精神科医、ココイチの出前から、アイデアの生まれ方を思う

連載

星野概念のめし場の処方箋【Vol.21〜】

2019/05/10

精神科医、ココイチの出前から、アイデアの生まれ方を思う

精神科医として総合病院に勤務する傍ら、文筆、音楽、ラジオなどマルチに働く星野概念が「食べに行く」という行為を通して、「こころ」に関する気づきをひも解く。

星野 概念

星野 概念

精神科医

自由な発想を生むには、最低限の枠があった方がいいのかもしれません

こんにちは、精神科医の星野概念です。

この連載は、日常の食生活の中から僕が感じたり考えたりしたカウンセリング的要素をみなさんにご紹介するものです。

例えば何かしらの企画とか、アイデアを生み出したい時、大きな枠・軸があった方が発想の自由度が増しそうです。僕は当直の時の出前を通して、そういう考えに着地しました。今回はそんな話です。

  

【目次】
1.∞カレー
2.自由な発想の源には最低限の枠があった方がいいのかもしれない


1. ∞カレー

・病院が無人になることはない

病院勤務の医師には当直業務があります。
休日で病院が休み体制ならば、日直業務と当直業務になります。

  

病院には入院している患者さんがいるし、救急車で受診に来る人もいます。なので、入院施設のある病院が、スタッフ無人になることはありません。

  

そして、当直の日は基本的には病院から出られません。

これはまぁ当然で、いつ呼ばれるか分からないからです。当直帯や休日帯には、当番の医師しか病院にはいません。急を要するような状況に突然なることもあり、その時は自分の担当患者さんでなくとも、当番の医師が対応しなければなりません。だから、しばらく呼ばれないからといって、ちょっとそこまで散歩に行って来るでござる、なんていうのは許されないのです。

  

そのため院内には、ベッドが置いてある当直室、シャワールームなど一通り宿泊できる環境が一応整っています。

  

ここで問題になるのが、食事です。

・当直の時の食事

食事の体制は病院によります。

僕がこれまで勤務してきたいくつかの病院においても、それぞれ差がありました。

当直医の人数が一人の場合は、「検食」といって、患者さんと同じ食事を用意してもらえます。同じ食事を食べて、問題がないかどうか確認するのです。

  

でも、病院の規模が大きめだったり、いくつかの診療科があって当直医が複数いる場合、検食担当者は一人なので、他の医師は食事をどうにかしなければいけません。

  

院内に24時間体制のコンビニが入っている病院もあり、その場合は何の心配もありません。いつだって、何だって手に入る。それがコンビニ。

コンビニがあった病院は楽だったなぁ……。

でも、今の僕の勤務先には、そんなコンビニはありません。

職員食堂はあって、休日も時間帯限定で開いていますが、もともと少ないメニューが夜や休日はさらに絞られています。

選択肢が少なすぎる!

  

ならば勤務前の時間に近くのコンビニでまとめて買っておけば良いのですが、コンビニでまとめて買うとなると、今度は何を買ったらいいか決められない。

選択肢が多すぎる!

  

こういう状況で丁度良いのが、出前です。

・出前で好きになりすぎた店

出前。

なんか良いですよね、この響き。

非日常感に、ちょっとだけワクワクします。

でも、何度も当直しているうちに頼む店が同じになってきてワクワクは減弱していきます。関東近郊の、決して都会ではない土地の出前の選択肢は限られているのです。

そんな中、僕がものすごくハマっていた店がありました。

それは、家族経営のロシア料理屋。

  

手作りのチキンサラダは、セロリたっぷり、チキンたっぷり。個人経営なので添加物もきっと使っておらず体にも嬉しい。そして何より、美味しい。これ大切。

それに肉料理を合わせて注文し、朝ごはん用にピロシキも追加。全部合わせて1000円台なんて、文句のつけどころが見つからない!

  

ピロシキ以外のメニューが、ロシア料理なのかどうかよく分からないところも含めて、大好きな店だったのです。

  

ではなぜ、そんな大好きな店を今回取り上げないのか。

そうですよね。

実はその店、先日閉店してしまったんです。

  

ある日注文しようとして電話をすると、いつもの親父さんが電話に出ます。

「あの、出前お願いします。チキンサラダと、ソテーと、ダブルピロシキ(野菜入りのピロシキ。何でダブル?)と……」

  

「あ、あのですね」

「あ、時間なら全然待てるので大丈夫ですよ」

「いや、ウチ、閉店するんです」

「…………。え?」

  

「事情があって店閉めることになって、もうやりません。今までありがとうございました」

この喪失感。

  

ヨリを戻したいと思っていた元妻に、突然「私、再婚するんだ」と言われたような、面食らいながらの喪失感(参照:柳家喬太郎『ハンバーグができるまで』)。

この時、菊地成孔さんがご自身のラジオ「粋な夜電波」の最終回で言っていた

「喪失は喜ばなきゃいけない。きたわるから」(鍛えられるの意)

という内容の言葉が僕の頭には浮かんできました。

いやぁ、でも……、なかなか喜べないっす。

だって、その日の食事、どこに注文したらいいんだよ!

