“世界最高峰のシェフ”が生み出す「ショートケーキ」の原点とは

“世界最高峰のシェフ”が生み出す「ショートケーキ」の原点とは

2018/11/16

人気シェフの「原点」とは。人生を決めた「原風景」とは。作品はもちろん、スターシェフの人間的魅力を掘り下げるリレー連載3回目。今回は卓越した技術とスマートな出で立ちで注目を浴び続けてきた、德永純司シェフをご紹介します。

Yahoo!ライフマガジン編集部

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日本洋菓子界のスターシェフが
影響を受けたケーキとは?

東京の湾岸部にあって年々その存在感を高めている「ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ」。そのエグゼクティブ シェフ パティシエとして活躍するのが德永純司氏。2015年には世界最高峰といわれるコンクール「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」で準優勝という輝かしい成績を残すなど、日本洋菓子界の歴史に名を刻み続けるスターシェフです。前回の「オクシタニアル」中山和大シェフの熱い推薦を受けた德永氏が、「スイーツ」を志したきっかけを教えてもらいましょう。

德永純司

德永純司

パティシエ

ホテル1階にある「N.Y.ラウンジブティック」で商品を購入できます

\推薦者のオクシタニアル・中山和大シェフからひとこと/

オクシタニアル 中山和大シェフ
オクシタニアル 中山和大シェフ
「2014年から1年間の準備期間を共に過ごし2015年のクープドモンド・ドゥ・ラ・パティスリーを共に戦った仲間です。当時から德永シェフの技術や繊細な味付けや香りなど素晴らしいものがありましたが、現在でも素晴らしいものを作ろうと修行に励む姿はまさに洋菓子界の修行僧です」

德永シェフがスイーツを
志したきっかけとは

德永シェフ
德永シェフ
「僕は昔から手先が器用だったんです。刺繍だったり、時計だったり何か細かい作業をする職人になれたらいいと思っていたのと、小さい頃に食べた生クリームのショートケーキのおいしさが忘れらなくて。ケーキって誕生日に食ベますよね。いつも幸せな場所にあるもの。自分はお菓子職人になりたいんだって気がついたんです」
「生クリームと苺とスポンジというシンプルな組み合わせの中に感動するほどのおいしさが詰まったショートケーキ。次の日に残ったケーキをこっそり一人で全部食べたことも(笑)」(写真はイメージです)

製菓を志した德永少年ですが、経済的な理由で高校を出てすぐに就職します。パティシエになるために地元のケーキ屋で働きながらお金をためて学校に通おうという計画もあったのですが、残念ながら地元の製菓店の働き口は見つかりませんでした。

德永シェフ
德永シェフ
「仕方なく親のツテで紹介された大阪のホテルで働き始めました。でも、最初に配属されたのは全く畑違いの部署で、2年目には調理場でコックとして働くことになりました。いつかはお菓子作りの現場に行きたいとずっと思っていました」

予想外の一言からしたある決意
ホテルでの仕事の中で、サービスや料理の技術を身につける。これも将来のために必要な修行だと思って仕事に励んだという德永シェフですが、3年目を迎えるに当たって会社から告げられたのは予想外の一言でした。

德永シェフ
德永シェフ
「お前はこのまま料理人になれ、と会社から言われてしまったんです、僕はいつかお菓子をやりたくてホテルに入ったわけですからショックでしたね。そこで、ホテルに出入りしていた仲の良かった業者さんが紹介してくれたケーキ屋さんに転職しました。20歳の時でした」
時は流れ現在は多くの若手を指導する立場となりましたが、当時を振り返ると感慨深そうな顔になります

修行時代の苦労と
いくつもの出会い

ブティックのラインナップは季節とイベントごとに入れ替わります。現在は冬らしくダークな色合いのスイーツが並びます

念願のお菓子の世界に足を踏み入れた德永シェフを待っていたもの。それは過酷な修行でした。

德永シェフ
德永シェフ
「料理とケーキって全く違いますよね、まず専門用語がわからない。素人同然で入ったので卵を割ったり、計量することから始めました。そこで2年くらい修行して技術を身につけました。当時のオーナーシェフからは生地の作り方、生クリームのたて方まで全部教わりました。とても優しい方で、小さな店だったのですぐに戦力に育てたかったのかもしれません」
「転職できるのは若いうちだけ。いろんな職場を経験し、そこで出会った多くの人にお世話になりました」

技術を身につけた德永氏は、さらなる高みを求めて「守口プリンスホテル」へ転職。そこでは今の仕事でも大切にしているお菓子作りの大切な心構えを学びました。

德永シェフ
德永シェフ
「仕事は丁寧に早くしろと繰り返し言われました。丁寧にやるなら誰にでもできる。早くするのは雑にすればできる。それを両立させるのが難しい。ホテルの調理場は戦場ですから、それができれば一人前なんです」
「守口プリンスホテル」時代。写真真ん中が德永シェフ。写真右上の船越さんには多くのことを教わったという
德永シェフ
德永シェフ
「学生に個人店とホテルのどちらに就職するのがいいか聞かれることがあります。ホテルはいろんなことをやるから経験になるし、個人店も数多くの種類の菓子があるので、どちらも大変ですよ。そして、どこに行ってもやることは一緒。結局は本人次第だと思います」

