扉の向こうに「昭和」の情景 ナポリタンの美味しい名喫茶店3軒

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ナポリタンが大好き!

2016/07/06

扉の向こうに「昭和」の情景 ナポリタンの美味しい名喫茶店3軒

「喫茶店」で出されるナポリタンは、どこかノスタルジックで独特の雰囲気があるもの。初めて訪れても懐かしい気分にさせてくれる、ナポリタンが食べられる喫茶の名店を3店紹介する。

Yahoo!ライフマガジン編集部

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懐かしいあの時代のナポリタンに逢いにいこう

昭和の頃、喫茶店の定番メニューといえばナポリタンだった。今でもナポリタンにどこか懐かしい雰囲気を感じるのは、そこに昭和の面影を感じるからかもしれない。時代とともにそういった喫茶店の数は減ったが、それでも年代を超えて愛され続けている喫茶の名店がある。今回は、懐かしくも美味しいナポリタンに逢うために、古き良き喫茶店を訪ねた。

1.さぼうる2(神保町)

著名人も足しげく通う 老舗喫茶店のボリュームナポリタン

古書街である東京・神保町にはかつて多くの喫茶店があったが、時代の流れとともにその数は減少。そんな中にあって、実に60年以上、この地で営業を続けているのが「さぼうる」だ。創業は昭和30年。昔から地元の人はもちろん、故・筑紫哲也さんや歌手の谷村新二さんといった著名人までもが通う、知る人ぞ知る名店である。出版社が多い土地柄、編集者やライターの打ち合わせ場所として使われる機会も多いという。

そんなさぼうるは、コーヒーなど飲みものだけを提供する「さぼうる」と食事もできる「さぼうる2」が隣接している。いずれも店内は温かみのある木とレンガ造りで、「古き良き喫茶店」という言葉がしっくりくる。

ランチタイムには行列ができる人気店でもある

こちらの人気メニューのひとつ「ナポリタン」の魅力は、なんといってもそのボリューム。小ぶりの皿に堆く盛られたナポリタンは「大盛り」と言っていいほどの量である。

もちろん味も文句なし。たっぷりのスパゲティに、甘みと酸味のバランスがとれたトマトソースがよくからむ。マッシュルームやベーコンといった王道の具材と、シャキッとした玉ねぎが食感にアクセントを加える。ミニサラダがついてくるのもうれしいポイントだ。

ナポリタンはサラダがセットで650円。“初めての人”はこのボリュームに驚くが、男性はもちろん、女性客もぺろりとたいらげていくという

さぼうるの名物店主、御年83歳の鈴木文雄さんは、はにかみながら言う。

「このあたりで店を長続きさせるには、“安い”“早い”“うまい”、それから“量が多い”が大事。うちはもともと(パスタの)分量をはかっていなかったから、だんだん多くなっちゃってね」

ランチタイムには厨房は大忙しに

鈴木さんのこうしたサービス精神は、店のいたるところで発揮されている。子連れのお客さんには小さなアイスクリームをサービスしたり、遠方から訪ねてくれた人には、帰り際に記念写真を撮ったりと、店内の様子を見ながらスタッフに指示を出す。

鈴木さんは言う。

「サービス業は、これでもかっていうくらいにサービスをしないと。テレビ番組で紹介されるお店なんかを見ても勉強になるし、お客さんが帰るときに『また来よう』って言ってくれるか、それともサービスに満足していない様子なのかというのも、参考にするようにしていますよ」

この飽くなき営業努力と向上心が、60年以上もの間、多くの人に愛される店をつくってきたのだろう。

鈴木さんは現在も、朝からさぼうるの店先に立ち、客を出迎えている。お腹をしっかり満たしてくれるナポリタンと、愛される名物店主に会いに、訪れてみてはいかがだろうか。

店主の鈴木文雄さん。鈴木さんに会いにやってくる客も少なくないようだ

2.POWA(新橋)

入り組んだビルの奥で出合う 喫茶室の“もっちり”ナポリタン

R新橋駅前にある「ニュー新橋ビル」。飲食店やマッサージ店など、様々なテナントが入るこのビルは、昭和46年の落成から「サラリーマンのオアシス」の役割を担ってきた。

オレンジ色の看板がレトロな雰囲気を醸し出す

そのビルの2階にある「POWA」は、ビルの完成とほとんど同時期にできた喫茶室。マッサージ店の呼び込みをかいくぐりながら、入り組んだ2階フロアを進んでいくと、その奥にレトロな「POWA」の看板が見えてくる。店内の照明は柔らかく、ソファ席なのでリラックスした雰囲気で食事やお茶を楽しむことができそうだ。新橋という立地から、古くからサラリーマンの憩いの場として愛されてきたが、最近では女性がひとりでやってくることも少なくないという。

全席ソファ席なのでゆっくりくつろぐことができそうだ

ナポリタンはそんなPOWAの人気メニューのひとつ。昼時には新橋で働く男女が次々とオーダーしていく。こちらのナポリタンの魅力は、何と言ってもスパゲティ。もっちりとしたスパゲティは歯触りがよく、程よい噛みごたえがある。

店長の宇野正人さんは、ナポリタンこだわりについて次のように話す。

「うちのナポリタンは強火で一気に炒めるのがポイント。ちょっと焦げ目がつくぐらいにして、香ばしく仕上げています」

ほんのり焦げ目がついたスパゲティに絡むのは、やや濃いめで、しっかりとした味付けのトマトソース。仕事で疲れた体にガツンとパワーを与えてくれそうだ。

ナポリタン(690円)はほんのり焦げ目がついて香ばしい

宇野さんはPOWAでは35年間、店長を務めているが、それ以前にも数々の喫茶店で働いた経歴がある。「昔ながらの喫茶店」を知り尽くしている人物だ。そんな宇野さんは、昔と今では喫茶店の役割が変わってきたと感じている。

