“飲めるカステラ”? 大阪の大衆酒場で生まれた名作アテの正体

特集

ご当地を感じる旅ゴハン。

2019/03/29

“飲めるカステラ”? 大阪の大衆酒場で生まれた名作アテの正体

甘党もすなる“カステラ”といふものを、左党も食してみむとするなり……? なんと、カステラが名物だという酒場が大阪にはあるのです。しかも、お酒が進んでしゃーない酒ドロボーなカステラが……。この衝撃の“口福(こうふく)”体験、大阪出張のとびっきりの土産話になりますよ!

Yahoo!ライフマガジン編集部

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“飲めるカステラ”があるのは昭和33年創業の大衆酒場

店があるのは、なんばの隣駅・日本橋駅。昼酒天国化する相合橋商店街の中に、未知との遭遇が待っています
こちらが口福体験できる現場「正宗屋 相合橋店(あいおいばしてん)」。これぞ大衆酒場という渋いたたずまいですが、夜はお待ちのお客さんが出るほどの人気店なのです

目指すは、なんばの老舗酒場「正宗屋 相合橋店(あいおいばしてん)」。店がある相合橋商店街は昼飲みできる酒場が軒を連ね、こちら「正宗屋 相合橋店」も平日でも13時30分開店、さらに土曜は11時30分&日曜は8時30分(!)から暖簾(のれん)をかけるという街のオアシス酒場です。店前に立てかけられたメニュー看板には「特級酒三三〇円、一級酒二六〇円、二級酒二四〇円」と旧来の日本酒級別で表記。酒場探訪好きなら「いい店のニオイがする」と鼻をヒクヒクさせることでしょう。

魅惑のカタカナ四文字と出合うべく、いざ暖簾をくぐってみましょう。

昼から満タコ、そこはモンスター酒場だった

平日の14時なう。開店から30分しか経っていないのに、この盛況っぷり!

仕事を勇退され、昼酒なる人生謳歌(おうか)を楽しまれているセンパイたちのほか、朝の仕事を終えた市場ワーカーや夜勤明けの人、はたまたサボリーマンなどが羽を休める……。そんな止まり木酒場の絶景を、まずはご紹介しましょう。

コブシが利いた名言

お財布に優しい正宗屋なら、奥殿も毎日笑顔で送り出せる。という意味であろう。右の名言は、ひ孫の代まで伝えたい

口福のマグマ・どて焼

カウンター前でグツグツの絶景。「どて焼」(3本360円)

満員のおでん鍋

おでん鍋では、ギュウギュウとおでんタネが押しくらまんじゅうしちゃってる! 「シュウマイ」(100円)や「ねぎま」(110円)が人気者
おでん鍋を守るのは、看板娘でもあられる女将の中川政子さん。耳にさした赤エンピツが女前! 

カステラとともに召集したいのが、ひとつ80円〜のこのおでん。聞けば、定番である大根も「旬を過ぎて辛味が出てきてしまう、春〜夏は提供しません。大根のシーズンオフ期は、代りに焼豆腐が登場します」とのこと。二代目ご主人の中川猛さんは、“大衆酒場の精神”をこう語ります。

二代目の中川猛さん。父上が市井のために開けた大衆酒場を継ぐため、若き頃から和食屋などで修業。17年前に店に戻り、現在は母上である女将の政子さんとともに店を守る
ご主人・中川さん
ご主人・中川さん
「気取らず来(こ)れて、お酒一杯で帰ってもいい。今ならセンベロ酒場と言うんでしょうか。労働者のために毎日暖簾をかける大衆酒場として、私の父親の先輩だった方が、昭和33年に創業し、父はそこの従業員として働いておりました。昭和54年に父が独立して店舗を譲り受け、カステラも父の時代に考案されたものです。でも、一体いつ頃生まれたのか、正確な年度は不明で……」

お待たせいたしました! それでは“酒場の発明級アテ”の核心に迫りたいと思います。

これが酒ドロボー・カステラである!

……といいつつ焦らしてみます。ほら、いますよカステラが

カステラは違和感なくショーケースの中にいます。ポルトガルのお菓子をベースにして誕生したニッポンの和菓子であるはずのカステラが、なんでどうして、大阪で突然変異。「酒が止まらん」と酒飲みが泣き笑いするアテになってしまった?

