個人商店のようなチェーン店に、精神科医が希望を感じた話

2019/05/31

個人商店のようなチェーン店に、精神科医が希望を感じた話

精神科医として総合病院に勤務する傍ら、文筆、音楽、ラジオなどマルチに働く星野概念が「食べに行く」という行為を通して、「こころ」に関する気づきをひも解く。

星野 概念

星野 概念

精神科医

相手と馴染みながら変化していくことが、個性を進化させていくということかもしれません

こんにちは、精神科医の星野概念です。

この連載は、日常の食生活の中から僕が感じたり考えたりしたカウンセリング的要素をみなさんにご紹介するものです。

都会や関東近郊で、なんとなく似たような街が増えているような気がしていました。街がチェーン化しているような感じ。その感じは、個性を退化させてしまう気がして良いと思えません。ゴールデンウィークに散歩をしていたら、その不安に希望を与えてくれるようなチェーン店に出会いました。今回はそんな話です。

  


【目次】
1.ぶらぶらしながら唐揚げ
2.相手と馴染むことの大切さ

1. ぶらぶらしながら唐揚げ

・ゴールデンウィークは散歩くらい

皆さん、これまでにない10連休というゴールデンウィークはいかがでしたか。この記事が更新される頃には、もうそんなこと遠い昔、というくらい日々に忙殺されている人も少なくないような気もします。

  

僕の今年のゴールデンウィークは、10連休ではなく、例年通りの勤務日程でした。しかも病院は休日でも祝日でも、誰かしら医師が常駐している必要があるので、当直業務をする祝日も数日。

連休は作れなかったし、普段から出不精な傾向もあるため、遠出はせず、休みの日は寄席に行くか、ぶらぶら散歩をするかしていました。

  

・旅気分を味わうために世田谷線に

そんな中でも、少し旅気分を演出してみようと考え、ローカル線に乗ることにしました。何線か迷った結果、たまたまその時最も乗りやすかった世田谷線にライド オン。

  

乗るのは数回目ですが、なんだろうあの落ち着く感じ。

  

いいなぁ〜〜zzz、

  

なんてウトウトしていたら、たちまち終点下高井戸駅。

  

下高井戸駅には夜しか来たことがなかったのですが、なんとなく居心地が良い気がしたので、その日は下高井戸でぶらぶらすることにしました。

  

・下高井戸シネマ

下高井戸といえば、下高井戸シネマ。

行ったことはありませんでしたが、きっと何かやっているに違いないと考えて足を運びました。

結果、何かやっていました!

  

当たり前や!

いや、そうなんですが、さらに上映中作品の中に、今年一番観たいと思いつつ観られていなかった
「ビールストリートの恋人たち」
が含まれていたのです。

これは、タナボタというか、出会いというか、偶然というか……、まぁなんでも良いけど上映まであと20分!

  

こんなタイミングの妙、なかなかありません。迷わず鑑賞することに決めました。

  

下高井戸でぶらぶらすることを決めてから早15分。早速映画館の席に着席したのでした。

  

全然ぶらぶらしていない!

  

・映画鑑賞後

「ビールストリートの恋人たち」、素晴らしい作品でした。

「ムーンライト」のバリー・ジェンキンス監督作。

ここで映画のことを書き始めると、なかなか納まりがつけられなくなるのであまり書きませんが、「ビールストリートの恋人たち」は、ブラックカルチャーのこと、人種差別の歴史、さまざまな少数者のことやそれを生み出す社会のこと、そして恋愛や家族のことなどを、綺麗で抑えのきいたトーンで深く描いた、類を見ない傑作だと思います。

鑑賞後、パンフレットでも読みながらしばらく映画の余韻に浸りたいと考え喫茶店を探しました。

商店街をぶらぶら。

  
  

やっとぶらぶらしている感覚を得たところで、踏切の近くに小さな人だかりができているのに気がつきました。

  

・唐揚げがたくさん並んでいる

そこはどうやらテイクアウト中心の揚げ物屋さんのようで、ウインドウの中に並んだ何種類もの揚げ物を店頭に群がる人たちがそれぞれ選んでいます。

  

少し覗いてみると、なんとその揚げ物はほぼ全部唐揚げでした。

  

塩、醤油、梅、紅しょうが、甘ダレ、チーズ、サムジャン、にんにく

などの、さまざまな味の唐揚げに加えて、弁当も置いていました。

このお店、下高井戸駅前市場の入り口あたりにあるテイクアウト専門店だったのですが、きっと地元の人が立ち寄りやすい立地で、夕食のおかずなどに買っていけるように、その土地に合わせてつくられた個人商店なのだろうと思いました。

  

