『ぴあ』編集長が映画館の変遷で振り返る新宿の30年

特集

『平成』を人気メディアの編集長が語る

2019/03/28

『ぴあ』編集長が映画館の変遷で振り返る新宿の30年

エンタメを網羅し、スケジュール管理に必携だった情報誌『ぴあ』。2011年に休刊後はウェブに移行し、スマートフォンアプリとして復活(2018年11月29日正式リリース)した同誌編集長の岡政人さんに、エンタメシティ新宿の30年を、新宿の映画館を軸に語り歩いていただきました。

Yahoo!ライフマガジン編集部

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\語る人/

『ぴあ』編集長 岡政人さん

1975年生まれ。『ぴあ』編集部にて映画担当を経て副編集長。休刊後は映画専門誌『ぴあMovie Special』、Webサイト『ぴあ映画生活』編集長を経て、現在は『ぴあ』(アプリ)編集長

演劇なら下北沢、音楽なら渋谷、アートなら上野といったように、東京には各エンタメを代表する街があります。これらのエンタメと街の関係には、昭和の時代から平成30年間を経た今にいたるまでさほど変化がない中で、“映画の街”は、極めて大きくその姿を変えました。映画館が集まる東京の街といえば有楽町・銀座・渋谷・新宿。いずれも、ミニシアターブームや大劇場の閉館等、平成30年の間にめまぐるしく変化してきた“映画の街”の中で、『ぴあ』(アプリ)編集長の岡政人さんは「もっとも大きな変化があったのが新宿」と語ります。そこで、そんな岡さんとともに新宿の映画館を巡りながら、その移り変わりを伺いました。

映画館のデジタル化とシネコン化が街を変えた

歌舞伎町へ向かうと、どーんとそびえ立つのがTOHOシネマズ新宿。2015年オープンのシネコンだ

岡編集長が新宿映画館巡りのスタート地として選んだのはTOHOシネマズ新宿。かつて大物歌手の公演が頻繁に行われていた新宿コマ劇場や、巨大スクリーンを持つ映画館の新宿プラザ、新宿コマ東宝が入っていた場所です。

――TOHOシネマズ新宿は、新宿エリアで最も新しい映画館ですが、ここが映画の街としての新宿の今を象徴する、ということでしょうか。

岡編集長
岡編集長
「そうですね。TOHOシネマズ新宿がオープンするまで、歌舞伎町の辺りは日中でも人通りが今のように多くはなく、怪しげな雰囲気もあり、女性や子どもたちが足を踏み入れ難い場所でした。ですが、今はご覧の通り、映画館の成功は言うに及ばず、街自体が賑わいを取り戻して明るい雰囲気となった。TOHOシネマズ新宿ひとつで、歌舞伎町の雰囲気が一変したとも言えます。平成の後半に起きた、もっとも印象的な出来事のひとつです」

――歌舞伎町といえば、かつては他にも映画館が多数ありましたよね。

岡編集長
岡編集長
「はい。コマ劇場西側の広場を囲んで新宿プラザや新宿コマ東宝などがありました。それらが2008年に閉館すると、こちらの広場にあった映画館も次々と閉館。映画の街・新宿はまさにひとつの時代を終えようとしていました」
かつて映画館がひしめき合っていた広場。背後のゴジラが描かれたビルには新宿プラザや新宿コマ劇場が入っていた
岡編集長
岡編集長
「新宿プラザの正面に、やはり巨大スクリーンを持つ新宿ミラノ座があり、同じ建物には新宿東急やシネマスクエアとうきゅう、そこを挟んでグランドオデヲン座や新宿ジョイシネマといった映画館が並んでいました。正面だけじゃなく、左右の建物にも劇場があり、360度映画館に囲まれていましたね。いわば街全体がシネコンのようなものだったんですが、歌舞伎町では平成のある一時期、映画館がゼロにまでなってしまいました」

――それだけあった映画館がゼロに。なぜ、そこまで街は映画館を必要としなくなったのでしょうか。

岡編集長
岡編集長
「歌舞伎町の場合は、施設の老朽化と郊外に最新のシネコンが登場した時期が重なりました。そこに、映画の製作や上映形態がフィルムからデジタルに変化するタイミングも重なったことが大きな理由だと思います。デジタル上映設備を導入するには数千万円かかりますからね。そこまで投資をして継続できるところが少なかったということでしょう」
TOHOシネマズ新宿はIMAXやMX4Dに対応、全12スクリーン、音響やシート等の設備にもこだわる

