悩める精神科医に笑いを。そんな立ち食い蕎麦屋がありました。

連載

星野概念のめし場の処方箋【Vol.21〜】

2019/01/31

悩める精神科医に笑いを。そんな立ち食い蕎麦屋がありました。

精神科医として総合病院に勤務する傍ら、文筆、音楽、ラジオなどマルチに働く星野概念が「食べに行く」という行為を通して、「こころ」に関する気づきをひも解く。

星野 概念

星野 概念

精神科医

悩める時、不安な時、それらから焦点をずらしてくれるものがあるといいです。

こんにちは、精神科医の星野概念です。

この連載は、日常の食生活の中から僕が感じたり考えたりしたカウンセリング的要素をみなさんにご紹介するものです。

寄席が好きで、悩みがない時もある時も足を運びます。悩みがある時、寄席は僕にとって救いの糸口にすらなります。そして、落語が流れる立ち食い蕎麦屋がありました。今回はそんな話です。どうぞ!

  

【目次】
1.落語蕎麦
2.悩みや不安から焦点をずらすコツ


1. 落語蕎麦

・寄席ってホントに素晴らしい

落語が好きで、よく寄席に足を運んでいます。

何か悩みがある時って、グルグルグルグルそのことばかり考えてしまって、考えるのをやめたいと思ってもなかなか難しいですよね。

そんな時にも僕は寄席に行きます。

  

寄席の主役は落語です。個性あふれる噺家さんたちが20〜30分程度の持ち時間でかわるがわる登場します。

  

そして、噺家さんが何人か続くと、いろものさんが時々出てきます。漫才師、手品師、曲芸師、モノマネ、音楽漫談、など様々な芸で笑わせてくれます。

寄席はつまり、笑いのおもちゃ箱のような場所で、

  

息をつく間もなく色々な芸人さんの芸を堪能しているうちに、グルグル悩んでいたことの脳内濃度がかなり薄くなります。

  

そうすると、寄席を出る頃には

「ま、いっか」

と平常心に戻れることが多いのです。

平常心に戻れば、問題に対して冷静に向き合うことができるので、心がざわつきすぎることもありません。

笑って忘れる、ではなく、笑って落ち着く

  
  

というのが、僕が勝手に見出した寄席の素敵な側面の一つです。

・ある飲み会の後……

先日、といっても結構前ですが、ある飲み会でなんだかクサクサした気分になることがありました。

  

別に誰が悪いわけではない。悪いとすれば自分……。でも、分かっていても過ぎてしまったこと、言ってしまったことは仕方ない。どうしたらこの後がうまくおさまり、自分も含めた皆が嫌な気分にならずにすむのだろう。

  

まぁ、ものすごく抽象的に書いていますが、そんなことを考えてふてくされた気分で夜の渋谷を歩いていた時がありました。

そんな時考えるのは

あぁ、寄席に行きたいなぁ

  

ということだったりします。

サウナもいいけど、サウナはリラックスできる反面、時間の流れがスロー過ぎて、グルグルした考えがおさまらなくなる時があるのです。

寄席に思いを馳せながら歩いていたら、だんだん蕎麦が食べたくなりました。

  
  

落語には蕎麦が多く出てきます。

特に、噺の中でも、人情噺のようなしっかりとしたものよりも、ただ蕎麦の会計をごまかすとか、蕎麦をものすごくたくさん食べられる人の噺とかの方が、なんだか自分の日常と重ねることができるので僕は好みです。

よし、こうなったら立ち食い蕎麦を食べよう。

  

決心してたまたま行き着いたのが

蕎麦 冷麦 嵯峨谷

でした。

・変わった立ち食い蕎麦屋

まぁ、立ち食い蕎麦屋ですから、特に決心して入るというほどではないと思うのですが、嵯峨谷は一風変わった、こだわりを感じる蕎麦屋でした。

まず度肝を抜かれたのは、入ってすぐに石臼があり、蕎麦を挽いています!

