新進気鋭のシェフがフランスで学んだ日常生活の中にあるエスプリ

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My スイーツ メモリー

2018/11/30

新進気鋭のシェフがフランスで学んだ日常生活の中にあるエスプリ

人気シェフの「原点」とは。人生を決めた「スイーツの原風景」とは。作品はもちろん、スターシェフの人間的魅力を掘り下げるリレー連載4回目。今回は誰もが魅了される人間性を持ち、飽くなきモチベーションで作品作りに取り組む、アンヴデットの森大祐シェフをご紹介します。

廣田祐典05

廣田祐典05

日本洋菓子界のスターシェフが
毎日食べていた思い出のスイーツとは?

近年注目を集める清澄白河駅に店を構える「アンヴデット」。駅から徒歩5分。近くにはブルーボトルコーヒー本店がある

近頃人気を集める東京の東側。その中で注目されるパティスリーが「アンヴデット」です。オーナーパティシエとして活躍する森大祐氏は数々の国際コンクールで輝かしい成績を残す、日本を代表する人気シェフ。前回の「ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ」の德永純司シェフからバトンを受けた森氏が、「スイーツ」作りを志したきっかけを教えてもらいましょう。

森大祐シェフ

森大祐シェフ

「アンヴデット」オーナーシェフ

ショーケースを彩るバリエーション豊かなスイーツを求めて今日も多くのお客が足を運ぶ

\推薦者のホテル インターコンチネンタル 東京ベイ徳永純司シェフからひとこと/

徳永純司シェフ
徳永純司シェフ
「人柄も良く皆に好かれる性格の持ち主の森シェフは、なんでもオールマイティにこなすスーパーパティシエ。店頭にはクオリティーの高い商品が常に並んでおり、味はもちろんですが、レモンやイチゴをデフォルメするなど、デザイン性が高く視覚的にもこだわったケーキを作っています!」

森シェフがスイーツを
志したきっかけとは

森シェフ
森シェフ
「実家は岐阜の洋菓子店でした。親父は岐阜市内で修行したお菓子職人で、いわゆる街のお菓子屋さんです。高校を出たら何をしようかって考えたときに、特に思い浮かばなかったんです。だったら菓子職人かなって。昔から家にはいつも甘いものが身近にありましたし、特にチョコレートムースは毎日のように食べていましたから」
「小学生の頃は家に商品のチョコムースがいつでも置いてあって毎日食べてました。実家は学校給食のパンも作ってました」(写真はイメージです)

その当時、「パティシエ」という言葉はありませんでした。「お菓子職人」は世にある職業の一つとして、世間に認識されていたに過ぎなかったと言います。長男として実家を継ぐという想いもあったのでしょうか。

森大祐シェフ
森大祐シェフ
「親から面と向かって店を継げと言われたことはありません。でも、ちょっとは期待していたみたいで、東京に行くことを条件に製菓学校へ進学を決めました。一度は東京に出たかったんです」
「実家の店で働けば生活はできるだろう、くらいの考えでした」

製菓学校を出てから
本当の修行が始まった

製菓学校時代は「不真面目な生徒だった」という森シェフ。在学中はほとんど勉強していなかったと笑います。

森シェフ
森シェフ
「そんな学生だったから、先生たちは僕のことをよく覚えてるんです。今と昔の僕を比べて『お前も変わったな』って。だから、卒業後に入ったお店ではとても苦労しました。学生時代から真面目にやればよかった(笑)」
デザイン性が高く目にも楽しいケーキが並びます

最初に就職したのは「ロイスダール」。この店から森シェフのパティシエ人生が始まりました。学生時代に不真面目だったおかげで、修行はとにかく大変だったと当時を懐かしみますが、それ以上に、お店で使う食材のおいしさに大きな衝撃を受けたといいます。

森シェフ
森シェフ
「チョコってこんなんにおいしいんだ。あれ、バターもうまいって。みんなは専門学校で気づくんでしょうけど(笑)。当時はスイーツブームでもなんでもなかったけど、『この仕事は面白いな』って思ったんです。個人店で繁盛している店もあったし、自分の腕次第でいくらでも稼げる。なんて夢がある職業なんだろうって」

芽生えた向上心と野心

社会に出て間もなく、スイーツ作りの楽しさに目覚めた森シェフ。最初は「職業」としての魅力からでしたが、次第にお菓子作りの楽しさ、奥深さに気が付きます。洋菓子をもっと知りたい。プロがどんな仕事をしているのか知りたくなった森シェフは、さらなる高みを目指し「グランドハイアット東京」の門を叩きます。26歳の時でした。

森シェフ
森シェフ
「雑誌の記事を見て、一流の人がどんな仕事をするのかこの目で見たくなったんです。そこでは、全てが衝撃でしたね。働いていた先輩たちは、後に全員が世界大会に出るんですが、モチベーションも違えば、お菓子に対する意気込みも違う。何時まででも作り続けているし、仕事とは思えないくらい楽しそうに働いていたんです」
「朝から晩まで考えるのはお菓子のことばかり。しんどかったけど、本当に楽しかったです」

