熊本以外ではなかなか目にしない「太平燕」。その味と歴史を探る

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【特集・第5回】地元人が推薦! グルメ甲子園 〜 ローカルフード編 〜

2019/06/28

熊本以外ではなかなか目にしない「太平燕」。その味と歴史を探る

熊本ならではのグルメの一つが「太平燕(タイピーエン)」。老舗中華料理店を「タウン情報クマモト」が訪ねました。

Yahoo!ライフマガジン編集部

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春雨麺が特徴の一杯。熊本の中華店では定番的存在

上通アーケード街にある「紅蘭亭 上通パビリオン店」。店はここから入って奥

「太平燕」という料理をご存じだろうか? 野菜がたっぷり入り、見た目はちゃんぽんに似ているけれど、麺はヘルシーな春雨。あっさりながらコクのあるスープも特徴。熊本では多くの中華料理店で提供されている麺料理でもあり、昔から学校給食でも出されているほど、県民の間では認知度が高い。

「紅蘭亭 上通パビリオン店」料理長の鶴田洋平さん

「太平燕」の発祥はいつ何処で? そして熊本で人気の謎

訪ねたのは熊本市内繁華街に3店舗を展開する「紅蘭亭」。創業当初より提供する「太平燕」の有名店であり、また街中の美味しい中華の店として、長らく市民に親しまれる1934年創業の老舗だ。上通(かみとおり)アーケード街の店舗で、料理長の鶴田さんに「太平燕」についてお話を伺った。鶴田さんは大阪の専門学校で中華を学んだ後、紅蘭亭に入社。それから18年間、多い日は数百杯も出るという店の名物「太平燕」と向き合い続けている。まず発祥について聞いてみる。

透明感ある春雨麺が特徴の一つ。熊本に来たらぜひどうぞ! 1杯896円
料理長 鶴田さん
料理長 鶴田さん
「明治時代に長崎に渡ってきた中国福建省の華僑が作り始めたと聞いています」

長崎に崇福寺というお寺があり、そこを菩提寺とした九州の福建華僑の強い繋がりがあって、何かのお祝い事などで皆が集まった時、作って食べていたのが当初と考えられるそうで、以前は九州の他県でも提供されていたそう。長崎には今もあるが、どちらかといえば宴会料理の一つ。単品の個食メニューではないそうだ。また中国の福建省に同じ名前の料理があるそうだが、内容は違い“燕皮”という肉団子を用いたスープらしい。

「太平燕」について紅蘭亭のさまざまなこだわりを語ってくれた鶴田さん
これが「太平燕」に用いられる食材。大量の野菜にも注目
鶴田さん
鶴田さん
「『太平燕』は人気がありますね。注文するのは圧倒的に女性が多い」

「太平燕」はお祝い事などの時に、皆で集まって作って食べていた“ハレの食”。背景としては戦時中ということもあり貧しかったのでフカヒレの代用にしたとか、“燕の巣”を模したという説もある。また「太平燕」から“ちゃんぽん”が派生した可能性もあるそうだ。とにかく他県では廃れていった「太平燕」が熊本では生き続けた。理由ははっきりとは分からないそうだが、熊本の女性達に支持される何かがあったということは間違いない。特徴を見てみよう。

店の名物でもある「太平燕」は多いときは一日に何百杯も出るそうだ
鶴田さん
鶴田さん
「まずは麺に春雨が使われているということ。緑豆100%の本物を店では使っています」

たっぷりの野菜もそうだが、女性に支持される要素の一つとして、ヘルシーな春雨が使われているということ。最近は緑豆以外のでんぷんを混入したものも出回っているそうだが、店では春雨の産地・中国山東省から仕入れるこだわりの春雨を使用。煮崩れしにくいそうだ。またコシに粘りがありつつも、噛めばプチッと切れる食感もまた美味しい。

野菜の旨味が溶け合ったスープに春雨を投入
鶴田さん
鶴田さん
「いわゆる“豚骨ラーメン”とは違う鶏ガラと豚骨を使ったスッキリとしたスープも特徴ですね」

野菜から出る旨味も加わり、コクを持ちつつクリアで雑味が少ないスープ。最後まですっきりと飲み干せる口当たり良いアッサリ系だ。

鶴田さんが先輩達から厳しく言われていたことは“初心を忘れず基本を大切にする”ことだそうだ。

鶴田さん
鶴田さん
「教わったことを守りながら、毎日朝からきちんと入念に煮出しています」

と、鶴田さん。

鶴田さん
鶴田さん
「塩加減が一番大事。私達はふくよかな丸みのある福建省の天日干し天然塩を使っています」

と、教えてくれた。

豚骨と鶏ガラで毎日仕込まれるスープは丁寧に雑味が除かれている
中華鍋に注がれるスープ
シンプルな味付けが真骨頂の「太平燕」。紅蘭亭では福建省の天日干し海塩を用いている
鶴田さん
鶴田さん
「具材として添える“虎皮蛋(フーヒータン)”。うちではこれがないと『太平燕』は完成しません」

虎皮蛋とは湯がいて揚げた玉子のこと。あっさりしたスープにこれが絶妙に良く合い美味しさも増す。店では必ず有精卵を用いている。

鶴田さん
鶴田さん
熊本は野菜の宝庫。そして熊本は水が美味しいということです。アッサリめのスープには水が重要な要素になります」

鶴田さんは「太平燕」が熊本で長く受け入れられ続けてきた背景に、少なくともこれらが関係するのではないかと考えている。

最後に盛り付けられる虎皮蛋。これなしでは「太平燕」は完成しないと鶴田さん
鶴田さん
鶴田さん
「中華で重要なのはスピード。『太平燕』もそう。もたもたしていると春雨がクタクタになります」

また味付けについても鶴田さんは「太平燕」に限らず自然の素材が持っている味を最大限に引き出すように心がけているそうだ。鶴田さんが今、これからの展開として取り組んでいるのが“九州のご馳走中華”。ご馳走と言っても高級中華の方向性に振るということでなく、九州の食材をさまざまな中華技法を用い、オリジナル性を合わせながら、広く愛される中華を提供するというコンセプト。メニュー開発に尽力中ということなので、今後はそれを更なる楽しみに加え訪れたい。

「中華はスピードが命」と鶴田さんは話す
紅蘭亭の人気メニューの一つが九州では“酢排骨(スーパイコ)”と呼ばれる「酢豚」(1296円)。カリッと揚がった豚肉がとろみのあるソースに絡み抜群の美味しさ。「太平燕」とのセットメニューは一番人気だ
落ち着きある店内は広々
外に広がるテラス席は街中のオアシス的存在だ

取材メモ/熊本で生まれ育った私ですが「太平燕」を食べるのは久しぶり。店の「太平燕」をいただいて驚いたのは春雨の美味しさ。コシがありプチプチ感が心地良く実に旨い。アッサリめのスープも相性が良く最後の一滴まで完食しました。また食べたい!

取材・文・撮影=徳永智久

月刊タウン情報クマモト

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1979年創刊のタウン誌。熊本県民の皆さんに“タンクマ”の愛称で親しまれ続けている「月刊タウン情報クマモト」。グルメ、温泉、観光、人、音楽、ファッション、アートなど、熊本の“旬”が満載です。

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