個人商店が生き生きしている街はやはり良いです。それだけで、他の街とは違う個性を感じます。

下高井戸、住みたいくらいだ、なんて考えながら、喫茶店帰りでお腹が空いていたら唐揚げを買って帰ろうと少しワクワクしながらまたぶらぶら。

  
  

・そしてテイクアウト

喫茶店でしばらく映画の余韻に浸り、読書をし、少し書き物をしていたらもう夕方。

ちょうど良い暗さになって来たのでそろそろ帰ろうと思い喫茶店を出たところで、まぁまぁの空腹。

これは、さっきの唐揚げ屋に寄るしかない。

お店の名前は覚えていないけど場所は分かります。なぜなら市場の入り口だから。

  

行ってみるとまたもや小さな人だかり。

店名は横書きの左から読む形で

店賣専揚唐鶏戸井高下

つまり

下高井戸鶏唐揚専賣店

というお店でした。

買って行く人たちが結構な数を買って行くので、それにつられたのかもしれません。塩、醤油、チーズ、サムジャン、梅、紅しょうが、と自分でも少し驚くくらいの衝動で唐揚げを大人買いしました。

  

いいんです、大人だから……。

・冷めてるのにうまい

しかし、買うだけでは衝動はおさまりません。

もう、帰る前に食べたい。

結局、駅のホームに座り、いくつか頂くことにしました。

  

でもなんだか冷めています。
熱々だから唐揚げって美味しいのではないか?

そんな疑問を抱きながら、定番の醤油をかじってみると、すごくうまい!

  

味が濃すぎず、でもしっかりしています。

結局ホームで全て食べてしまいました。

  

・え? チェーン店??

帰りながら、もしかしたら、知る人ぞ知る名店なのではないかと考えて、お店のことをインターネットで、Yahoo!で、調べてみました。

そしたら、びっくり。

なんとチェーン店だったのです。

  

あの雰囲気、お客とお店の人の感じ、マニュアルっぽくないメニュー、いろいろな要素が全然チェーン店ぽくない。

チェーン店て、街から浮いているとは言いませんが、馴染んではいないような感じがしますよね。

  

むしろ、チェーン店に街を馴染ませるくらいの強引さを感じるというか……。

でも、あのお店は違いました。僕の感覚が鈍いだけかもしれませんが、街に合わせてできたお店に思えたのです。実際、そこで暮らしている感じの人たちが多く集まっていたし。

  

チェーン店か個人商店か、という肩書きは結局あまり関係ないんですね。

街に馴染んでいる、街に合わせている雰囲気があるお店が、その街の個性にも繋がっている感じがして自分は好きなんだ、と改めて思いました。

2.相手と馴染むことの大切さ

もしかしたら、何においても共通したことかもしれないと今回思ったのは、商売にしても、コミュニケーションにしても、相手がある時、相手と馴染んでいる雰囲気、相手に合わせる姿勢というのはかなり大切なのではないかということです。

  

・北風と太陽

「北風と太陽」という絵本を思い出します。

  

コートを着て歩く旅人を見て、北風と太陽が、どちらがコートを脱がせることができるか競う話だったと思います。

  

北風は力尽くで、強風でコートを吹き飛ばそうとします。旅人は一生懸命コートが脱げないように堪えます。

  

太陽は旅人を照らします。旅人は暖かくなり、コートは必要ないと考えてやがて脱ぎます。

  

この話にも似たようなところがあって、北風は相手に合わせる、相手に馴染む、ということを意識しなかったからなかなかコートを脱がすことができませんでした。

  

太陽は、いきなり無理矢理な変化を急ぐのではなく、暖かく照らすことで、相手と馴染んだのだと思います。結果、双方穏やかな結果となりました。

  

・個人商店と典型的なチェーン店

僕の思う典型的なチェーン店は、北風に少し似ています。

そのチェーン店ができたことで街が急に変わる。それまでの歴史と関係ない文脈がいきなり入り込んで来て、色々な街を平均化しているような印象があります。

個人商店はそうではありません。街に影響を与えるにしても、街の人と馴染みながら、双方影響を与え合いながら変化していくような印象です。

  

その結果、そこにしかない、「ならでは」の街並みや雰囲気が生まれるのだと思います。双方の個性が進化するとも言えるかもしれません。

  

どちらの変化をよしとするかは人それぞれ。

でも僕は、平均化していく街は面白くないなぁと常々思っています。

  

そういう意味で、個人商店のようなチェーン店に今回出会えたことは、大きな驚きと喜びを覚えることでした。

コッケコッコーー!!

  

文・構成:星野概念
イラスト:権田直博


星野概念(ほしのがいねん)

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精神科医

権田直博(ごんだなおひろ)

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画家

この記事を書いたライター情報

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精神科医

総合病院に勤務し、日々精神医療に従事する傍ら、執筆や音楽活動を行う。

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