フランス修行で
体感したエスプリ

4年間の修行で心技体ともに磨かれた森シェフがフランス行きを決心したのは、昔から先輩たちに「パリには日本にはない何かがある」と聞かされていたからでした。お菓子の本場に対する憧れは膨らみ続け、28歳でパリ行きを決心。夢を抱えた若者が降り立った憧れの地パリでの生活は驚きの連続でした。

森シェフ
森シェフ
「フランスにはフランスのエスプリ(日本語で精神性)があるんです。僕たちは小さい頃から、醤油、味噌を欠かさず食べていますよね。きゅうりと味噌を一緒に出されてもなんの違和感もない。でも外国人はどうやって食べたらいいかわからないでしょう。それと同じように、彼らはケーキに使う食材を小さい頃から食べているから、味のイメージが自由自在。それは衝撃でした」
「本場のエスプリは日常生活の中にあった。これは日本にいてはわからなかったと思います」

MOFで働き始めて
学んだこと

パリで最初に働き始めたのは「ローラン・デュシェンヌ」。MOFに選ばれた名パティシエの店でした。MOF(Meilleur Ouvrier de France)はフランスの中でも高度な技術を持つ職人に授与される賞のこと。森シェフは日本にいた時から、先輩たちに「MOFとは自分を持っている人のこと」だと聞いていました。

森シェフ
森シェフ
「自分があるって何か。お菓子って正解がないんです。スイーツを甘くするか、しないかはその人によって異なりますよね。だから、自分を持ってないシェフは、味がバラバラになってしまう。でも、信念がある人はバチっと自分の味にできる。だからMOFの店で働きたかったんです」
フランス修行時代の一枚。二つ目の職場「モアザン」にて

パリで気が付いた
日本人の強みとは

1年後に「ローラン・デュシェンヌ」から「モアザン」というパティスリーに職場を移した森シェフ。本場での空気を感じるにつれ、感銘を受けた点がいくつかあったといいます。それは、パリの職人の仕事の早さでした。

森シェフ
森シェフ
「パリは物価も人件費が高いんです。だから、手っ取り早くたくさん作る方がいい。一流の人ほど仕事が早いなと感じました」
フランスではパン作りも菓子職人の仕事。アンヴデットのパンも人気です。

同時に日本人の良さにも気が付いたといいます。

森シェフ
森シェフ
「フランス人は100%個人プレーです。だからみんなマイペース。その一方、空気を読むという言葉があるように、日本人は組織やチームでプレーができる。手先の技術もあるし、先を読む力は抜群ですよね。チームで素晴らしいものを生み出せる日本人も、同じようにすごいんです」
フランスでの経験を胸に日本スイーツ界のトップランナーとして活躍を続けています

それではスイーツを作っていただきましょう。

店の名前「アンヴデット」を冠した看板メニューを作っていただきます

「アンヴデット」には、ケーキには一般的に使われない「松の実」のペーストが入っています。極めて珍しい食材ですが、そこにシェフならではのこだわりがありました。

森シェフ
森シェフ
「今までないものを作りたいという気持ちで、これまで誰も使ったことがないような食材を選びました。店の名前をつけるということは、うちの名刺がわり。この作品には僕の経験と技術とチャレンジが全部入っています」
テンパリングを終えたブロンドのチョコレートをフィルムの上に薄く伸ばします
定規を使ってまっすぐに整然とした切れ目を入れます
冷やし固まるギリギリのところでアーチ型に飾りつけます
森シェフ
森シェフ
「チョコレートは最初に口に入るところなので、特に力を入れています。チョコが固まるか、固まらないかのギリギリで曲げる。それが難しいんです。普通のチョコ飾りは作り置きができますが、これはケーキに沿わせて曲げるので、その日にやらないとダメなんです」
「アンヴデット」とはフランス語で「主役」。その名にふさわしい看板メニューの完成です
森シェフ
森シェフ
「ベースは口どけがいいエアリーなチョコレートムース。松の実は独特の香りを持っているので、重たいチョコだとその魅力が半減してしまうんです。豊かな香りが鼻に抜けていく感じを楽しんでください」

最後に、森シェフにとって
スイーツを作り続ける意味とは

スイーツはもちろん、店舗やパッケージデザインも手がける森シェフ。その発想の源泉はどこにあるのでしょうか。

森シェフ
森シェフ
「どんな分野だったら自分が主役になれるのか。そう考えた時、僕の強みは総合力だと思っています。お客さんに喜んでほしい、だったらどうしたらいいか。そうして考えて考えて、お店も内装も全部をプロデュースできる。そのアイデアや発想力は誰にも負けないと思います」
アンヴデットの「Vマーク」のロゴデザインも森シェフの手によるもの

おいしいお菓子を作るのがゴールではないと語る森シェフ。店頭で売られたお菓子は、ある家では食卓に並ぶ。手土産として差し入れに使われる。どうやってみんなの口に入るか、そこまで考えて作り続けるのが楽しいと笑います。

森シェフ
森シェフ
「アンヴデットの名前の通り、ケーキは場の主役にもなるし、主役へのプレゼントにも使われます。どんな場面でも人を笑顔にできたら嬉しいですよね。そして私たちの店が街の主役として輝き続けることができるよう、これからも頑張りたいと思います」
これからも街の主役でありますように
次回もお楽しみに!

取材・文/キンマサタカ
撮影/豊田 哲也

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