滋賀県大津市の「泊まれる商店街」が、地域を救うかもしれない。

2019/02/02

滋賀県大津市の「泊まれる商店街」が、地域を救うかもしれない。

かつての日本にあった「講」という相互扶助組織の制度を復活させて建てられた滋賀県大津市のホテル『商店街HOTEL 講 大津百町』。商店街を観光資源化し、100年後も使用できる“現代の町家”として生まれ変わった7軒の町家の全貌に迫ります。

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日本の古き良き「助け合い精神」を現代に。

かつての日本には、「講」という相互扶助組織がありました。誰かが困った時にみんなで手を差し伸べる制度で、参詣による「伊勢講」「熊野講」や、経済的に地域で支え合う「頼母子講」などが代表的です。戦後になって「講」は解体されましたが、最近滋賀県で、その日本人の支え合う精神のもと復活された「講」があります。それが、『商店街HOTEL 講 大津百町』です。

5棟ある一棟貸し町家の中で一番広い「鍵屋」。

工務店と雑誌がタッグを組んだホテル。

大津はかつて「大津百町」と呼ばれ、東海道五十三次最大の宿場町として賑わった街です。しかし現在ではその面影もなく、駅に近いこのアーケード商店街も空き家が目立つように。築100年を超える町家の維持もできず、多くが取り壊しの危機にありました。その現状を何とかしようと動いたのが、滋賀県竜王町で谷口工務店を営む谷口弘和氏。雑誌「自遊人」を発行し新潟県南魚沼市で体感型宿泊施設「里山十帖」を運営する『株式会社自遊人』に相談を持ちかけ、メディア型ホテルにするというプロジェクトが生まれました。

「丸屋」ダイニング。フィン・ユールの「カードテーブル」などを配した。

観光地ではない普通の街に、観光客を呼び込む。

このプロジェクトが他のデベロッパーや大資本が行うホテル建設と異なるのは、「作る」という使命を根幹に持つ民間企業2社が始めたタウンマネジメントプロジェクトであるということ。地域に密着し「社内大工の技術力」に誇りを持つ谷口工務店と、メディアディレクターでありオペレーターとしても実績がある自遊人のタッグは、「ホテルという媒体を通じて商店街を観光資源化することにより、生活圏外の人々の消費を取り込む」という互いの強みを生かした新たな社会実験でもありました。そうして彼らが蘇らせたのは7軒の町家。デザイン面はもちろん、実用性と快適性を重視して、今後さらに100年使用できる「現代の町家」として誕生したホテルは、『講 大津百町』と名付けられました。「伊勢に詣でたように大津に来て欲しい」「古き良き日本を感じて欲しい」「旅する人々に街の活性化を担って欲しい」という想いからです。

ベッドはすべて、アメリカ・シーリー社のハイクオリティーシリーズを採用。

町家にヤコブセン。居心地にはとことんこだわった。

『講 大津百町』は、「近江屋」「茶屋」「鍵屋」「丸屋」「萬屋」「鈴屋」「糀屋」の7棟で構成。ゲストハウスなどとは異なり、全室にバス・トイレを完備し、防音・断熱も最大限の工事を実施。できる限り元の梁や柱を生かしたり、土間の吹き抜けや中庭もそのままにしたりと、古来の町家の快適性や風情を損なわないよう工夫を凝らしています。家具はアルネ・ヤコブセンやフィン・ユールといった北欧デザインにこだわり、和モダンな空間に仕上げました。

長等商店街にほど近い、かつて花街として栄えたエリアに建つ「糀屋」のLDK&ベッドルーム。

一人旅からファミリーまであらゆるニーズに。

7棟すべて間取りやデザイン、家具も異なるのも魅力の一つです。例えば「近江屋」は、フロントとレストラン、宿泊者専用ラウンジ、客室3部屋を擁する大型の町家。部屋は定員2名のスーペリアツインで、一人旅やビジネスユースにも最適です。

「茶屋」も大きな町家で、デラックスツインやスーペリアツインなど5室を備えます。その一室は、風情溢れる庭に面した部屋。ここで茶会を開くこともできる風趣豊かな和室です。アルネ・ヤコブセンの「エッグチェア」や「スワンチェア」でくつろげるという点もポイントです。

「鍵屋」は、明治時代築の小ぢんまりした2階建ての長屋。一棟貸し切りタイプで、バスルームは檜の浴槽を設えた贅沢な造りです。「丸屋」「萬屋」「鈴屋」「糀屋」も一棟貸しスタイル。いずれもミニキッチンやダイニングキッチンを備えているため、自分たちで食材を購入して調理を楽しむことができます。

「糀屋」ではダイニングキッチンを囲みながら料理や食事ができる。ミニパーティーにもいい。

これからの観光は、より地域に根ざしていく。

ホテルは「丸屋町」「菱屋町」「長等」というアーケード商店街にあり、大津の中心部として庶民的な活気に包まれています。近くには本モロコやイサザをはじめ琵琶湖の淡水魚が何でも揃う鮮魚店や、宮内庁御用達だった漬物店、コロッケが40円という精肉店など地元密着の商店がたくさんあり、近所の人が集まる居酒屋やモーニングが人気の喫茶店など飲食店も充実しています。

「街に泊まって、食べて、飲んで、買って」をコンセプトにする新しい形のホテル。商店街の活性化や古民家再生といった街へのベネフィットだけでなく、旅行者もその土地の素顔にふれられ、ほかにはない体験を得ることができる―。この新たな価値を創造する宿泊のスタイルが、これからの旅のスタンダードになるかもしれません。

「鈴屋」の2階には路地を見下ろす空間や、書斎も設けられている。
リノベーションの際に断熱を徹底しているため、冬でも隙間風に悩まされる心配はない。
「町家=和の家具」という概念にとらわれず、快適性を追求。

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