「昔の喫茶店は待ち合わせの場所として使われることが多かったんです。携帯電話もなかったから、当時は喫茶店での『電話呼び出し』がすごく多かった。お客さんから店に『○○さん呼んでもらえますか?』なんて電話がかかってくる。そうすると店は、『○○さん、お電話が来ておりますので、レジ前に来てください』なんていう具合に店内アナウンスをするんです。電話があんまり多いんで、お昼の忙しい時間帯は受話器をはずしていたこともありました(笑い)」

かつては「呼び出し」に使われたピンク電話は現在も店内に鎮座している

携帯電話が普及した今ではそうした「呼び出し」はないが、店内には当時使われたピンク色の電話が残っている。また、実はPOWAのテーブルにはメニューが置いていないのだが、それも喫茶店ならではのこだわりなのだとか。

「喫茶店では、もともとメニューを見て注文するお客さんが少なかったんです。レストランなんかはメニューが多いので選ぶ必要がありますが、昔は『喫茶店に入ろう』となると、だいたい飲むものはその人の中で決まっていることが多かった。だから、店員がメニューを見せる前に注文をするお客さんがほとんどだったんです」

そのためいつしか「喫茶店ではメニューを見ずに注文するもの」という空気が生まれたという。もちろん、しっかりメニューを見て注文したい時は「メニューを見せてください」と言えば出てくるのでご安心を。

絶品ナポリタンはもちろんだが、こうした昔ながらの喫茶文化を体感できるのもPOWAの魅力。新橋に行く際には、是非訪ねてみたい店だ。

柔らかな照明が仕事に疲れたサラリーマンを癒してくれそうだ

3.イノダコーヒ本店(京都)

木漏れ日のテラス席で、京都のハイカラなナポリタンを堪能

京都文化博物館や、レンガ造りの「旧第一銀行」など、歴史ある建築物が居並ぶ京都の三条界隈。そんな三条で、レトロモダンな雰囲気を漂わせている喫茶店がイノダコーヒ本店だ。

その歴史は古く、創業は昭和15年。戦前から続くこの名店を支えるのは、地元の常連客。小さい頃に親に連れられてやってきていた常連客が、今度は自分自身が親になって、子連れでやってくることもあるという。まさに世代を超えて愛される、この土地に根差した店なのだ。

雰囲気ある佇まいに足を止める観光客も多いのだとか

店の外観も、歴史を感じさせる。昔から本店として営業していた建物は、白亜の壁が美しく、ハイカラな雰囲気。現在は「メモリアル館」と呼ばれており、店内にはその歴史を映した写真や、創業当時からあるという大理石のカウンターが鎮座する。

メモリアル館に隣接する長屋風の建物は、もともとは呉服屋さんだったが、イノダコーヒ創業の数十年後に買い取ったもの。こちら現在は「本館」と呼ばれ、店舗のメインフロアとなっている。外からは見えないが、奥には洋館風の「旧館」も。どの建物も雰囲気は違えど、京都の街に馴染む風情がある。

メモリアル館には、当時の雰囲気を残すレトロな家具が置かれている

「本館」「旧館」「メモリアル館」、それぞれに魅力的な建物だが、これからの季節にぴったりなのが、本館のテラス席だ。緑豊かな庭に設けられたテラス席は、新緑の季節から夏頃にかけて人気が高い。木漏れ日の中、柔らかな風や噴水の水音が感じられる、まさにオアシスのような場所だ。

メモリアル館に置かれている大理石のカウンターは創業当時からあるもの

そんな癒し空間で食べるナポリタンは、外見からして上品な佇まい。イノダコーヒでは「イタリアン」の名で提供されている。銀の食器は蓋つきで、フランス料理を思わせるような、ハイカラな雰囲気だ。

テラス席は初夏~秋にかけて人気が高いという

太目のスパゲティと、薫り高くなめらかな味わいのトマトソースが食欲をそそる。しかしなかでも注目したいのは、具材のひとつであるハム。実は“特注品”だそうで、そのこだわりについて、店長の植坂理栄子さんはこう話す。

「お店で使用しているハムは、塩漬けの時間や燻製時間などをハム工房に指定して、イノダコーヒ用に特別に作ってもらったハムなんです。厚めに切ってあるので、噛みごたえもあります。スパゲティとの相性はもちろんですが、ハムだけで食べるとその深い味わいがより強く感じられますよ」

確かに、噛むたびにハムの深い味わいを感じられる。濃厚なトマトソースとの相性も抜群だ。

イタリアン(860円)。天気の良い日はぜひテラス席で味わいたい

席数が多く、ゆったり過ごせるのが魅力のイノダコーヒ。最近では観光客も増えているというが、それでも店を支えるのは古くからの常連客だ。植坂さんは言う。

「常連のお客様から、たまに『ここをこうした方がいいんじゃないかな』といった風に、お店についてアドバイスをいただくこともあるんです。お店を自分の場所のように考えて、もっと良くしようと思ってくださってるようで。お客様と一緒にお店づくりをしているような感覚がありますね」

常連客の中には、モーニングを食べた後、ランチに来て、さらに午後にコーヒーブレイクをしに来る……といった具合に、日に何度もやってくる人もいるという。古くから変わらないこの店を、まさに自分の家の一部のように感じているのかもしれない。

京都の人々を魅了するハイカラな喫茶店、ぜひ常連になってみたい店だ。

常連客とともに愛される店をつくる植坂理栄子店長

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