熊本に残る11の銭湯の一つ「世安湯」~街に息づく銭湯~/熊本

熊本に残る11の銭湯の一つ「世安湯」~街に息づく銭湯~/熊本

2019/03/30

みなさんの住むまちに銭湯はあるでしょうか? 内風呂化が進んだ今、その姿は加速度的に減少しています。地域の人に愛され、生活の一部として存在していた銭湯の魅力を少しでも多くの人に知ってもらいたい、そんな想いを込めて、ここでは熊本のまちに息づく銭湯「世安湯」を紹介します。

シティ情報くまもと

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風呂屋のこれから。

銭湯というのは不思議な場所だ。自分の日常と知らない人の日常が混ざり合う交点とも言えよう。
近年、昔ながらの〇〇屋と名がつく生業が廃業の一途を辿っている。銭湯(風呂屋)もそのひとつ。熊本にあった300件以上の銭湯は、今や11件にまで減少してしまった。
そんな中営業を続ける数少ない銭湯のひとつ、世安湯は、住宅街の細い路地に佇む。建物の真裏に位置する駐車場からは入口横へと通じる小道が伸び、子どもの頃夢見た秘密の抜け道を髣髴とさせる。ここでは初対面でも笑顔で挨拶が交わされ、そんな些細なことがこの地域のあたたかさを感じさせた。

天井の湯気抜き、中央の浴槽、サイドにカランという昔のままのスタイル。サイドから湯船に入るので知らない人とも自然と輪になり、いつのまにか仲良くなるのだ。被災後、奇跡的に残った富士の絵から力強さを感じる

世安湯は、2014年に暖簾を継いだ三代目の坂﨑友治さんと、奥さんの由美さんが切り盛りしている。2018年で創業88年。熊本市内で唯一、薪で風呂を焚く銭湯だ。友治さんは、熊本地震に被災しながらも銭湯の再建を決意し、改装中のお風呂で落語イベントやオフロンピックなどを開催しながら、2017年11月に営業を再開した。
「廃業された新町のくすり湯さん、菊の湯さんからは体重計と籐かごを譲り受けました。今では手に入らない、熊本の職人さんが作ったもので、昔は各銭湯に籐かごがあったそうですよ」と由美さん。
「ご縁があって岐阜の銭湯さんから色々と譲っていただく際は、900kmの道のりを軽トラで向いました(笑)」友治さんもありがたそうに笑う。世安湯には、時代を超えて当時の匂いを感じることができる、思い出の詰まった道具が集まっているのだ。

棚の四角い籐かごと籐の敷物は、台湾の方からの贈り物だという。震災が繋いだご縁だ。写真下段中央の丸い籐かごは菊の湯から、黄色いイスと風呂桶は岐阜の銭湯から譲り受けたもの
遠い岐阜の地で多くの人の靴を守ってきた鶴は今も現役。世安湯の玄関でもその威厳を感じさせる

また、近くに宿泊施設があることから、海外の旅行客も多いのだそう。「以前、海外から来られた方がおっしゃったのは『日本が1番近いね』という言葉。言葉が通じなくても、常連さんたちは熊本弁でお風呂の入り方を教えていて(笑)それで、気持ちの距離が近いって感じてくれたみたい」。地域性が現れやすい銭湯で、こうも様々な人を受け入れられる雰囲気は、常連さんの優しさはもちろんのこと、友治さん・由美さんの人柄があってこそ。そんな二人はこれからも、銭湯をよりおもしろい空間にするべく挑戦を続ける。

実は、まだひそかに工事を続けているという世安湯。また会いに行きたくなるような二人が作り出す、あたたかい出会いに満ちた空間になるのが楽しみだ
鏡に映りこんだ富士を湯船から眺めるのもまた一興
レトロなフォントに心くすぐられる電気風呂に加え、世安湯にはNano風呂、超音波ジェット風呂、水風呂が揃う

日常が交わり合い、新たなコミュニティが生まれる場として可能性だらけの銭湯。今、その衰退を食い止めることは難しいかもしれない。しかし、世安湯のような場所を面白がり、その魅力を感じ取れる人が少しでも増えると、熊本の銭湯界に新たな風が吹き始めるだろう。そこを担うのは紛れもない私たちだ。

入浴料は、大人400円、学生300円(学生証提示)、小学生150円、乳幼児無料(大人の保護者1名以上と入浴に限る)

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熊本の街好きによる街好きのためのタウンカルチャー情報誌です。扉の外からじっと眺めるだけではわからなかった近所の店や人の心の中にある「街の扉」の向こう側へ思い切って入っていく楽しみをもっとたくさんの人へ伝えたいという思いを胸に毎号お届けしています。

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