犬養裕美子のお墨付き! 驚きの和素材で話題の中華「エンジン」

連載

犬養裕美子のアナログレストラン【Vol.61〜】

2019/05/28

犬養裕美子のお墨付き! 驚きの和素材で話題の中華「エンジン」

“アナログレストラン”はレストランジャーナリスト犬養裕美子が選ぶ「いい店」。作り手がその場できちんと料理をしていること。小さくても居心地のいい空間とサービス、かつ良心的な値段。つまり人の手、手間をかけた「アナログ」で「アナ場」な店。第68回は神楽坂「エンジン」。

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

和の食材を使ったあっさり中華

2015年2月にオープンした時、余計なお世話だが、路地を入るロケ―ションが不安材料に思えた。「エンジン」が入っているビルは、公園奥の静かな場所。周辺には神楽坂らしい大人向けの店が多いが、 メインストリートの神楽坂、大久保通りからも入り込む奥まった場所にある。

隣接して神楽坂随一のタワーマンションがそびえているとはいえ、通りがかりのお客が入るとは思えない。その後も気になって何度か立ち寄ってみたのだが…、なんといつも満席で入れない! 心配は杞憂に終わったのだ。

それでめでたしめでたしなのだが、個人的にはせっかく来て食べられないのが、なんとも悔しかった。後日ようやくランチでリベンジを果たして、その人気の理由がわかった。

新茶の炒飯1100円。新茶独特の香りと、香ばしい松の実とコリンキーの漬物がアクセントに。新茶は水出しの出汁と、若芽を粉末にして混ぜ込む。中国でも茶葉を使う料理はあるが、これは日本の料理だ

料理があきらかにおいしくなっている。こういうと、オープン時はおいしくなかったのか、というつっこみがあるかもしれないが、そんなことはない。当時もおいしかったが、まだ、松下シェフはどう出そうか、慎重に様子を見ていたのだろう。

それがこの4年で着実に開花したというか、『自分らしさ』の方向性が定まった。カウンター越しに見ていても明らかに余裕ある立ち居振る舞いが目に付く。特にチャーハンを作る約3分は、圧巻の鍋振り。

シャーと鍋肌をすべるように溶き卵を回して、ふわっと膨らんだところでごはんを投入する。カンカンと鍋に叩きつけるように卵とご飯を絡ませながら、具材を合わせ、調味料で味を整え、チャッと皿の上に盛り付ける

松下シェフは中華だけでなく和食店での経験があるから、「日本の旬の素材を取り入れた中国料理」をテーマにメニューを考えている。

「他の中国料理店では絶対にないだろう、〆サバを出して、男性のお客様にはとても評価を受けました」(松下シェフ)

桜エビとトック、菜の花の煮込み1800円。春先から初夏の素材・桜エビは美しい色と香ばしい味が特徴。トック(韓国の餅)に味をうわせて煮込む。松下シェフのオリジナル

新しい食材として昨年からジビエを使い始めた。イノシシのシュウマイや焼豚はジビエ好きのコアなファンの間で話題に。スペシャリテの黒酢の酢豚も、季節によって揚げた豚ロース肉に旬の素材を合わせる。

春は葉玉ねぎ、初夏はトマト、夏は石川芋、冬は堀川ゴボウなど、力のある素材同士、ガッツリ組み合って、食べ手を圧倒する。アラカルトだけでなく、コースにも必ず出るほど、この店の顔になった料理だ。

黒酢の酢豚とトマト2100円。酸味がツンツンしていなくてやさしいのが特徴。秘密は黒酢は中国産と日本産をブレンドしているから。組み合わせる旬の野菜とのバランスによっても調整している

最近、人気を集めている日本人シェフの中国料理はいい意味で自由な表現を楽しんでいる。

中国料理の基本を守りながら、素材や表現には日本のエスプリを効かせる。そこに気付くのは、食べ歩きを重ねた人たちばかりではない。料理がおいしければ、そして店が居心地がよく適当な値段なら、どんな場所でも食いしん坊は引き付けられる。

「エンジン」は5年目を迎えても、まだまだ進化の勢いはとまらない。

松下和正昌シェフ 1978年大分生まれ。「天厨菜館」で基礎を「A jun」で新感覚の中国料理を学ぶ。「30歳で赤坂の「うずまき」のシェフに抜擢され、7年務める。2015年、独立
その日のおすすめは、黒板をチェック! 旬の味を楽しみたい
左はカウンター6席、右がテーブル席で2人×6卓。一人客でも気楽に利用できる

この記事を書いたライター情報

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

東京を中心に地方や海外の食文化、レストラン事情を最前線で取材。ファッション誌から専門誌まで数多くの雑誌で連載を持ち、その店の良さ、時代性をわかりやすく解説。特に新しい店の評価に対する読者の信頼は厚い。食に関わる講演・審査員など多数。農林水産省顕彰制度・料理マスターズ認定委員。

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