スイーツ界の人気シェフが実家の老舗パン店で母からもらった心得

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My スイーツ メモリー

2018/12/19

スイーツ界の人気シェフが実家の老舗パン店で母からもらった心得

人気シェフの「原点」とは。人生を決めた「スイーツの原風景」とは。作品はもちろん、スターシェフの人間的魅力を掘り下げるリレー連載5回目。今回は人懐こい性格と柔軟な発想でスイーツ界に驚きを与え続ける「エクラデジュール」の中山洋平シェフをご紹介します。

廣田祐典05

廣田祐典05

一番身近なところにあったお手本とは?

東陽町駅から数分の場所に店を構える「エクラデジュール」。周辺にはオフィス街と住宅街があり、幅広い客層から愛されています

近年、大きな注目を集める東京の東側。中でも交通の利便性が高く、豊かな自然に触れることのできる人気の街・東陽町で話題のパティスリーが「エクラデジュール」です。オーナーパティシエとして活躍する中山洋平氏はフランスから帰国後、多くの人気店を手がける日本を代表する人気シェフ。前回の「アンヴデット」の森大祐シェフからバトンを受けた中山氏が、「スイーツ」作りを志したきっかけを教えてもらいましょう。

中山洋平シェフ

中山洋平シェフ

「エクラデジュール」オーナーシェフ

ショーケースを彩る30種類にもおよぶスイーツたち。今日も多くのファンが足を運びます

\推薦者のアンヴデット・森大祐シェフからのひとこと/

アンヴデット森大祐シェフ
アンヴデット森大祐シェフ
「中山シェフは常に進化し続ける最高のパティシエです。お菓子だけでなくパンも絶品なんです!」

中山シェフがスイーツを
志したきっかけとは

夏場はTシャツ、冬は軽いダウンが定番スタイル。「動きやすさを最優先しています」
中山シェフ
中山シェフ
「実家は隣町で85年続くパン屋です。今は兄が継いで3代目にあたります。兄とは10歳年が離れているので自分が継ぐという選択肢は最初からありませんでした。叔父がケーキ屋だったし、じゃあ自分もお菓子やるかって。パンもケーキも材料は粉、卵、砂糖。一緒ですから(笑)」
ご実家は砂町で1933年から営業を続ける「ナカヤパン店」。あんぱんが特に人気です

小さい頃は実家の手伝いが嫌でしょうがなかったといいますが、自分が製菓を学べば、いつかは兄弟で協力できるという思いもありました。

中山シェフ
中山シェフ
「兄とは昔からずっと仲良し。だから、近くにいるとわからなかったけど、大人になって店を任されるようになってから、改めて実家の偉大さに気づきました。パン作りの相談をして、兄からアドバイスをもらうこともあります。兄貴のパンには勝てないですよ(笑)」
シェフの作るパンは本場フランス仕込みですが実家のDNAも組み込まれているのでしょうか

人生を導いてくれた3人の偉大な師

小さい頃はどんな子供だったのかと尋ねると、「クソガキだった」と笑う中山シェフ。遊びたい盛りの二十歳前後は製菓学校の授業にもほとんど出なかったそうです。

中山シェフ
中山シェフ
「だから最初に街のお菓子屋さんに就職したときは苦労しましたね。言葉遣いから、基本の下働きまで、徹底的に体に叩き込まれました。そこで製菓のイロハを学んだと言っても過言ではないです。でも、既製品を加工して商品を作ることが嫌で、すぐに飽きてしまったんです」
「生意気だったからかなり愛のムチを受けました」

シェフが次に選んだ職場は「ホテル日航東京」。かつての製菓学校時代の恩師が活躍していて、たまたま空きがあったことから、中山シェフを推薦してくれたのです。

中山シェフ
中山シェフ
「僕の恩人は3人。当時『ホテル日航東京』のグランシェフで、現在は『ル クール ピュー』のオーナー鈴木芳男シェフ。僕をホテルに引っ張ってくれた方です。もう一人は製菓長をやっていた山浦孝一シェフ。コンクールのいろはに始まり、社会人、人間としてのあり方を教えてくれました。そして、もう一人は人生の分岐点で常に僕の前を走っていた。北海道の渡邊俊一シェフです」
技術的にも人間としても大きな存在だった師たちは中山シェフに仕事の楽しさを教えてくれました

ホテルに入って初めて「クリエイティブ」と言えるお菓子づくりに関わることができた若き日の中山シェフでしたが、経験の少ない若者にとって毎日は驚きと失敗、挫折の繰り返しでした。そんな折、山浦さんに言われたフレーズは今でもシェフの心の中に残っています。

中山シェフ
中山シェフ
「山浦シェフはこう言いました。ホテルの料理人は客の顔が見えない。だから最初から最後までプロの仕事をするんだ。ケーキのカット、フルーツの乗せ方一つでも絶対に気を抜かない。自分たちのブランドイメージを損なうようなものは絶対に出してはいけないんだって」

そして、中山シェフは大きな気づきを得ます。一番難しいのは、当たり前のことを当たり前にやることであると。それはどんな人でも、どんな仕事でも変わらない。恩師たちはその当たり前の日々の繰り返しの中で、自分のスタイルを築き上げていったのです。当たり前のことを継続すれば、必ず自分の力になることを師たちは教えてくれました。

