勤務先を異動。悩める精神科医が実感する過剰適応の危うさ

2019/05/06

勤務先を異動。悩める精神科医が実感する過剰適応の危うさ

精神科医として総合病院に勤務する傍ら、文筆、音楽、ラジオなどマルチに働く星野概念が「食べに行く」という行為を通して、「こころ」に関する気づきをひも解く。

星野 概念

星野 概念

精神科医

新たな環境になった時こそ、自分をいたわることができるといいです

こんにちは、精神科医の星野概念です。

この連載は、日常の食生活の中から僕が感じたり考えたりしたカウンセリング的要素をみなさんにご紹介するものです。

新年度から勤務先を異動しました。新たな環境に馴染めず、なかなかに辛いです。間違いなく、普段の自分ではない自分になっている。これは危険な状態です。こんな時に、予想もしていなかった、駅構内のドリンクバーが僕に救いの手を差し伸べてくれました。今回はそんな話です。

  

【目次】
1.異動によって過剰適応している
2.新たな環境になった時に注意すべきこと


1. 異動によって過剰適応している

・勤務先の異動

新年度!

今年は新年度から勤務先が変わりました。
いわゆる、異動というやつです。

僕は大学病院の精神科に所属しているのですが、そういった立場の医師は数年ごとに色々な病院をローテーションするシステムになっていることが多いです。

  

大学病院を本店と考えるならば、支店とも言える、比較的近い地域の病院がいくつもあります。本店と支店で医療の質が変わるというわけではなくて、これは単純に人の派遣のシステムです。

こういった支店を転々としつつ、時々そのローテーションに本店も入っているというイメージが近いと思います。

・大学病院で働く医師の修行と苦悩

大学病院と、大学病院ではない病院で医療の質は変わらないと言いました。これは間違いありません。

違いがあるとしたら、大学病院にしかない特殊な検査や手術の機械があったりするということくらいで、より専門的な検査や治療を必要とする人は大学病院に通わざるをえない場合も確かにあります。

でも、基本的な医療においては違いがありませんし、精神医療では機械が必要なものはほとんどないので、質は変わらないと言えるのです。

でも、働く医師にとっては実は小さくはない違いがあります。

  

大学病院は「大学」とつくくらいですから、教育機関です。医者の卵とも言える医大生が実習しに来たり、研修医の人たちもたくさんいます。

  

勉強しに来ている人たちがたくさんいるということは、教える人も必要です。

そう、大学病院で働くと、日常の診療をしながら、教える、ということも業務に組み込まれます。

これが何を意味するか、それは簡単。今までよりだいぶ忙しくなるということです。

でも、これは教える側の修行にもなります。人に教えるということは、自分の中でなんとなく分かっていることを言葉や態度にして示していくということです。これによって、知識や思想がかなり整理されるのです。

それに、自分も先輩たちに教えてもらいながら少しずつできるようになったことがたくさんあります。

教えるという業務が増えることは全然悪いことではないし、嫌でもない。

でも、やることが増えすぎて、自分のキャパを超えつつあるのは、まぁまぁ苦悩……。

・朝も早い

しかも、異動して勤務開始時間が早くなりました。

  

これは多分、大学病院とかそうでない病院とかに特徴的ということではなく、たまたまのことです。

でも、僕、朝がとても弱いんです。

  

思わずひとりフレックスタイムとか導入したい気持ちにもなっています。

そういう気持ちにはなるけど、まぁ社会人ですからそうもいかないですよね。

そう、起きるしかない。

起きるしかないんや!!

  

・やたらと早起きに

そう考えていたら、毎朝不安で仕方なくなり、起きなければならない時間の1時間前には起きるようになりました。

これはいわゆる過剰適応です。

過剰に環境適応するということは、無理をしているということです。

続くわけないよなぁ、と毎日つぶやきながら、これまででは考えられないほどの早起きをしています。

  

でも、その早起きでささやかだけどとても大きな収穫がありました。

  

・駅のオアシス? オアシスの駅?

