが増えた。

すると、ビジネス街にはサラリーマンが休憩する喫茶店ができます。お店の人はお客さんにコーヒーだけじゃなくて食べ物も出さないといけないから、そこでナポリタンを出す。なぜナポリタンかというと、同じ材料があればオムライスもチキンライスもできる……麺にするかごはんにするかの違いですからね。とても都合のいいメニューだったわけですよ。

――なるほどー。では、ビジネス街以外で、ナポリタンを提供する店が集まるエリアはないのでしょうか?

ナポ
ナポ
ありますよ。これは都内限定の話かもしれませんが、歓楽街には結構集中してますよね。

――歓楽街にナポリタンの店が?

ナポ
ナポ
ええ。これまで食べたナポリタンで美味しかった店の場所を振り返ってみると、そういうエリアが多かったです。浅草、五反田、錦糸町……歓楽街って、新橋と同様に人が多く集まるという点では共通していますよね。新橋が昼の大人の街だとすると、歓楽街は夜の大人の街。夜遊びをして、お腹をすかせたサラリーマンに出す料理となると、ナポリタンくらい手軽に作れるものがよかったのかもしれません。

10年後には食べられなくなる!? 日本が直面する「ナポリタン跡継ぎ問題」

――歴史的に見てみると、ナポリタンって、 昼も夜も働く日本のお父さんたちの胃袋を満たしてきた料理 なんですね。

ナポ
ナポ
その通りだと思います。ただ、そんな美味しいナポリタンを5年後も10年後も食べられるというわけではない、ということは付け加えておく必要があると思います。

――えっ、それってどういうことですか?

ナポ
ナポ
昔からナポリタンを出している喫茶店や洋食屋って、老舗の店が多いですよね。一方で、ラーメンのようにのれん分けをするほどメインを張るメニューじゃないから、若い人が味を引き継ぐことがないんです。飲食店をその店の息子さんや娘さんが跡を継ぐケースもどんどん減っていますから、ナポリタンの美味しいお店が5年後、10年後もあるかどうかは分からないんですよね。ええ、『ナポリタン跡継ぎ問題』はかなり深刻です。

――歴史が途絶えてしまうかもしれないと……あっ、「センターグリル」はどうなるのですか!?

ナポ
ナポ
ここは息子さんが引き継ぐということで、僕も一安心しています。ナポリタンってどこも同じ味のようですけれど、やっぱり美味しいお店はあるんですよ。また、味は特別ではないかもしれないけど、店の雰囲気とかご主人の性格とか常連客の立ち振る舞いとか、トータルで愛すべきお店もたくさんあります。

頼んでないのに付け合わせのメユーを出してくれたり、少なめでオーダーしたのに「お兄さん、若いんだからこれくらい食べなきゃ!」って大盛りを出されたり(苦笑)。そういう愛すべき“おせっかいな店”って、どんどん無くなってますけど、それってとっても残念なことだと思うんです。だから僕は、ナポリタンを食べ続けることでそういう店を応援したいんですね。
強いナポリタン愛で結ばれたおふたり
イートナポ(いーとなぽ)

イートナポ(いーとなぽ)

ナポリタニスト

構成・取材・撮影=田代くるみ

※掲載の内容は2016年6月時点の情報に基づきます。
※2019年6月に店舗(住所、電話番号、営業時間など)、メニュー、料金などの一部情報を更新しました。

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Yahoo!ライフマガジン編集部

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