伊勢志摩サミットで活躍したパティシエが大事にする2つの視点

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My スイーツ メモリー

2019/02/05

伊勢志摩サミットで活躍したパティシエが大事にする2つの視点

伊勢志摩サミットで要人たちをうならせたパティシエは、ときに修行僧とも呼ばれるほどのストイックな性格で知られています。「My スイーツ メモリー」vol.8は、世界を相手に戦い続けている赤崎哲朗シェフがたどり着いた境地に迫ります。

廣田祐典05

廣田祐典05

伊勢志摩サミットで要人の舌をとろけさせたシェフが、大事にする「主観と俯瞰」の両眼

大阪のランドマークあべのハルカスにある大阪マリオット都ホテル

国内外のコンクールで輝かしい成績を残し、伊勢志摩サミットではすべてのスイーツを担当するなど、国内外に名を轟かせる偉大なシェフがいます。彼の名は赤崎哲朗。前回の「カルチェ・ラタン」の冨田大介シェフからバトンを受けた赤崎氏が、「スイーツ」作りを志したきっかけを教えてもらいましょう。

赤崎哲朗

赤崎哲朗

大阪マリオット都ホテルペストリー料理長

\\推薦者の「カルチェ・ラタン」
冨田大介シェフからのひとこと//

冨田大介シェフ
冨田大介シェフ
「赤崎シェフは『クープ・デュ・モンド』を共に戦った仲間です。お菓子はもちろん生き方を大事にする人で、こういうしっかりとした考え方を持って生きている人が作るお菓子はやはりこうなるよね、と納得できます。彼の作るお菓子も、彼自身の生き方も魅力的で、尊敬すべき菓子職人です」

ずっと憧れ続けた父親の背中

大阪マリオット都ホテルをはじめ都ホテルグループのスイーツを統括する赤崎哲朗シェフの原点とは

物心ついた頃から、「お前は料理人になれ」と言われて育ったという赤崎シェフ。大きくなったら自分は料理人になるんだと信じて疑わなかったといいます。

赤崎シェフ
赤崎シェフ
「父親は洋食の料理人で、最後はホテルの総料理長をつとめました。幼い頃は父親のかぶる高いコック帽に、きれいな制服、そして父の下で働くたくさんの料理人。その姿に憧れたことを覚えています」
「僕が生まれたとき父はスイスにいました」。父親と一緒に家族も地方を転々としたとか

忙しいお父さんでしたがとても子煩悩で、可愛がってもらった記憶しかないという赤崎シェフ。そんなお父さんが子供のために料理の腕を奮ってくれる特別な日が月に一度ありました。赤崎少年は常にその日が待ち遠しかったといいます。

赤崎シェフ
赤崎シェフ
「料理があまり得意でなかった母親と比べるのはかわいそうなんですが、父親の料理は段違いにおいしくて。ごはんがとにかく進むし、なんでこんなにおいしいんだろうって不思議で。同時に料理にはピンとキリがあることを知ったんです。そこから『おいしいものを食べたい』という執着が生まれたんだと思います」
お父さんが作ってくれるのはハンバーグやグラタンなどの子供が好きなメニューで、ソースもすべて手作りでした(写真はイメージです)

父親から一方的に告げられた進路

幼い頃にお父さんが自宅のキッチンで奏でる包丁のリズムを覚えているという赤崎シェフ。父の背中を追いかけて自分も料理人になりたい。その夢の第一歩を踏み出すため、専門学校に進学しようと考えていた赤崎シェフに対して、お父さんが告げたのはあまりに意外なひと言でした。

赤崎シェフ
赤崎シェフ
「学校に行っても遊ぶだけだからすぐに働けと言われました。さらに、コックではなくパティシエになれと。物作りが好きで手先が器用なので、そっちの方が向いているし特性を活かせると考えたんでしょう。まさか日本代表になるとは思っていなかったでしょうが(笑)」
大阪マリオット都ホテル19階にある「M-Boutique」のショーケースには赤崎シェフの描いた美しい飾り付けの色とりどりのケーキが並びます

