DJブースがある会津の酒舗が、人と酒との出会いを創出する。

DJブースがある会津の酒舗が、人と酒との出会いを創出する。

2019/03/24

レジカウンターの両脇に置かれた巨大なJBLのスピーカー。そして圧巻のレコードたち!聞くとまるでレコードショップのようですが、実は酒屋です。南会津に位置する酒舗「植木屋商店」は一風変わった内装でネオンライトやDJブースが設置されています。地元でも人気のスポットの全貌に迫ります。

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植木屋から始まった400年の歴史を持つ酒舗。

地方取材に行くと、しばしば「ここは取材に行った?」と嬉しい情報を頂くことがあります。今回の取材中も複数方から、「植木屋という名前の酒屋さんがある」「DJブース(!?)がある酒屋」「頒布会(はんぷかい)のお酒がとにかく美味しい」と、気になる情報を得ることができました。そこでおうかがいしたのが『植木屋商店』です。
取材を快く引き受けてくださったのは店主の白井與平氏。まずは店名の由来をうかがいました。「今店がある場所は埋め立てられてしまった(鶴ヶ城の)外堀のすぐ外にあたりまして、初代はお城に仕える庭師であったと聞いております。それが、そのまま屋号になったようで、私は18代目ですから代々400年以上もこの場所に居ることになるでしょうか。19世紀の初めには乾物や果物など会津ゆかりの特産品を扱う商いをしておりましたが、酒の扱いが増え、自然と他の物が縮小していった感じです」と白井氏は語ります。現在、取り扱っている商品の8割は日本酒。そのうち9割5分は会津のお酒で、右側の冷蔵庫には要冷蔵の生酒(きざけ)などが、左側の棚には常温の酒が整然と並べられています。

店内に置かれたネオンサインの看板。「Kがなかなかオークションに出ず、集めるのに苦労しました(笑)」
冷蔵庫に整然と並ぶ日本酒。開閉が多い店舗で中の温度が急激に下がらぬよう小さめの扉が設えられてある
日本酒以外にワインや焼酎も取り扱う。なかには『IIE Lab.(イーラボ)』の「サケブクロ」も
段ボールがない時代、海苔や片栗粉の運搬に使われていた木箱。紙を貼り、繰り返し使っていたのがわかる
銀行から譲り受けた金庫。「なかには子供が勝手に食べないようカップラーメンが入っています」
ヤマヨという文字が入った昔の暖簾(のれん)を仕立て直して使用。右側には「会津特産紫蕨勝栗砂糖……」と、当時取り扱っていた商品名が

余裕のあるときは、レコードに針を落として。

設計士と練り上げた改築を5年がかりで進め、2018年4月に現在の形になったという『植木屋商店』。まず目に飛び込んできたのは、様々な色やフォントのネオンサインを組み合わせた「UEKIYA」の看板です。「1文字ずつeBayで落札して、地元仲間の看板屋さんに仕立てて頂きました。笠の裏側には掛け軸などをかけるフックを取りつけてあります。蔵の中に会津藩ゆかりのもろもろがありますので、今後お披露目をかねてご紹介できれば」と白井氏は話します。他にも店内の随所に400年の歴史を感じさせるものが散見されます。市内の銀行から譲り受けた重厚な金庫、金品の受け渡しの際に使われていた荷判取り帳、物資運搬用の古い木箱……。そこには、内容物とともにヤマヨと記されています。「当主は代々、與平(ヨヘイ)を襲名しているのですが、そのヨをとってヤマヨ。うちの荷印です。昔は江戸から来る荷物に『若松のヤマヨ』と書いておけば、ここに届いたようです」と白井氏は続けます。

歴史深い品々と並んで存在感を放つのは、レジカウンターの両脇に置かれた巨大なJBLのスピーカー。そして圧巻のレコードたち! 「新しい店に置こうとJBLのスピーカーは昔から用意していて、スピーカーを作っている友達にメンテナンスをお願いしてセッティングしてもらいました。レコードは高校生の時からの私の趣味で、多いのは黒人の音楽。ソウルミュージックにジャズ、レゲエ、ヒップホップ、なんでも聴きます。'80年代シティポップからエレクトロニカ、現行ハウスも好きです」と白井氏。大学は東京で、渋谷の『CAVE』などでDJとして活動していた白井氏。しかし、23歳の時に先代が倒れて会津に戻り、24歳で『植木屋商店』の跡を継ぎました。