そして憧れの地フランスへ

さらなる高みを求めてフランス修行の道を選んだ中山シェフ。最初に着いた町は、パリからはるか遠く離れたスイスに近いオート・サヴォワにある「パトリック・シュヴァロ」でした。

中山シェフ
中山シェフ
「お前はパリに行ったら遊んじゃうって渡辺シェフがアドバイスをくれたんです(笑)。そこは本当に過酷な環境で、フランス人が日本と同じかそれ以上に働いているような店でした。おかげでフランス人はすぐに逃げ出してしまうんです」
フランス修行時代の一枚。「パトリック・シュヴァロ」はスキーリゾートの街にある唯一のパティスリーでした

忘れられないスイーツ

フランスで食べたスイーツはどれもおいしかったけれど、中でも中山シェフが忘れられない思い出の品があります。それは「タルトレットミルティーユ」。それまでタルトは大嫌いだったという、中山シェフがかつてない衝撃を受けた一品でした。

中山シェフ
中山シェフ
「なんてことない材料しか使ってないのに、とにかくみずみずしくて、一口食べると口の中いっぱいに果汁が広がるんです。フランスのお菓子に感じたみずみずしさと衝撃。それは僕のケーキ作りの原点になっているんです」

そのとき食べたタルトを再現した商品が、エクラデジュールでも提供されています。

中山シェフ
中山シェフ
「見た目はとても地味なんです。でも、食べたらびっくりすると思いますよ。フレッシュなブルーベリーは冷凍することでより水分が出ます。フレッシュなものを冷凍するという逆転の発想ですね」
ジューシー果肉を楽しめる「タルトレットミルティーユ」(420円・税別)

スイーツ作りに向いている性格
向いていない性格

「自分はパティシエには向いてない」と笑う中山シェフ。パティシエはコツコツ努力する人が向いていると中山シェフは考えているからです。新しいものを作ろうというギラギラした野心よりも、コツコツと努力と技術を積み上げるの職人肌の方がスイーツ作りには向いているんだとか。

中山シェフ
中山シェフ
「自分の性格は、イケイケどんどん。楽しいと無鉄砲に突っ走っちゃうんです。石橋は叩かないし橋がなくても飛んじゃう。落ちたらその時考えようって。スイーツを作ることは本当に好きだったから、何度挫けても立ち上がれたんでしょうね」

ものを作る好きだった幼き日の中山少年。お母さんとお父さんに昔から繰り返し言われた金言は忘れていません。

中山シェフ
中山シェフ
「目の前のことを一生懸命やれって。両親にはずっと言われてきました。目の前のことを真面目にコツコツと続けていれば、いつか必ずいいことがある。その教えを今でも守っているんです」
「ものを作ることが大好き。いくつになっても何かを作り出す仕事に携わっていたいですね」

それではスイーツを作っていただきましょう

人気のメニュー「ショートケーキベリンヌ」を作っていただきます

ベリンヌとは脚のない小さな器のことで、グラスにいれたスイーツを指します。誰もが知っているショートケーキをフランス風にアレンジします。

中山シェフ
中山シェフ
「グラスを使うことでソース状のものも入れられるようになります。そうすると作品の自由度が高くなる。単純な構成のショートケーキのイメージを変えたかったんです」
生クリームはミルキーなものと、乳脂肪分高めのものをブレンドします
見た目と食感の違いを楽しめるようイチゴは粒の大きなものと小さなものを
上からスポンジでフタをして生クリームを入れます
中山シェフ
中山シェフ
「生クリームはグラスにパンパンに詰めないのがポイントです。そうすることで、遠くから見たときに、素材同士の立体感が出て、光の加減でシルエットができて綺麗に見えるんです」
「ショートケーキベリンヌ」(520円・税別)の完成です
中山シェフ
中山シェフ
「ふんわりとしたクリームの食感と程よい甘さ。シンプルな素材が持つそれぞれの個性と、絶妙なバランスを楽しんでください」

最後に中山シェフにとって
スイーツを作り続ける意味とは

クリエイティブな仕事をするうえで必要なのは、「1+1=2」であることをきちんと理解することだと中山シェフはいいます。

中山シェフ
中山シェフ
素材同士をきちんと使えば2になるけど、2にならない危険だってある。基本を押さえた上で、創造力を発揮しないと1+1=3にできないんです。そして、3だけでなく、それ以外の答えも出さなくちゃいけない。僕はまだ2にもなってない。だから、毎日が創意工夫の繰り返しなんです」
「店で働く若い子たちには、やりたくてこの仕事をしているんだから、自分の頭で考えて 踏み出せるような人間になってほしいと伝えています」

中山シェフが作り上げたエクラデジュールも4年目を迎えました。ご実家のように自分の仕事を次世代に伝えていく使命があります。

中山シェフ
中山シェフ
「そうですね。僕はおいしいものが好きだから、料理の勉強がしたいなんて考えることもあります。和食なんていいなあ。でも、結局、ケーキを作る仕事に関わっているんでしょうね」
「エクラデジュール」とは輝かしい日々のこと。中山シェフとその作品たちは、これからますます輝きを増していくことでしょう
次回もお楽しみに!

取材・文/キンマサタカ(パンダ舎)
撮影/豊田 哲也

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廣田祐典05

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