こだわりの手打ち蕎麦屋であれば石臼があるのは納得できます。でもここ、立ち食い蕎麦屋なんです。

挽いた蕎麦粉は、店内の製麺機で麺になります。

この麺がまた、十割!! トワリ!!
カタカナで書くとフランス語みたい!

十割蕎麦というのは、つなぎを使用しない、100%蕎麦粉でつくる蕎麦です。

え? てことはコストがかかる。
つまり、立ち食い蕎麦屋だけど結構お高いお店に入ってしまったのか!?

  

えっと、値段値段……

きゃぁ!もりそば 290円!!

価格破壊とはこのことです。
価格破壊の意味を全く知らないまま言いましたが。

  

なんだかすごく幸せを手にしたような気分になり、納豆蕎麦を注文。

ついでにビールでも、と思ったら、

  

はぁ……、

プレミアムモルツが150円!

もう、嬉しくて失神しそうです。

  

・あれ? 聞こえてくる!

もうルンルンで席につき、プレモルを呑りながら蕎麦を待ちます。

  

こりゃぁたまんないね、なんてちょっと脳内口調も江戸感を帯びてきます。

あれ、ちょっと待って。

なんか落語が聞こえる気がする。

  

え、幻聴?

  

いや、違いました。

なんと、店内に落語が流れているのです!

その時聞いたのは、5代目 柳家小さん
大名人!!

  

運ばれてきた蕎麦は十割ですから、香り高く歯ごたえ良し。

ビールうまし。

落語、嬉し。

「あぅ蕎麦屋、贔屓にするぜぃ」

と内言しつつ、心からご馳走さまでした。

  

あれ、そういえば何で悩んでいたんだっけ?

この時ばかりは、落ち着く、ではなく、忘れてしまいました。

2.悩みや不安から焦点をずらすコツ

・悩みや不安のやっかいさ

悩みや不安の求心力はとても大きいです。

ずっとそのことを考えさせるほどの存在感の大きさがあります。

しかも、考えているうちに

「〜〜ってならないか不安」

  

というものだった思考がだんだん

「〜〜ってなるに違いない、ヤバい!」

  

という形になり、不安が膨らんで、気づいたら不安の内容を確信してしまい妄想の域に達することがあります。

そうなると、平常心は保てず、なんだかおかしなメールをしてしまうなど、行動も冷静さを欠くようになります。

  

・助けてくれるのは

そんな時、助けてくれるものの一つは、考えの焦点を悩みや不安から外してくれるものです。

  

それは何か。

例えばそれは、自分が夢中になれるものです。

悩みや不安にとらわれている状態というのは、悩みや不安に夢中になっている状態と言えます。

なので、それ以上に夢中になって、悩みのことを考えてる場合ではない状態にしてくれるものを知っておくと良いです。

これはなかなか探すのが難しい場合もありますが、僕の場合は寄席に行くことがその一つです。

寄席に行ったからといって悩みや不安の種が解決するわけではないのですが、先ほども書いたように、

笑って忘れる、ではなく、笑って落ち着く

  
  

ということを実感しています。

大抵の場合、寄席を出る頃には

「まぁ確かに大変な問題ではあるけど、そこまで思いつめることなかったな」

と冷静になっていることが多いです。

これぞ、笑いの力!!

・笑いの力

笑えばなんでもいいというわけではないし、人によってはユーモアが肌に合わない人もいるかもしれません。

でも、なんだか辛い時に笑いを求めるというのは、バランス的にも大きな間違いはないような気もします。

肌に合う方は、ぜひ笑いを!!

  
  
  
  

文・構成:星野概念
イラスト:権田直博


星野概念(ほしのがいねん)

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精神科医

権田直博(ごんだなおひろ)

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画家

この記事を書いたライター情報

星野 概念

星野 概念

精神科医

総合病院に勤務し、日々精神医療に従事する傍ら、執筆や音楽活動を行う。

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