「私がDJを始めた頃はCDJが普及していなかったので、現在ももっぱらアナログ派。最近は再発売も増えて、以前よりレコードが手に入りやすくなりました」と語る白井氏は、今も現役のDJ。忙しい時は針を落とす暇がないのでもっぱらデータを飛ばしていますが、時間がある時は「やっぱりアナログの音が面白い」とレコードをかけています。撮影時にかけて頂いたのはニーナ・シモン氏の『My Baby Just Cares For Me』。躍動感のあるピアノとクリアで伸びやかな声が店内に響き、リッチな気分に浸ることができました。

身体の真芯に響くリッチな音は、こちらのJBLの特大スピーカーから
2018年4月の新店舗お披露目会の際はここでプレイしたという。ミキサーに貼られた「中取り」のラベルは酒舗ならでは
2台ある真空管のアンプリファイヤーは柳津町に住む知り合いの職人に作ってもらったのだとか
高校生の頃から収集しているというおびただしい数のレコード。手前のドライフラワーも白井氏が作ったもの
会津若松出身で、現在仙台で活躍中のアーティスト・朱のべん氏の作品(スケートボード)を仕立て直した椅子

寒暖差が育んだ米と豊富な雪解け水が銘酒を生む。

福島県の西部に位置する会津地方は、四方を磐梯(ばんだい)朝日国立公園に囲まれた盆地にあり、寒暖差が激しい土地柄。ゆえに美味しいお米と清らかな水に恵まれ、昔から酒造りが盛んです。こだわりが強く、我慢強い会津人の気質も美味しいお酒を生み出す要因のひとつといわれており、「お酒といったら通常はアルコールを指すが、会津では日本酒を指す」「年配の方の中にはマイ猪口(ちょこ)を持って飲み屋に繰り出す御仁もいる」といった通説にも日本酒を愛してやまない土地柄が滲み出ています。

中でも特徴的なのが「無尽」というシステム。これはメンバーが毎月お金を出し合い、積み立てられたお金で宴会を催す仕組みで、会津以外にも沖縄県や九州各地、岐阜県の飛騨地方に見られます。「私も酒屋の仲間と“無尽”をやっていて、こんなイベントを開催しているんですよ」と白井氏。見せて頂いたチラシには、会津の街の17軒の飲食店と22軒の蔵元が参加し、チケットを買って呑み歩きができる「会津清酒弾丸ツアー」(2018年分は終了)の概要が掲載されていました。様々なお酒と出合えるこのイベント、2018年で第4回目となるそうです。

酒屋とお客さんの距離が近いのはもちろん、この店では両者と蔵元との距離も近いようで、蔵元の方がふらりとお酒を買いにみえて、先にいらしていた蔵元の方と親しそうに会話を始める光景も見られました。お話し中のお二方にうかがうと、「会津は日本を代表する酒蔵さんもたくさんございますし、皆さん仲が良くて、いい意味で切磋琢磨し合いながら(品質の)底上げを図っています」と、蔵元同士の交流も盛んな様子。ここにいると、会津という場所の地縁の濃さを感じます。

地元在住のアーティスト「MONOE AYUMI」によるラベルが貼られた会津酒造の「山の井」は頒布会用に用意されたもの
「会津娘」高橋庄作酒造、「会津中将」鶴乃江酒造、「写楽」宮泉銘醸、「飛露喜」廣木酒造、「花春」花春酒造をはじめ、数多の会津の銘酒を扱う
柔らかな語り口の白井氏。取材時は春花酒造の試飲会が行われていた

蔵元が魂込めた酒を責任を持って売る。

極めつきは、白井氏のこんな言葉。「うちに並んでいるお酒は造り手の心が宿ったもの。蔵元が命がけで造ったお酒を『私に売らせてほしい』とお願いしに行き、『お前に託す』と委ねられ、逆に『あなたに売ってほしい』と託されて、『責任を持って売ってきます』というお付き合いをさせて頂いております。蔵元とは運命共同体です」。蔵元の魂ともいえる日本酒が、ここでは在庫も全て氷温で貯蔵管理されており、ベストな環境が整えられています。「なるべく品質の新しい酒をと心がける一方で、しっかり熟成させて旨味ののった古い酒を提案することも」と白井氏は続けます。また、毎月会津のお酒が届く頒布会にも力を入れているそうです。

人口比率に対する居酒屋の割合も全国的に高い会津。街中では、「会津 日本一おいしいお酒が飲める郷 宣言」と書かれた立て札も見かけました。そんな場所にあって、人とお酒の様々な出会いの場を創出し続けている白井氏。帰り際に頂いた手ぬぐいの熨斗(のし)には、「会津磐梯山は宝のヤマヨ」とありました。ここでなら、一生の宝ものになるような好みの1本と出合えるかもしれません。

看板にある植木屋の文字は先代、左右の文字は先々代の筆痕からおこし、看板に仕立てた

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