大正天皇にも献上。伝統を受け継ぐ本格手打ち「出雲そば」

大正天皇にも献上。伝統を受け継ぐ本格手打ち「出雲そば」

2019/06/30

そば殻ごと製粉するため、風味豊かな「出雲そば」。「献上そば」を銘打つ老舗店の伝統的な手打ちそばをご賞味あれ。(「山陰のタウン情報 日刊Lazuda」)

Yahoo!ライフマガジン編集部

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石臼製粉と、代々受け継いだ手打ちの技術が生む香り高いそば

漆喰風の壁と立て格子が、歴史ある風情を醸し出す「羽根屋」本店。皇室にも愛された折り紙付きの名店は、地元住民から観光客までファンが絶えない

江戸時代後期にそば屋を開業した「羽根屋」。庶民に親しまれていた店が大きく注目されたのが明治40年5月、山陰行幸中だった後の大正天皇に献上したことだった。風味の高さを認められて、「献上そば」の称号を授与。その後一気に知名度と評判が高まり、今も地元住民や観光客から愛されている。

そば屋7代目、羽根屋12代目の石原健太郎さん

甘濃いツユを、挽きぐるみの麺にかけていただく「割子そば」

「出雲そば」の最も一般的な食べ方が「割子そば」(840円)。冷たいそばが盛られた3段重ねの容器に、ツユを直接かけていただくスタイルだ。ゆでたてをさっと氷水でシメた麺は艶やかに光っている

「出雲そば」の特徴の一つが「挽きぐるみ」という製粉方法。そばの実を外殻が付いたまま製粉するため、色が黒くて香りも高いうえ、甘皮にある豊富な栄養分を余すところなくいただける。その最も一般的な食べ方が、「割子そば」「割子」と呼ばれる丸い容器に盛った冷たいそばに、甘濃いツユをかけて薬味と共に味わうスタイルだ。1段目にかけて残ったツユは、2段目、3段目のそばにかけていくことで、次第にマイルドな風味になる。

店主 石原さん
店主 石原さん
「元々は今よりずっと麺が太く、ツユも濃かったので、1段目のそばと絡まって少し薄くなったツユを次の段にかけることで、最後まで美味しく食べようと工夫されたようです。最近は麺も細くなったし、ツユも1段で完結できる濃度に調整しているので、どんな食べ方をされても美味しいですよ。割子は1段ずつお代わりができる点もオススメです(1段280円)。男性の方なら大抵2段ほど追加され、計5段くらいペロリと召し上がられます」

ダイレクトにそばの風味を味わうなら、「釜あげそば」がイチオシ

そば釜からゆで汁ごと直接器に盛り付ける「釜あげそば」(800円)

「割子」と双璧をなすのが「釜あげ」そば釜から熱々のそばをゆで汁ごと器に盛るため、割子以上に香りやそば本来の甘味をダイレクトに味わえる。そばの実に含まれるポリフェノール「ルチン」は、その多くがゆで汁に溶け出しているので、まさに健康効果も抜群! 寒い冬には特にオススメの一品だ。

石原さん
石原さん
「割子を注文された方にも、そば湯(ゆで汁)をセットで付けています。そのまま飲んでもよし、お好みの量のツユを足して飲まれても美味ですよ。もちろんお代わりは何度でも無料です!」

多い時には1日約1600食分! 徹底して手打ちにこだわる

「水回し」を経て「こね」の作業を終えたところ
職人がめん棒で均一にのばしていく

「羽根屋」は現在、出雲市内3店舗で営業。全店舗の1日分のそばをすべて本店で毎朝、6人の職人が手作業でこしらえる。ゴールデンウィークなどの繁忙期にはその数1600にも上るという。社長の石原さんも職人の一人として、毎朝欠かさず、そば打ち場に立つ。

石原さん
石原さん
「長い時は3時間近くそばを打ち続けるので正直重労働ですが、ここは譲れません。飲食業界でも機械化は進んでいて、もしかしたら20~30年後には手打ち職人はいなくなっているかもしれない。それでも手仕事にはこだわり続けたいですね」
丁寧に折りたたんだ生地を細めに裁断
切りそろえられた麺は昔ながらの杉の「もろ蓋」へ

出雲地方には多数ある「出雲そば」専門店。店の個性が出るのが、麺とツユだ。「羽根屋」では出雲産と県外産のそば粉を、季節や天候、出来具合などによって使い分ける。風味や水分を損なわない石臼製粉にこだわることで、モチモチした食感が生まれている。そうして丁寧に選ばれ、挽かれた粉が、職人たちの手でそばに仕上げられてゆく。

石原さん
石原さん
「わずかな水温や室温の違いによって粉の吸水も変わります。毎日が粉に試されているようで『怖い』ですよ」

最高級本枯節「中厚削り」で取った旨味たっぷりの上品な出汁

最高級の本枯節をたっぷり使った甘濃いツユ

取材で訪れたのは仕込み真っ只中の午前中。店内は芳醇な出汁の香りが充満していた。それというのも「羽根屋」では、鹿児島産の最高級本枯節を数ミリ単位にこだわって自社で削り、丁寧に出汁を取っているのだ。そのカツオ出汁に、地元の醤油や酒などを調合し、全粒粉に合う甘濃いツユに仕上げている。

石原さん
石原さん
「原価は高くなるのですが(苦笑)、昔からの技法を大切にしています

古民家風の落ち着いた雰囲気で、静かな時の流れと共にそばを満喫

落ち着いた雰囲気の和室
昭和・大正時代に使われていた割子専用の「岡持ち」など歴史を感じるアイテムが客席のあちこちに

「羽根屋」本店があるのは、出雲市中心部の旧市街地。京都の町家のように、間口が狭く奧行きが長い、いわゆる「うなぎの寝床」の建物が並ぶ。「羽根屋」も、入り口近くのテーブル席から、狭い露地を経て庭を楽しめる座敷や灯りに照らされた土間などが連なり、同じ店舗内でさまざまな表情を楽しめる。2階には明治大正ロマンを彷彿とさせる和モダンな空間も。

「献上そば」の由来を記した書や、昔の割子などを紹介したコーナー
厨房横のテーブル席は、出汁やツユ、ゆで上がるそばの香りに包まれる

取材メモ/「『献上そば』という金看板に内容がまだまだ付いてきていない」と手厳しい石原さん。その言葉と厳しい表情には、伝統にあぐらをかくことなく、挑戦の精神を忘れない、そば打ち職人としての誇りをひしひしと感じた。進化し続ける出雲のソウルフードをご賞味あれ。

取材・文=門脇奈津子 撮影=松村隆久

山陰のタウン情報 日刊Lazuda

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