――そこに現れたのがTOHOシネマズ新宿だったわけですね。

岡編集長
岡編集長
「はい。今や新宿で最も動員数の多い劇場になりました。一方で、この広場のまわりにあった劇場だけでなく、昭和の終わりから平成前半ぐらいにブームとなった都内のミニシアター系の劇場もだいぶ減ってしまいました。そのため個性的な作品を上映する劇場が少なくなり、どこでも同じようなメジャー系の作品が各地のシネコンで上映されていると言われるようになってしまった面はあります」

――ではミニシアター的な作品は映画館にかかりにくくなっているのが現状なのでしょうか。

岡編集長
岡編集長
「そうともいえません。引き続き頑張っているミニシアターは新宿にはまだまだあるんです。それでは歌舞伎町を離れて、ミニシアター系の映画館を巡ってみましょうか」
TOHOシネマズ新宿から歌舞伎町を背に駅方面へ。ビルの上から覗く実物大ゴジラが目印

個性的な作品を上映するミニシアターも姿を変えつつ奮闘中

というわけで歌舞伎町をちょっと離れて新宿中にある、ミニシアターを巡ってみることに。まず岡編集長が最初に訪れたのはこちら。

「テアトル新宿」

現役新宿ミニシアター系映画館その1「テアトル新宿」
岡編集長
岡編集長
「新宿の老舗ミニシアターといったら、まずはここですね。オープン時は名画座で、アジア映画などの特集上映も多く、一時期の北野武監督作品もここで封切られていました。現在は尖ったテイストの邦画が中心となっています」

続いてやってきたのは、ここ。

「新宿武蔵野館」

現役新宿ミニシアター系映画館その2「新宿武蔵野館」
岡編集長
岡編集長
「新宿武蔵野館も老舗のミニシアターです。かつては同じビル内にシネマカリテという劇場も入っていたんですが、今はその設備も新宿武蔵野館に吸収されて、ミニシアターながらシネコンといった形態になっています」

こんなに近い場所に、これほどまでミニシアターが集まっているとは……。続いては、JR新宿駅東口からもほど近いこちら。

「シネマカリテ」

現役新宿ミニシアター系映画館その3「シネマカリテ」
岡編集長
岡編集長
「新宿武蔵野館にあったシネマカリテは、2001年に一度閉館するも『個性的な映画が観たい』という映画ファンからの声に応える形で駅近くに場所を移して復活しました。武蔵野館よりもエッジの効いたヨーロッパ作品を多く上映しています」

新宿にこんなに映画館があるなんてご存知でした? 

そしてまだまだ続きます。

「シネマート新宿」

現役新宿ミニシアター系映画館その4「シネマート新宿」。同ビル内にはアニメ映画専門館「EJアニメシアター新宿」も入る
岡編集長
岡編集長
「シネマート新宿は、以前はアートシアター新宿文化という名前の劇場があり、低予算ながら作家性を重視したATG作品を上映する、それこそミニシアターのはしりというか、新宿のアングラ文化を発信する場所でもありました」

そして5つ目に紹介するミニシアターはこちら。

「K’sシネマ」

現役新宿ミニシアター系映画館その5「K’s cinema」
岡編集長
岡編集長
「K’s cinemaはインディペンデント系の作品が数多く上映されている劇場ですが、かつては任侠映画を中心とした邦画名画座『新宿昭和館』と、成人映画専門館『昭和館地下劇場』が入っていた場所です。上映作品の傾向が現在とはまるで違う、という点でもユニークですよね」

――新宿だけでもまだまだかなりの数のミニシアターが残ってるんですね。でも単館上映作品だと、気付いた時には見逃してしまうことも多そうです。

岡編集長
岡編集長
「以前はそうでしたが、最近はシネコンも飽和状態にあるし、スクリーン数が多いので、かつてならミニシアター向けだった作品を上映するシネコンも出てきています。端的な例が『カメラを止めるな!』ですね。今はデジタル上映が基本ですから、フィルムをプリントせずともデータがあればTOHOシネマズ新宿のような巨大シネコンで制作費300万円の低予算作品を上映できるし、「話題になっている」となれば、一気に上映館数を拡大して大ヒットさせることもできてしまうわけです」