高校卒業後はお父さんの紹介でホテルの製菓部門に入った赤崎シェフ。生来の器用さゆえ、「そこそこの仕事はしていた」と若手時代を懐かしそうに振り返ります。そんなある日、若き日の赤崎シェフは製菓の専門雑誌をパラパラめくるたび、必ず手が止まってしまうページがあることに気がつきました。

赤崎シェフ
赤崎シェフ
「そのページを見るとなぜか心がざわつくんです。なぜだろうと思って調べたら、すべて同じシェフが作ったお菓子だということがわかりました。それが僕の師匠である松島義典シェフとの出会いでした」
「お菓子を見てこんなにも心を揺さぶられたことがなかったんです」

憧れのシェフのもとで働き始める

「M-Boutique」はホテルならではの豊かな品揃えが魅力です

すぐに仕事をおぼえて立派な働きをする赤崎シェフは、どこの職場でも重宝されていました。しかし、目の前の膨大な仕事に忙殺され、「食べるお客さんの顔まで想像できていなかった」と当時を振り返り苦笑いします。そんな日々の中で、雑誌の1ページから見えた一筋の光。鬱屈とした思いを抱えていた若き日の赤崎青年は、すぐに行動に移します。ベッドマットだけを手に、松島シェフの働く名古屋に押しかけたのです。

赤崎シェフ
赤崎シェフ
「当時、松島シェフはコンクールの賞を総なめして天才と呼ばれていました。スイーツ界のスターがどんな仕事をするのか見てみたいという野次馬根性ですよね」
名古屋で働き始めた頃の赤崎シェフ。親しみを込めて「親分」と呼ぶ松島シェフとの師弟関係はこの地から始まりました

松島シェフの超絶した技術と仕事ぶりを目の当たりにして「圧倒された」という赤崎シェフでしたが、経験を重ねていたこともあり、だんだんと大事な仕事を任されるようになります。同時に師匠の勧めで製菓コンクールに出るようになりました。

赤崎シェフ
赤崎シェフ
「なまじっか器用だから、コンテストではいつも賞に入るんです。その後も色々と挑戦すると、賞には入る。でも、優勝はできない。師匠からは『お前は勝つ気がないんだ』とバッサリと切られました」

あまりにストレートなそのひと言が、赤崎シェフが飛躍する大きな転機となったのです。

勝つ気がないと言われ気が付いた二つの視点「主観」と「俯瞰」

「お前は勝つ気がない、こなしていると怒られる。まじめにやってるのになんでだろうと思っていました」

松島シェフからの期待を感じながらも結果を出せない日々。あるコンクールの実技部門に参加した赤崎シェフは、最高に気合の入った状態で、指紋ひとつないピエスモンテ(工芸菓子)を作り上げました。いつも以上の手応えを感じたシェフは優勝を確信しました。しかし結果は3位。

それとは別のコンクールで、徹夜続きでヘロヘロの状態で作り上げた作品が、なんと2位に選ばれました。

赤崎シェフ
赤崎シェフ
「なんやねんって思いますよね。でも、そのとき、自分の精神状態のピンとキリを知ったんです。そしてできあがった作品を比べたときに、主観と俯瞰で自分の仕事と作品を見ることができるようになった。それは大きな気づきでした」
あの頃の赤崎シェフのように、一流の仕事を学びたいと切望する若き職人の目は真剣そのものです

ホテルマンの基本はお客様に喜んでもらうことです。それと同じように、お菓子作りも、コンテストもお客様が軸になっていると改めて気がついたのです。つまり、作った本人が満足していても、相手に伝わらなければ意味がないということを。

赤崎シェフ
赤崎シェフ
「僕は若い子たちにこう伝えています。どんな手を使ってもいいからお客さんを笑わせろと。味でも、プレゼンテーションでも、ちょっとした演出でもいい。作って終わるんじゃない。伝えることに100%のこだわりと自分のセンスを載せるんだって」

