群馬・みどり市 日本一の気概を込めた醤油造り

2019/03/12

群馬・みどり市 日本一の気概を込めた醤油造り

みどり市の本町通りに店を構える老舗醤油メーカー・株式会社岡直三郎商店。創業230年の歴史で培った技術と伝統を誇りに、日本一の冠を掲げた醤油造りに励む。店長の星野次男さんと製造部の金子光一さんに話を聞いた。

中広

中広

江戸時代から続く伝統と近代的な食の安心安全を両立

2017年、創業230年を迎えた株式会社岡直三郎商店。趣あふれる店舗兼主屋と文庫蔵は、国の登録有形文化財に登録されており、年間約5000人もの観光客が訪れる観光名所となっている。

岡直三郎商店の店内。こだわりの醤油が数多く並んでいる

足尾銅山から採掘された銅を江戸へと運ぶ、あかがね街道の宿場町として栄えた大間々の地で、近江商人であった初代・岡忠兵衛が醤油造りを始めたのは江戸時代後期の1787(天明7)年。当時、北関東に進出した近江商人の多くが酒造りを手がけた。その中で醤油を選んだのは、うどん文化が根付いた群馬において醤油は必需品であり、清らかな水や小麦など醤油造りに適した材料も揃っていたからだ。

当時、醤油販売の容器は一斗樽(18リットル)と四斗樽(72リットル)が主。商人たちは一斗樽を背負って大間々の町を売り歩いたり、馬車で江戸へ運んだりした。

8代目・岡資治社長は、脈々と受け継がれてきた醤油造りの技術と伝統を守りつつ、食の安心と安全への取り組みに力を入れてきた。社長に就任した2000年には、食品の原料加工から出荷までの各工程で衛生・品質管理チェックを行うHACCP手法を、醤油製造業界においていち早く導入。

さらに2017年、100年ぶりに、老朽化した工場の大規模リニューアルに踏み切った。明治期に建てられた蔵2棟を取り壊し、跡地に2階建ての新工場を新設。工場の入り口には異物混入を避けるための衛生室を完備し、麹を造る最新機械や充塡作業を自動化する設備を導入した。一方で伝統の木桶仕込みを守るため、仕込み蔵2棟は木桶や天井の梁をそのまま残し、床と壁面など一部を改修。

金子光一さん

金子光一さん

株式会社岡直三郎商店 製造部課長

唯一無二の風味を醸し出す 蔵付き酵母の力

醤油の原料は大豆、小麦、塩、水。蒸した大豆と炒った小麦に種麹を混ぜて醤油麹を作り、これに塩水を加えたもろみを発酵・熟成させて絞ったものが醤油となる。同社では国産の丸大豆と小麦を使用。創業時から変わらず、木桶を用いた天然醸造にこだわっている。

仕込んだもろみの発酵状態を見ながら撹拌。梁がまだらに見えるのは、酵母菌が付着しているから

現在市場に流通している醤油の多くは、人工的な温度管理によって醸造期間を短縮し、約3カ月から半年で製品化される。一方、天然醸造は四季の温度変化を利用して自然に発酵と熟成を行う方法で、醤油ができ上がるまでに1年余りを費やす。金子さんは「時間はかかります。けれど、塩味の角が取れてまろやかな味わいになるのです」と、ほほ笑む。

凛とした空気に包まれた仕込み蔵には、100年以上にわたって使われてきた巨大な杉製の木桶が整然と並び、圧倒的な存在感を放っている。その大きさは、高さ2メートル40センチ、直径2メートル20センチほど。1桶で約6千リットルの醤油ができる。

100年以上使い続けてきた桶にも、酵母菌がびっしりとついている。桶は使い続けていると少しずつ緩みやゆがみが出るため、手入れをしながら大切に使っている

かつて木桶は醤油づくりに欠かせない存在だった。しかし、時代と共に管理がしやすいステンレスやコンクリートのタンクに取って代わられ、木桶を使う蔵元は減少。木桶の寿命は約150年と言われているが、今では木桶を作れる職人も少ない。「県内で木桶を使って醸造しているのは弊社のみ。現在残っている桶を、手入れしながら大切に使い続けていきたいですね」と金子さんは話す。

黒く染まった天井の梁や木桶には酵母菌がすみ着いており、醤油に唯一無二の風味をもたらす。

星野次男さん

星野次男さん

株式会社岡直三郎商店 店長

10月から4月にかけて仕込んだもろみは、5月初旬頃からプツプツと気泡の弾ける音と共に発酵を始める。職人は毎日もろみの状態をチェック。色や香りから発酵状態を見極め、必要に応じて長い櫂棒で撹拌し、酵母菌に酸素を送り込む。職人の技と経験が必要とされる作業だ。

火入れして発酵を止めた醤油には、澱(おり)が生じるため、タンクの中で沈殿させる。醤油が澄んできたらろ過し、商品となる

大量生産はできないため、年間の製造量は約50万リットル。星野店長は「大手メーカーの3日分相当です」と苦笑しながらも、「手間暇を惜しまず、日本一の名に恥じない醤油造りを心がけている。こだわりの味を求めてくださるお客様に届けていきたい」と力強く語った。

岡直三郎商店の気概が込められた醤油

仕込み蔵のひとつは見学コースが整備されており、スタッフの説明を受けながら、蔵の中に入れる。生きた酵母の香りに包まれて、伝統の醤油造りを体感してみてはいかがだろうか。

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