――確かに口コミで人気になったとしても、ミニシアターだけだったらキャパの問題もありますもんね。

岡編集長
岡編集長
「生身の人間が目の前で実際に演じている演劇や音楽ライブと、映画の決定的な差はそこでしょうね。同時に何百館ででも上映することができるので、ヒット作はとことんヒットするチャンスがある」

臨機応変なスケジュールに対応するため『ぴあ』もデジタル化

新宿の映画館ではTOHOシネマズ新宿が動員数ナンバー1ですが、新宿には他にも巨大シネコンが2つもあります。ということで、今度はシネコンも回ってみることに!

平成19(2007)年に開業した巨大シネコン

「新宿バルト9」

巨大シネコン「新宿バルト9」。以前は「新宿東映」など4劇場が入っていた東映会館がリニューアル
岡編集長
岡編集長
「新宿バルト9も超大作から小規模作品まで幅広く上映される人気のシネコンですね。深夜まで上映時間が設けられているためか、映画を鑑賞しながらビールを飲むことも可能です」

新宿バルト9開業の翌年にオープン、靖国通り沿いのシネコン

「新宿ピカデリー」

新宿松竹会館内の「新宿ピカデリー」もシネコン化
岡編集長
岡編集長
「もう一つのシネコンが、老舗映画館が生まれ変わった新宿ピカデリーです。以前は本当に老舗の映画館という雰囲気でしたが、今や表通りに面して、女性も入りやすい劇場に様変わりしました。無印良品と併設している点も、女性にとってはプラスだと思います」

新宿だけでもこれだけ多数の映画館があるという事実には、改めて驚かされるばかりです。今現在、映画館がこれだけあるということは、当然「情報」も必要とされているはず。映画情報を提供する雑誌『ぴあ』が、この平成の間に一度休刊し、そしてアプリとして復活したのは、ある意味必然的なことだったのかもしれません。

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第四のシネコンの登場で新宿は「映画の街」として息を吹き返す

歌舞伎町のTOHOシネマズ新宿からはじまった、新宿映画館巡り。平成の30年の間に、多くの映画館が幕を下ろし、そして今、勢いのあるシネコンと息を吹き返してきたミニシアターにより、再び映画の街として活気づいていることがわかったかと思います。

ということで、岡編集長は改めてTOHOシネマズ新宿西側の広場へと向かいます。

TOHOシネマズ新宿西側の広場には、かつて旧新宿ミラノ座他、計7館もの映画館が並んでいた。この場所は、現在はアトラクション施設「VR ZONE」となっている

――今見てきた新宿バルト9、新宿ピカデリー、それにすぐ近くのTOHOシネマズ新宿と、新宿にはすでに3つのシネコンが競い合っていますけど、この広場にも新たにシネコンができるそうですね。

岡編集長
岡編集長
「そうなんです! 2022年に、かつて新宿ミラノ座があったところ(現在はアトラクション施設)に、東急系のシネコン建設が予定されています。この新宿に4つのシネコンができるわけですよ」

――4つですか……そのうち2つは“あの”歌舞伎町のど真ん中にあるわけですからね。すごいことです。

岡編集長
岡編集長
「『ぴあ』が創刊した1972年に比べれば新宿の映画館の数は減りましたし、平成の間にも浮き沈みはありましたけど、TOHOシネマズ新宿が歌舞伎町に明るさを取り戻したように、新宿は再び映画の街として復活していると感じます。ネットのおかげで家を出ないで楽しめるエンタメも増えましたが、やっぱり映画館で知らない人同士が一緒に同じ作品を楽しむ体験の良さは絶対にありますし、これだけ映画館の多い新宿なら選択肢も山のようにあります。こうしたリアルな街で楽しむエンタメの良さを『ぴあ』は伝えていきたいし、ここ新宿が、今後も重要なエリアとしてさらに発展していくんじゃないかと思っています」
広場に設置された歌舞伎町記念碑と岡編集長。新たなシネコンの登場で、ここが再び映画の街としての新宿を象徴する場所になる、かもしれない

取材・文/田中元
撮影/川村将貴

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