そうすればお客さんも嬉しい、自分も嬉しい。おいしいお菓子は、みんなを幸せにすることができるのです。

職人として大事なものとは

その翌年、「絶対に優勝します」と周囲に宣言して退路を絶ち、その言葉通り結果を出した赤崎シェフ。のちに日本代表にも選ばれ、世界を相手に素晴らしい成績を残しました。

赤崎シェフ
赤崎シェフ
「コンテストではじめてグランプリを獲ったときは集中していて、それこそゾーンに入ったような状況でしたね。こんな境地を味わえることはそうそうないでしょう。僕は死ぬまで職人でありたいんです。だって、こんな面白さを知ったらもう抜けられないですよ」
「僕は負けず嫌いですけど、人と比べられて負けるのは気にならない。勝ち負けを判断するのはどうせ他人ですから」

料理人にとって大事なものはなにか、という問いに「感受性」と答えた赤崎シェフ。若いうちは与えられた仕事でも頭を使って、ときに疑問をもって食材と向かい合うことが大事である。シェフと同じものができないのだったら、その違いは何かを常に感じてほしいといいます。

赤崎シェフ
赤崎シェフ
「物の本質が見えてきたら、結果を出すためにどういう仕事をしたらいいか考える。主観と俯瞰で物事を観られるか。作って終わるんじゃない。翌日になっても食べたことを覚えてくれるようなお菓子を作るためにどう努力をすればいいのか。若い人にはそれを考え続けてほしいと思っています」
食の見聞を広めるために若い職人たちと食事に行くことも多いといいます
赤崎シェフ
赤崎シェフ
「お菓子を見せるのはショーケースだけではありません。自分次第で活躍の場を広げられる。自分の血肉となったものは、必ず作品に反映されるんです」

それではスイーツを作っていただきましょう

人気の「カフェキャラメル」を作っていただきます

アーモンドパウダーが入ったビスキュイは口の中でほどけるように計算して焼き上げられています。

赤崎シェフ
赤崎シェフ
「生地はヘーゼルナッツとコーヒーの香りを抽出したミルクチョコでコーティングしています。食感と味わいの両方を楽しんでください」
ほろ苦いキャラメルクリームが味をまとめます
赤崎シェフ
赤崎シェフ
「お菓子作りの最後は、必ず手で仕上げます。2度と同じ形は描けない。だからひとつひとつのお菓子と真剣に向き合う必要があるんです」
コーヒーのシロップをたらし
少しキャラメルコーティングしたヘーゼルナッツを添え、最後に金箔を飾り付けます
赤崎シェフ
赤崎シェフ
「キャラメルのフレーバーとナッツの食感。ヘーゼルナッツはデコレーションであり味の一部です」
「カフェキャラメル」の完成です
赤崎シェフ
赤崎シェフ
「主役はコーヒ、そこにキャラメルというアクセント。そしてヘーゼルナッツの食感という抑揚。その3つの個性とハーモニーを楽しんでください」

さいごに

お菓子作りで大事なのはおいしさを伝えること。だからこそ、味が決まった時点で、飾りつけはおのずと決まると赤崎シェフは強く思っています。

赤崎シェフ
赤崎シェフ
「味を壊してまで足し算をするくらいなら、飾り付けなんてしなくていい。物事の本質が見えれば、そうやって答えが出る。最高の結果を出すためには、どういう仕事をしたらいいか、主観と俯瞰で物事を判断できるからです」
「夢を持って目を輝かせている若い人に僕の経験を伝えていきたいんです」

もし自分に人より秀でているものがあるとするならば、「その二つの視点を常に持っていること」だと語る赤崎シェフ。お菓子作りはシーンや相手によって刻一刻と変化することもあり、どんな場面でも対応するには、準備と積み重ねてきた経験が大切だからです。それを若い職人に伝えていきたいと笑います。

赤崎シェフ
赤崎シェフ
「僕は自分にも他人にも厳しいほうだと思いますし、目標に向かって妥協しないで生きてきました。若い子たちには、僕が気づいた大事なことを伝えていきたい。それがこれからの僕に与えられた使命だと思っているからです」
お楽しみに!

取材・文/キンマサタカ(パンダ舎)
撮影/木村 雅章

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廣田祐典05

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