犬養裕美子のお墨付き!地味だけど手堅い「ロカヴォール」

犬養裕美子のお墨付き!地味だけど手堅い「ロカヴォール」

2018/12/27

“アナログレストラン”はレストランジャーナリスト犬養裕美子が選ぶ「いい店」。作り手がその場できちんと料理をしていること。小さくても居心地のいい空間とサービス、かつ良心的な値段。つまり人の手、手間をかけた「アナログ」で「アナ場」な店。第61回は代々木上原「ロカヴォール」。

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

トレンドエリア・代々木上原でマイペースを貫く

初めて伺ったのは、暑い時期だった。クーラーの利いた涼しいカウンターでホッとしてメニュー選びを始めて、「あれ?」と目がとまった。「オニオングラタンがある」。” オニグラ”と言えば、フランスのビストロの冬の定番料理。日本でいえば定食屋のとん汁、居酒屋のもつ煮込のような存在。しかも、パリのカフェでもおなじみの”オニグラ”は、塩がキツかったり、チーズが重たかったり、けっこう大雑把なメニューだ。

牛テールとオニオンのグラタンスープ1890円  大きなスープボールは、パリのビストロで使われているのと同じもの。これを一人で頂くとかなりお腹がいっぱいに。「シェアしてお出しすることもできます」

「ここはどう仕上げているのだろう?」。気になってオーダーしてみた。出てきた[定番]はボリューム控えめ、味もすっきり上品で澄んだ味だった。「牛テ―ルのコンソメをベースに、玉ねぎの甘みと塩味、コクはグリエールのみ。これなら、どんな年代の方でも最後まで楽しめると思って」とちょっと得意そうに笑う小松健作シェフ。独立して店を出す際、代々木上原には住宅も多いので、子供からお年寄りまで楽しめる名物料理をと考えたのがオニオングラタンスープだった。看板メニューにふさわしい、オリジナリティあふれる一品だ。

遠くからでもわかるように、と赤の外観に。同じ通りに、赤い外観の店ができて、このエリアは突然、パリっぽくなった!

店がオープンしたのは2013年。代々木上原は当時から人気のエリアだったが、二人は物件を探そうと不動産屋に行って、最初に紹介されたのがここだった。「それで一目で気に入って決めました!」という運の良さ。駅から徒歩3分。厨房は小松シェフ、サービスはマダムの裕佳さんの二人だけでまわすには理想的な物件だった。

「パリのビストロをイメージして、外観は赤にしました」(小松シェフ)

曲線のカウンター席は珍しい。隣同士でも、距離が縮まる

カウンターは直線でなく、弧を描いたラウンド型。テーブル席には6~8名座れる。コンパクトだけど居心地のいい空間。「実はいちばん快適なのはシェフなんです」とマダムが笑う。面積でいうと「店の半分は厨房なんですよ」。パンもお菓子もすべて一人で作るため、厨房は十分余裕を持った造りにしてあるとか。

ワイン担当のマダムの悩みは「ワインセラー兼ストックルームはもう満杯。もう少し日本のワインも増やしたいんですけど」。

ズワイガニと根セロリのムーラート1480円 ていねいに実をほぐしたズワイガニをたっぷりと召し上がれ!ピンク胡椒がアクセント
黒板にその日のメニューが書かれている。ワインリストもあるが、口頭でも説明してくれる

小松シェフが目指すのはパリのビストロ。黒板に書かれたメニューはどれもビストロらしいメニューばかりだが、素材も仕上げもレストラン仕様。その理由を経歴を伺って納得した。

日本やフランスでの修業先も、きちんとしたレストランばかりなのだ。フランスではオーヴェルニュの三ツ星の「レジス・マルコンシェフ」、彼の元から独立して「ヴィシー」で一ツ星を持つジャック・デコレシェフの店でも仕事をした。しかし、当時から、独立するなら「ビストロをやりたい」と心に決めていた。

鴨モモ肉のコンフィ3280円 表面は香ばしくカリカリ仕上げ。脂の中で揚げ煮にしていくのがコンフィだが、油っぽく感じさせない。付け合わせの焼き野菜といっしょに味わいたい

目標になったのはパリのネオ・ビストロの先駆け「シェ・ミッシェル」。ガストロノミーを追及してきたシェフが始めた店で、上質な素材と手間をかけたシンプルな料理がコンセプト。つまりおいしいものを食べてきた人たちの日常使いの店。代々木上原にありそうでなかったタイプのビストロだ。

「常連のお客様は40代、50代が中心ですが、私たちの親世代の方も意外に多いんです」(小松シェフ)

流行のウエハラだから行くのではなく、自分たちのスタイルを守れる店。それが地元に愛される店なのだと思う。

左・小松健作シェフ43歳。埼玉県出身。高校卒業後、料理の道に進む。都内で修業後、フランスへ2年、帰国して銀座のレストランや渋谷のワインレストランで働き、右・裕佳さんと知り合い結婚。2013年独立

実は、私のオフィスは20年ほど代々木上原にあった。当時の下町風街並みを思いだすと、これこそ上原らしい地元の店なのだと思う。

この記事を書いたライター情報

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

東京を中心に地方や海外の食文化、レストラン事情を最前線で取材。ファッション誌から専門誌まで数多くの雑誌で連載を持ち、その店の良さ、時代性をわかりやすく解説。特に新しい店の評価に対する読者の信頼は厚い。食に関わる講演・審査員など多数。農林水産省顕彰制度・料理マスターズ認定委員。

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