あまりに早く起きるので、かなり余裕を持って駅に着くようになりました。

これまでは、駅の中で一番ダッシュをしているのは自分なのではないかというくらい毎朝ダッシュをして電車に飛び乗っていたというのに。

  

それで目についたのが駅のドリンクバー

オアシスステーション

  

今まで、存在自体目に入っていませんでした。

なんだろう、とのぞいてみると、どうやらジュースというかスムージーというか、なにやら美味しそうな飲み物が入ったジューサーがいくつも並んでいます。

  

メニューは

いちごと豆乳の「いちごソイミルク」

いちご、ブルーベリー、ラズベリーとりんごジュースの「トリプルベリーアップル」

バナナと牛乳とミックスジュースの「バナナミルクスムージー」

甘酒とアサイーとバナナの「甘酒アサイー」

などなど。

うーん、全体的にネーミングがそのまますぎる!

  

でも、なんだか美味しそうで、期間限定メニューである、いちご、牛乳、はちみつの「とちおとめスムージー」を頼んでみました。

こんなこと、本当に今までありませんでした。

駅の構内に入ってから、電車に向かって一目散に走り、飛び乗る、以外のこと、したことがなかった僕です。

  

まさか、電車を1、2本見送りつつ、優雅に「とちおとめスムージー」をいただくなんて!!

  

しかもこれ、めちゃめちゃ美味しい!!

僕は、起きてから間もない時間で朝食なんて食べる気にならないので、毎日ほとんど朝食を食べないのですが、飲み物ならいける! というか、いきたい!

  

糖分もちょうどいいのかもしれません。

  

その日は、外来診療がなんと12時間かかりましたが、比較的へたらずに終えることができました。

  

それ以来、オアシスステーションという、オアシス オブ ステーションで、朝の命の飲み物をいただくことが多くなりました。

トリプルベリーアップルは酸味がいい感じ、バナナミルクスムージーはエネルギーみなぎる感じ、甘酒アサイーは麹!って感じ。

過剰適応で疲弊しすぎることが予想されましたが、

  

もしかしたらこの命の飲み物たちのおかげでうまく新しい環境に適応していけるかもしれません。

  

2.新たな環境になった時に注意すべきこと

僕は今、新たな環境で明らかに過剰適応しています。

  

新たな環境になると、その環境のしきたりとか、システムとか、色々な新しいことに直面します。

新たな環境にとって自分は新参者。

多くの人は、慣れないリズムに無理矢理合わせるということをせざるをえないものだと思います。

まぁ、これは仕方ないことです。

でも、よく考えてみてください。

新たなことなんて完璧にできるはずがありません。

真面目なタイプの人、頑張れてしまうタイプの人ほど、完璧にできるはずがないことをなんとかこなそうとします。

そうなると、場合によっては自分を抑えすぎて、我慢しすぎてしまって、自分に負担をかけすぎてしまう可能性があります。

  

これが過剰適応の危険な側面です。

この状態が続くと、絶対にそのまま維持はできません。自分のキャパを超えた状態を維持することはかなり難しいはずだからです。

ある程度頑張って、

  
  

ちょっと無理だったらすみません、

  

くらいの気持ちでのぞんだ方が楽だよなぁと思います。

でも、はじめのうちはそれがなかなか難しい。

  

そんな時、10分とか15分とかだけでも、自分が一息つける時間、仕事のこととか他人のことを考える濃度を薄められる時間があるといいのではないでしょうか。

  

新年度の僕にとって、それは、予想もしていなかった朝のジュースによってもたらされました。

  

どこにそういった救いがあるのかは分かりませんが、ちょっとした、一握りくらいの救いを皆さんが手にしていることを願います。

  

文・構成:星野概念
イラスト:権田直博


星野概念(ほしのがいねん)

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精神科医

権田直博(ごんだなおひろ)

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画家

この記事を書いたライター情報

星野 概念

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精神科医

総合病院に勤務し、日々精神医療に従事する傍ら、執筆や音楽活動を行う。

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