  

・そして見つけた

体は院内にいるまま、心と食欲は路頭に迷います。

  

意識が朦朧としたまま、いや、朦朧とはしてないけどそんな気分で、他の出前の場所を調べますが、何がいいのか判断できません。

  

そんな時、目に飛び込んできたのが

ココイチ

つまり、

CURRY HOUSE
CoCo壱番屋

です。

多分、「ココイチ」って、店名を略した結果の呼称だと思うのですが、その時の僕には「ここ一番の時は任せてくれ!」と言われているように思えました。

というか、もしかしてそういう意味でココイチバン屋なのかな。

・注文方法が結構複雑

なぜだか分かりませんが、それまで僕はほとんどココイチに行ったことがありませんでした。

チェーン店でどこにでも見かけるのに、なぜだろう。

自分でも分かりませんが、そんな状況だったので、注文の仕方がなかなかつかめませんでした。

  

だって、初心者にはあの注文のシステム、なかなか複雑です。

まずソースが、基本のポークソース以外にビーフソース、ハッシュドビーフソースがある。

  

そして、◯◯カレーといった感じで、カレーにメインの具材が入った基本形がいくつも。

    

それを選んだ上で、すごい数のトッピング。

  

そして、ライスの量が自在。

  
  
  

辛さも自在。

そして何と甘さも自在!

甘さ!?

確かに、日本のカレーは甘みがあります。初めはそれを選べるようになっているなんて、びっくりしましたが、実は的を得ているような気がします。

・次第に想像力が∞

この注文の方法、はじめは理解するので精一杯でした。

でも、方法が一旦頭に入ったら、日本的なカレーであればどんなカレーだってカスタムできるような気になってきます。

  

何しろトッピングが豊富だし、季節によってスープカレーやスパイスカレーが登場したりもします。

複雑ながらも、注文方法で決められた枠があり、その枠内で目一杯遊べる楽しさ。

自由ってこういうことかもしれません。

  

お気に入りすぎたロシア料理屋が閉店した後、当直で僕は必ずココイチに電話をします。

ロシア料理屋の時は注文内容はほぼ毎回同じでした。毎回でも食べたいメニューでした。

ココイチは毎回違うカレーをカスタムできるので、また別の、飽きない楽しさがあります。

ココイチの良さ、詳しいメニューなどを挙げたらキリがありませんので、Yahoo!ライフマガジンの以下の記事もご参照ください。

2.自由な発想の源には最低限の枠があった方がいいのかもしれない

・ココイチで感じた自由。

僕がココイチで感じた自由。

そこには、大きな枠として、複雑ながらも定められた注文方法、そして「カレー」というザックリながらもブレない軸がありました。

  

その中で色々な選択肢を組み合わせると、毎回違う、バラエティあふれるカレーたちに出会えます。

一方、コンビニで当直用の食事を選ぼうとする時、何を選んだら良いか分からなくことがありました。

何を選んだら良いか分からないと、結局、「前回と同じ感じで良いや」と諦めてしまい、なかなか想像力を働かせるのが難しいように思います。

こう考えると、自由な発想、想像力を働かせることには、何かしら、ゆるい枠があった方が良いのではないでしょうか。

  

・例えば

例えばこの連載でもそう。

枠は、

「食べに行く」という行為を通して、「こころ」に関する気づきをひも解く。

  

というものです。

これが全くの自由テーマだったら、きっとたちまち何を書いたら良いか分からなくなります。

  

そうなると、毎回ものすごく取っ散らかるか、締め切りを静かになかったことにして自然消滅してしまうかもしれません。

あぁ、怖っ。

  

・枠にハマるもよし、裏切るもよし

大きな枠やテーマ、軸があれば、その中で色々なことを考えられます。

また、その枠をあえて裏切ってみよう、という自由のあり方もまた一つです。

  

広大な宇宙のような選択肢に、一つの枠を設定することで、発想が生まれるスタート地点になるのだと思います。

それがないと、何をどう掴んだら良いのか分からなくなるのが、世の常ではないでしょうか。

まさか、ココイチの出前から、アイデアの生まれ方みたいなところに着地するとは思いませんでした。

さて、明日も当直。

どんなココイチを発明しようかなぁ。

なんて言いながら少し調べてみたら、

全部のせ

なんていうのもあるんですか!

お金かかりそうだし、絶対食べきれないけど、そんな発想もあったのか。

やっぱり、ココイチ、

∞ !!

  

文・構成:星野概念
イラスト:権田直博


星野概念(ほしのがいねん)

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精神科医

権田直博(ごんだなおひろ)

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画家

この記事を書いたライター情報

星野 概念

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精神科医

総合病院に勤務し、日々精神医療に従事する傍ら、執筆や音楽活動を行う。

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