たゆたうように、建物の歴史と人の営みをつなぐ宿。

たゆたうように、建物の歴史と人の営みをつなぐ宿。

2019/07/15

岡山県倉敷市の美観地区、大原美術館の南側に佇む『滔々 倉敷町家の宿』。築約100年の町家を活用した宿泊施設&ギャラリーです。元々ギャラリーだったものを、設計の高吉氏、施工を倉敷木材株式会社と、地元のチームで改修した当宿。工芸美術館に宿泊しているかのような体験ができる特別な宿です。

ONESTORY

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約100年の歴史と記憶が刻まれた倉敷の町家。

滔々。豊かでよどみなく、水が流れるさまを表す言葉です。建物と場所に宿る歴史を力強く、次の世代へつなげる。そんな意味を込めて、この宿は名づけられました。

岡山県倉敷市の美観地区、大原美術館の南側。土蔵造りの白壁が並ぶ町並みに溶け込むように、『滔々 倉敷町家の宿』はひっそりと佇んでいます。ここは、築約100年の町家を活用した宿泊施設&ギャラリー。木造2階建ての建物は一棟貸しの宿で、隣接のコンクリート2階建ての近代的な建物がギャラリースペースです。

自然の素材で作られた建物は、年月を重ねるごとに趣を増す
山の上から倉敷を見守る総鎮守、阿智神社へと続く坂道
白壁と瓦屋根が特徴的な『滔々』

場所を愛し、ものづくりを尊ぶ。その想いとともにバトンを受け取った。

宿として改修した町家はもともと民家で、30年以上にわたって作家の手仕事を大切にし地元内外から愛されてきた『クラフト&ギャラリー幹』の貸しギャラリーとして使用されていました。2017年4月、オーナーの三宅幹子氏が事業を退くことを決意。岡山市内の不動産会社、菱善地所有限会社の宮井宏社長に「この建物と場を託したい」と相談しました。宮井氏は、毎年5月に開催されるクラフト作家の祭典「フィールド オブ クラフト 倉敷」の実行委員長を努めており、岡山を中心に全国のクラフト作家とのつながりも多いことから、この宿を手工芸をコンセプトとした宿泊施設にするプロジェクトを計画。建物と三宅氏の想いや歴史を引き継ぎ、次の時代につなぐ「場」とすることを目指しました。

エントランスの土間は吹き抜けになっており開放的な空間
高橋氏によるソファや、田澤祐介氏によるローテーブルが建物になじむ

人が、時が、通過した「証」を残して。

コンセプトは、「豪奢ではないが良質であること、人の意図や配慮が感じられること、年月を重ねるごとに趣をましていく素材を用いること」。建物は築後数十年の間に、住む人が代わり、使い方が変わり、幾度か改修を重ねられた跡がありました。きちんと製材されていない曲がった柱や、漆喰で仕上げられていない土壁。そういった庶民の生活の場であった記憶を失わず、現代の快適さも兼ね備えた空間をつくり上げることを念頭に、設計は倉敷の建築事務所『TT Architects, Inc.』の高吉輝樹氏、施工は倉敷木材株式会社と、地元のチームで改修が進められました。

観光地だが裏道にあり、通りはひっそりしている

観光地だが裏道にあり、通りはひっそりしている。

特徴的なのは、家具は全てオーダーメイドであるということです。「眠りを誘うソファ」というオーダーのもと生まれたリビングの「futon sofa」は、『さしものかぐたかはし』高橋雄二氏の作。クッション部分は名古屋の『丹羽ふとん店』の綿の布団、張り地はデンマークのクヴァドラ社のウール100%、木部は広島県産の山桜を使用しています。またオーディオチェストは北海道の木工作家・内田 悠氏が蝦夷桜を用いて造ったもの。キッチンの桜のカウンターは倉敷木材の板蔵から選定、『さしものかぐたかはし』高橋氏のデザインによって設えられました。どんな家具がこの建物に合うのかを、素材やフォルムから一つひとつ考え、クリエイターの力を結集させて作りました。

他にも、吹き抜けのランプシェードは伊藤 環氏(岡山)、土間の備前焼のスツールは森本 仁氏(岡山)、備中和紙を使った床の間の壁紙は丹下直樹氏(岡山)と、地元を中心とした全国の作家がこの宿のために誂えたインテリアや建具に囲まれ、まるで宿一軒が工芸美術館のようです。

キッチンの食器やカトラリーもギャラリーで購入可能

旅人と地域をつなぐ2つのギャラリー。日常であり、非日常でもある場でありたい。

ギャラリーは2つあり、「滔々 gallery 1」は宿で使用している作家の作品を展示販売。「上質で、贅沢すぎず、日常使いできるもの」を意識し、手の届きやすい価格帯の器や雑貨をセレクトしています。企画展も行い、全国の手仕事を紹介しています。
「滔々 gallery 2」はレンタルギャラリーとして、地元作家を中心とした展示を行っています。

宿とは雰囲気が違い、スタイリッシュなデザインのギャラリー
「何かいいものあるかと思って」と気軽に立ち寄る近所の人も多いという

日常であり、非日常でもある場でありたい。

『滔々』は宿でありギャラリーという2つの要素を持つ施設ですが、「地元の方にも開かれた場所でありたい」とマネージャーのァースト理恵氏は話します。「一棟貸しの宿なので、特別な日に仲間と集まって心おきなく語らったり、夫婦の記念日にのんびり寛いだり。また、ギャラリーも気張らない空間なので、散歩がてらに覗いてもらえれば嬉しいですね」と話します。

5月には新たに、1~2名で利用できる宿泊スペースを設ける予定だとか。30年の間、人と人、人とものが出会う空間だった場が、これからは人が安らげる場としての機能も持ち、更に次の時代へとつながる。この宿に滔々と受け継がれるもの――それは歴史であり、記憶であり、「縁」でもあるといえるでしょう。

シンプルだが、丁寧に作られた作品が並ぶ
ぬくもりのある佇まいに、「ただいま」と帰りたくなる

この記事を書いたライター情報

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「ONESTORY」は「ONE SPOT,ONE TRIP」をテーマに日本に潜むONE=1ヵ所を求めて旅するトラベルメディアです。そのONEは地域で活躍する人との出会いや宿、レストランのような場所など様々。ONEを深く知ることによって生まれるSTORY=物語の感動をお伝えします。

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