大きな糧となった
日本代表での経験と挫折

「2015年の『クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー』は大きな経験になりました」

その後、職場を「ザ・リッツカールトン大阪」「ザ・リッツカールトン東京」と移し、着実にステップアップを重ねた德永シェフ。同時に国内外のコンテストでも多くの実績を残してきました。これまで一番印象に残っているコンテストについて尋ねると、「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリーで2位になったとき」という答えが返ってきました。

德永シェフ
德永シェフ
「準備期間はオクシタニアルの中山シェフたちと泊まり込みで試作を重ねて、コンテストのために全精力を注ぎました。一流の人とともに過ごすのは大きな刺激になりました。そして迎えた本番。ライバルと目されていたイタリアチームが、作業中にミスをしたのが横目に見えたんです」

1位を確信したそのとき……
優勝を確信した日本チームのメンバーは、そこで慢心するのではなく、「1番にふさわしい最高で完璧な作品を作り上げよう」とさらに気合が入ったといいます。

德永シェフ
德永シェフ
「絶対に1位になれる!と思ったものの、結果はなんと2位。優勝したイタリアチームの作品は本当に素晴らしかったです。それだけに、悔しくて悔しくてしばらく涙が止まりませんでした。あんなに泣いたの人生で初めてです」
「あの悔しさは今でも忘れられないです」

だからこそ、今の「ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ」で成し遂げたい夢があると言います。

德永シェフ
德永シェフ
「『ホテルの中で1番』と呼ばれるパティスリーを作りたいんです。大会があるわけではないから、一番になるには、誰もから『あそこがナンバーワンだね』って認められるしかない。果てない道ですけど頑張りたいと思っています」
「日本一、世界一と認められるよう頑張ります」

それではN.Y.ラウンジ ブティックの
看板メニューをいただきます

シェフ自身も特に深い思入れがある、ショートケーキを作ってもらいましょう

ショートケーキに使われている原材料は、極めてオーソドックスで一般的なものばかりですが、そこにもシェフならではのこだわりがあります。

德永シェフ
德永シェフ
「普通の素材でいかに上手くできるのかが技術ですよね。おいしいものを使ったら、そりゃあおいしくなるだろうけど、でき上がりの味を素材に左右されたくないんです」
生クリームはコクと軽やかさの両方を楽しめるように40%と35%のクリームを半々で合わせます
ホイップした生クリームをスポンジ生地に塗ります。スポンジに関して、シェフは並々ならぬ思い入れを持っています
德永シェフ
德永シェフ
「スポンジに使う卵は冷たい状態から泡立てます。もちろんその分時間はかかりますよ。でも、きめ細かいものができる。僕のスポンジはかなり弾力性があって、まるで低反発マットレスみたいと言われることもあります。ソフトだけど適度なかみごたえがある。この上で昼寝したいくらいです(笑)」
いちごもあまり大きすぎないものを丸ごと使います
周囲のクリームを丁寧に整えます
最後にクリームで飾りをつけて
イチゴを並べて完成です
ストロベリーショートケーキの完成です(「ストロベリーショートケーキ」カット1p 580円/丸形15cm 4200円・税別)
德永シェフ
德永シェフ
「ショートケーキは完成されたお菓子ですよね。そこに余計な手を加えたら、違うものになってしまいます。だから極力シンプルに、それでも、自分らしさを詰め込んだつもりです。もちろんまだまだ進化するかもしれませんが、これが僕の今の完成形です」

最後に、德永シェフにとって
スイーツを作り続ける意味とは

「おいしいものが作りたい!」という気持ちが年々高まってくるという德永シェフ。

德永シェフ
德永シェフ
「おいしいケーキが試作でできた時は、すごく嬉しいですよ。テンションが上がって叫びたくなります。人が作った作品を食べても、『どうやって作ってるんだろう』と考え始めると、どんどん気分が高まりますね。昔から負けず嫌いですし、この歳になって探究心や勉強したいという気持ちがどんどん強くなっています」
シェフが苦労の上に産み出した宝石のようなケーキたち

そして、自分が素晴らしい作品を作ること同じくらいの喜びを、今の職場では日々味わっているといいます。

德永シェフ
德永シェフ
「若いスタッフの成長を目の当たりにできるのは嬉しいですね。彼らがコンクールで勝つと自分のことのように嬉しい。でも、僕が育てたのではなく、きっかけを作っただけ。うちの職場は活気があるといえば聞こえがいいけど、若い人たちはエネルギーが余っていてとにかくやかましい(笑)。でもそれくらいでいいんです」

「今まで僕が働いてきた中でこの職場が一番楽しいし、そういう場を作れているのだとしたら本当に嬉しい」と笑う德永シェフ。

德永シェフ
德永シェフ
「若い人たちは情熱があるし、面白いし、真面目。彼らの成長していく様子を見られるのが嬉しいです。彼らのアイデアにハッとすることもあります。互いに刺激を与えてどんどん成長していけたらと思っています。彼らも、そしてもちろん僕も」
これからも精力的に新作を生み出すシェフと、若手たちから目が離せません
 

取材・文/キンマサタカ(パンダ舎)
撮影/豊田哲也

取材協力/ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ

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Yahoo!ライフマガジン編集部

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