酒場のカステラは、蟹味噌+魚卵

やっと合えたね……。こちらが左党専用のカステラ。たったの360円で「どんだけ飲ませる気やねん!」と突っ込みたくなるほどの酒の恋人

ダシで炊いた鯛の子などの魚卵を冷やし固め、さらに蟹味噌を塗って完成する痛風バクダン、もとい、口福絶倒(こうふくぜっとう)の名作アテ。実はこれ、「おいしい副産物」なのだとご主人は言うのです。

ご主人・中川さん
ご主人・中川さん
「小鉢の一品としてご用意している“魚の子の炊きもの”を作るとき、どうしてもダシに魚卵が散らばってしまうんですね。鍋の底に溜まったそれらと、ダシをそのまま冷やし固めると、このカステラができあがります。カステラを作るためにわざと魚卵をバラしてダシで煮るのではなく、あくまで小鉢の副産物。ウチを代表する名物となった今も、考え方は変わっていません」

名作は、魚(ギョ)ッと驚く発想から生まれたものだったのです。大衆酒場の知恵スゴい! 大阪料理の“始末の心”がある一品、と言ってもいいかもしれません。魚卵は鯛の子のほか、鱧(はも)の子や平目の子など季節によって変わるそうです。

カステラはモイスト肌

ダシをたっぷり含んでいるから、お箸がスーッと通っていきます

ひと粒ひと粒がダシをめいっぱい吸った、しっとりモイスト肌。箸先にちょんと取り、お箸をねぶりながら(=舐めながら)390円の大瓶ビールを流し込む、という“チマチマ飲み”が楽しめるカステラはセンベロの神! さらに、味付けは薄味にとどめ、ダシ感&素材感を重視する。そんな大阪のダシ文化を堪能できる一品でもあるのです。

お客さんもどハマりしています

昼の酒場でボートレースを見るお客さん、昼酒の供はやっぱりコノ子。カステラもレース結果を見守ります

お隣のカウンターでは、ボートレースの生中継を見つつ昼酒を楽しむお客さんが。ビール瓶をスマホスタンドにする酒場の達人は、カステラの“掘削食べ”も美しい! 常連さんに違いない……と、お話を伺ってみました。

声を掛けさせていただいたのは、正樹さん(手前)&浩清さん。「レース一緒に見る?」とスマホを手前に移動してくれました。いや、カステラの話をお聞きしたいだけなんです……
常連の浩清さん
常連の浩清さん
「カステラ食べた? ショーーゲキ的やろ? 僕も初めて友人に連れられたとき、彼らが『カステラひとつ』って注文したのを聞いて、なんで酒場でカステラ? って頭の中がハテナだらけになったもん。食べて見事にハマったね。今日は『絶対に食べて欲しいものがある』という口説き文句を使って、友達を連れてきてん。夜遅くに来たら売り切れてるときもあるから、それで昼に来たというわけです」

カステラは1日20〜30人前限定とのこと。14時過ぎの店内でもオーダー率は高かったので、やはり目当てにしているお客さんは多いようです。

お友達の正樹さん
お友達の正樹さん
「初めて来たんですけど、カステラはもちろん正宗屋さんも最高ですわ〜。ボートレースの具合は、なかなか厳しいですケド……」

大衆酒場らしからぬ(?)個性派メニューがほかにも

正統派に紛れてちょこちょこキャラ立ちメニューが

「辛口マーボードーフ」「ガーリックトースト」も気になりますが、大衆酒場のメニューボードに突如現れる「サンラータン」を無視することができませんでした。しじみ汁や粕汁ではなく、サンラータンです。アシッドすぎやしませんか。

大衆酒場に本格中華の風が吹く、「サンラータン」(210円)。ほどよい辛さと酸味に酒欲が刺激、思わず「大瓶もう1本くださ〜い」

カステラを生み出した大衆酒場は、和洋中なんでもござれの自由酒場。どうしてそうなった?

ご主人・中川さん
ご主人・中川さん
「ウチの料理にルールはなく、スタッフの子には『作りたいもんあったら自由に作ってや』と伝えてます。そして必要な材料を事前に聞いて、朝に僕が市場で買いそろえておくんです。スタッフが料理を楽しんでくれているから、おもしろいメニュー案がポンポンと出てくるんだと思います」

料理人が、料理を楽しもうとする。その行動原理は「お客さんの笑顔が見たいから」。そんな純白の心が、初代にカステラなる名作を作らせたのかもしれない……なんてジーンとしていると、何やらお隣が騒がしい。

おっと、本日の勝負のレースがはじまったようです。ご主人もひょっこり、スマホを覗き見します
レース結果は……推して知るべし、というやつですね

ボートレースはハズれてしまったようだけど、カステラで昼からごきげんに飲める今日はアタリの日。この後、「一緒に飲もうや」と大瓶をごちそうになってしまいました。そんな、袖振り合うも多生の“宴”という浪花のノリも楽しい名酒場「正宗屋 相合橋店」で、“ダシの利いた”人情と名物を味わってみませんか?

取材・文= 廣田 彩香 写真=山元 裕人 構成=堀 俊夫(クエストルーム)

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