世代を超えて愛される、もっちり&ふわふわのこだわりの食パン。(「TOKK」)
Yahoo!ライフマガジン編集部
美味しいだけじゃない! 卵不使用&無添加のこだわり
神戸市灘区のJR六甲道駅から、高架沿いに徒歩約10分の小さな食パン専門店「地蔵家」。営業時間は月~土の11:00から売り切れまでなのですが、昼までになくなることも多く、「予約しないと買えない食パン」と言われるほど! 毎週水・木曜は“レーズンパンの日”で、この日は行列ができることもまれではありません。
専攻は中華料理!? 元々はパンにこだわっていたわけではなく……
「地蔵家」のオーナーの中原親則さんがお店を立ち上げたのは2002年。当時はまだ食パン専門店が少なかったので、中原さんは、いわば食パン専門店のフロントランナー。だから、食パンに対する並々ならぬ思い入れがあったのかと思いきや、どうやら最初からそうではなかったようです。
- オーナー 中原さん
- オーナー 中原さん
- 「元々、自分が作った料理を食べて喜んでもらえるのが好きで、パンにこだわっていたわけではないんです。調理の専門学校にも通ったのですが、専攻は中華でした。パン作りを始めたのも、カフェをやりたかったから。そこで自分で焼いたパンを出したかったので、パン屋で修業を始めました。しかし、パン作りを覚える前に阪神・淡路大震災が起こり、修業先のパン屋がつぶれてしまったんです」
幅広く愛される、柔らかで美味しいパン作りが始まった
しばらくはパン作りから離れ、運送業や探偵などさまざまな仕事に就いた中原さん。その後、たまたま縁があって、とあるパン屋のオーナーに「パン屋をやらないか」と声をかけられ、1年ほどかけて食パンの作り方を習得しました。そして、お子さんが生まれたちょうど1年後、お店を立ち上げます。
- 中原さん
- 中原さん
- 「うちの食パンは無添加で、さらに卵不使用なんですが、そのきっかけはうちの子どもなんです。オープン後しばらくして、子どもがアレルギーを発症していることがわかりました。お医者さんから、『アレルギーの人でも食べられるパンがあったらいいですよね。作ってみたらいかがですか?』と言われて……。それから『アレルギーに悩む人も食べられるパンを作ろう!』と、誰でも安心して食べられるパン作りを始めました」
さらに、中原さんは食パンの柔らかさやコクも追求し、これまでのパン作りの常識を覆すような材料探しに奔走したそう。
- 中原さん
- 中原さん
- 「ケーキで使うバターや生クリームなどで食パンを作っているのも特徴です。例えば、うちが使っている生クリームの仕入先は日本で19店舗としか取引していないところなんですが、その中でパン屋はうちだけで他の18店舗は全部ケーキ屋なんだそうです。一般的に、パンに使われる生クリームよりも、ケーキに使われる生クリームの方が価格は高く、濃厚な味わいなんです。だから、生クリームの風味とコクでうちに勝てるところはないと思っています」
水にもこだわり、ミネラル、酸素、炭素のバランスがよく、パンが膨らみやすい軟水を使用。パンの品質を安定させるために、「水質が変わるとパンが固くなる」などの理由で近くにもう1軒あった支店を閉めたほど。さらに、柔らかさを追求し、生地作りにも手間をかけています。
- 中原さん
- 中原さん
- 「昔ながらのパン作りは普通、こねるのにあまり時間をかけません。これをうちでは1つずつ丁寧にこねているんです。他の店で修業した人にうちの店で生地をこねているところを見せると、『時間をかけ過ぎている』と言われますね。でも、かけた手間や時間が噛んだ時のふんわりとした弾力や、もっちりとした生地の伸びになるんです」
こねた直後の生地を触らせてもらったところ、「グッ」と弾き返されました。想像していたのと全然違う感触で、指で押しても沈みこまず、ボールのような強い弾力にびっくり!
- 中原さん
- 中原さん
- 「安定剤を入れると、時間をかけてこねなくても柔らかいパンはできます。技術も必要ありません。でも、無添加とは言えなくなるんです。使っている小麦粉はグルテンが多く含まれていてよく伸びる性質があるので、それを活かすようにしています」
次に中原さんが見せてくれたのは、焼き上がったパン。よく見ると、パンの色が2層になっています。
- 中原さん
- 中原さん
- 「パンの上の部分、色が濃いでしょう? そこが焼いている間に膨らんだ部分です。うちのパンは大きく膨らむので、それがふわっとした食感につながっています。これだけ柔らかいパンなので、お年寄りのお客様にも好まれますね。100歳のお客さんもいるんですよ。それから、赤ちゃんの離乳食のパン粥に使っているというお母さんもいます」
材料と製法にこだわりぬいた「地蔵家」の食パンは、2010年に神戸らしいお洒落で質の高い商品「神戸セレクション」に認定されました。その後は、某インターネット通販サイトで、商品全体部門の売り上げ1位という快挙を成し遂げ、メディアにも取り上げられました。
- 中原さん
- 中原さん
- 「1位になって24時間ほど経ったくらいに、発売直後の人気アイドルのCDに抜かれて、すぐに1位ではなくなってしまいましたが、パン部門では1カ月以上の間、1位だったんですよ。その頃は今ほど食パンが注目されてなかったので、『みんながやっとこっち向いてくれた』とすごくうれしく感じましたね」
人気は一過性に留まらず、今年で17年目。オープン当初から買い続けてくれるお客さんや、家族のように接してくれるお客さんもたくさんいるのだそう。
- 中原さん
- 中原さん
- 「お客さんの小さかった子どもが『今度大学やねん』と言うまで成長したり、お嫁に行っても帰ってくる度に寄ってくれたり、『つわりの時もここのパンなら食べられる』と言って買いに来てくれたり。配達先のお宅で『よかったらご飯食べてって!』とご馳走していただいたことなんかもありました」
「地蔵家」の「地蔵」は、阪神・淡路大震災でなくなってしまった近隣の市場「地蔵市場」から取ったのだそう。「屋」ではなく「家」としたのは、家のように人が集まるお店にしたかったからなんだとか。長く愛し続けてくれるお客さんに応えるため、「これからも変わらない味と柔らかさを届けていきたい」と笑顔で語ってくれました。
取材メモ/焼き立てのパンのにおいでいっぱいの小さなお店には、お客さんがひっきりなしに訪れ、世間話や笑い声が飛び交っていました。美味しい食パンと中原さんの明るいお人柄にひかれて人が集まる、とてもあたたかなお店でした。
取材・文・撮影=コム計画室 制作チーム
TOKK
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