埼玉・上尾市 新風を巻き起こす若き酒造後継者たちの気概

2019/04/13

埼玉・上尾市 新風を巻き起こす若き酒造後継者たちの気概

明治時代から日本酒、文楽を造り続ける北西酒造株式会社。近年は商品の海外輸出や化粧品事業への参入など、次々と新たなビジネスを展開している。会社を切り盛りする姉弟、北西隆一郎社長と真由子さんに話を聞いた。

中広

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日本酒の需要拡大を目指し蔵元隣接の飲食店を開店

JR上尾駅の東口から徒歩数分。北西酒造株式会社に入ると、酒の香りがほのかに漂う。蔵人たちが酒造りに勤しむ早朝、蔵に隣接するそば店・東蔵では、看板メニューの手打ちそばを仕込みながら、開店準備を進める。

そば店・東蔵の内観。手打ちそばや自家製の豆腐などが楽しめる同店は、営業時間になるとすぐに人であふれる。日本酒との相性が良い炭火焼きや煮物も提供する

「日本酒に合う食事を提供したいと思って始めたお店です。今ではお酒に負けないくらい、地元のお客様から親しまれる店舗になりました」と笑顔で話すのは、2017年から社長を務める、北西隆一郎さんだ。創業から受け継がれる酒の味を守りつつ、近年はさまざまな事業を開拓、業績を着々と伸ばしている。

同社の創業は、明治27(1894)年。近江商人だった北西亀吉が、秩父を源流とする荒川水系の伏流水を気に入り、この地で酒造りを始めた。

越後杜氏を招聘して造った日本酒は、現在でも主力銘柄である文楽。人形浄瑠璃を嗜んだ亀吉が、義太夫、三味線、人形遣いの三業を、酒造りの材料である水、麹、米に見立て、名付けたという。

すっきりとした飲み口で、食事と合わせやすい文楽
本酒造りの工程である、麹造りをする蔵人たち。伝統の味を守り続けるためには、メンバーのチームワークが欠かせない

創業から125年。文楽の味が変わらないのは、長く地域の人々に愛されてきた証拠だ。1996年には、積み重ねてきた技術を後世に残していけるよう、社内杜氏に移行。地元の上尾高校などから毎年新卒を採用し、若手育成にも励んでいる。

伝統の味を大切にしてきた同社。転機を迎えたのは、先代の隆夫さんが社長に就任した頃だ。21世紀となり、顕著になっていた若者の酒離れに、隆夫さんは危機感を覚えていた。軸はあくまで酒。しかし、次世代のニーズに応えるためには、多角的な魅力の創出が急務だ。日本酒製造の他に柱となりえる事業を求めて、新たな取り組みを模索し始めた。

2008年、社屋を全面的に建て替え、黒を基調としたモダンな外観に。併せて、国内外で飲食店を運営する株式会社フォンスのそば店を招致し、東蔵をオープンした。

「世代を問わず、家族連れでも気軽に来店できる飲食店を目指しました」と隆一郎さん。子どもや女性向けメニューのほか、文楽の全銘柄も常に取り揃える。心ゆくまで日本酒を楽しめる、蔵元隣接の飲食店として、地域の人々から親しまれるようになった。

多種多様な事業を展開してより地域に密着した企業に

日本酒市場の変化に合わせ、積極的に事業領域を広げる社風となった同社。32歳の若さで経営の舵をとる隆一郎さんも、先代の思いを受け継いでいる。

「幼い頃から、家業を継ぐイメージは頭のどこかにありました」。大学卒業後、金融業界で経験を積み、2015年に入社。すぐに新潟県、広島県の蔵元へ出向き、酒造りを学んだ。約半年の修業後、同社経営企画部長を経て社長となった。

近年注力しているのは、文楽の海外展開。外国での日本酒需要の高まりを感じ、販路を広げられないかと思い立った。窓口となったのは、隆一郎さんの姉である真由子さんだ。

北西酒造株式会社 代表取締役社長 北西 隆一郎さん(右)と、経営企画部 海外事業戦略室長 北西 真由子さん(左)

学生時代に美術を専攻し、海外留学の経験も持つ真由子さん。デザインや語学に造詣が深く、製品のパッケージ制作や国外交渉を任されている。「国ごとの文化に合った酒の味を探すのは難しいですが、やりがいを感じます」。現在は欧米を中心に、約20カ国へ文楽を輸出。数カ月に1度は海を越え、展示会や現地での営業を行っている。「国外での交渉は、すべて姉に任せています」と、隆一郎さんも信頼を寄せる。

女性目線に立った製品開発も、二人三脚で進めている。お酒が苦手な女性にも、日本酒の魅力を知ってもらいたいという思いから、入浴剤やハンドケア商品を開発。真由子さんは、「日本酒の成分には、保湿や血行促進の効果があると言われています」と話す。

原点である日本酒造りにも余念はない。2015年には、埼玉県産の水、酵母、米を使ったAGEO(アゲオ)ブランドを新たに発売。また、兵庫県産の米・山田錦を使用した文楽の大吟醸は、2014年から4年連続で全国新酒鑑評会の金賞を受賞した。目指すは10連覇だと、隆一郎さんは意気込む。

はなやかな香りとフレッシュな味わいの新ブランド、AGEOシリーズも好評だ

今後の抱負として、地域密着とさらなる知名度の向上を掲げる。昨年4月には、商品の販売や試飲を行う小売店、十一屋酒店をオープンした。今年は蔵見学や、地元の飲食店によるブースなどを展開するイベント、蔵まつりも同地で開催予定。日本酒の門戸を広げ、人々の集う場所になってもらえたら嬉しいと、言葉を結んだ。

小売りショップでは酒類以外に、日本酒を使ったコスメや入浴剤も販売している
ハンドケアシリーズは、麹を扱う蔵人の手がきれいだった点から着想を得たという

地元に深く根付きつつ、文楽の名を広く世界に響かせていきたい。姉弟の思いは同じだ。若い力が、次はどのような風を運んで来るのだろうか。北西酒造の挑戦はこれからも続く。

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中広は岐阜に本社を置く広告会社です。 地元の情報を各戸配布のハッピーメディア(R)『地域みっちゃく生活情報誌(R)』のブランドで発信しています。

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