福井・鯖江市 250年以上続く酒造・豊酒造株式会社

2019/06/06

福井・鯖江市 250年以上続く酒造・豊酒造株式会社

鯖江市下野田町にある豊酒造株式会社。福井県産の原料にこだわり、地元ならではの酒づくりに力を入れている。「食に寄り添う酒」をめざして新たな開発に取り組む佐々木宗利さん、克宗さん親子に、その思いを聞いた。

中広

中広

地元に根差した蔵ならではの魅力

もうもうと上がる蒸気に、真剣なまなざしを向ける佐々木克宗さん。11代目蔵元である父・宗利さんと協力して、蒸し上げた米を移動用の容器に移す。かわす言葉は少ないが、二人の息はぴたりと合っている。

蒸した米を甑(こしき)から協力して移し替える

1753(宝暦3)年、豊村野田(現・鯖江市下野田町)で創業した豊酒造株式会社。良質な伏流水を利用した清酒で地域の人々に親しまれてきた。

9代目蔵元の惣吉氏から、杜氏中心だった酒づくりに蔵元が大きく関わるようになった。惣吉氏は、醸造技術と品質の向上のために明治政府が設立した国立醸造試験所(現・酒類総合研究所)に入所。第一回研究生として醸造学を学び、豊酒造に近代的な酒づくりを取り入れた。

平成に入ってからは、品評会で入賞しやすい酒づくりをしていた。安定した味で全国品評会の金賞を受賞するなど高い評価を得ていたが、福井県の気候を生かした地酒をつくる機会が減っていった。

「このままではいけない」と立ち上がったのが宗利さんだ。自らが杜氏を務め、2002年の仕込みからとことん福井にこだわった。
 

選んだのは福井県が推奨する酒米品種、五百万石。特に、大吟醸と純米大吟醸には地元農業生産法人に依頼した特別栽培米を使う。五百万石は、山田錦に比べて米が硬く糖化しにくい。扱いづらい分、上手く性質を生かせば淡麗でキレのある清酒に仕上がるという。

気候風土も大切にして、温度や湿度の管理は最低限にした。機械で一定管理をすれば常に同じ品質の酒をつくれるが、澄んだ空気の中でつくった酒は、この地域ならではの風味が生まれる。毎年変わる気候に合わせて、米に水分を吸わせる浸漬や蒸米の時間を調整するのも職人技。微妙な味の変化は、むしろ楽しみになる。長年培った経験と技術に、地域の人の意見を取り入れて生まれるのが、地元に根差す蔵の味だ。

上槽用の圧縮機から酒粕をはがす。はがした酒粕は形を整えて販売する

食材を引き立てる多種多様な酒を開発

酒の味を知らない高校生のころから米運びなどの作業を手伝っていた克宗さん。当初、家業を継ぐかは決めあぐねていたという。茨城大学農学部でバイオテクノロジーを専攻。将来は地元に戻ると決めた上で、東京の会社に就職した。

7年前、26歳で帰郷。夏期は農業生産法人で酒米栽培を、冬期は宗利さんから酒づくりを学んだ。「30歳までに継ぐかどうかを決めるようにいわれていました」と克宗さん。2年前、風邪で寝込んだ宗利さんに代わり、初めて酒づくりの中心を担った。自信を得た克宗さんは、約束の年から1年が過ぎた31歳で継承を決意した。

26歳で野菜ソムリエの資格を取り、地元の野菜に関する知識も深めている佐々木克宗さん。甘酒の技術を生かして、「次は甘い酒をつくりたい」と新たな構想を語る

毎年つくる遊び酒の一つとして克宗さんが開発したのが、「飛び切り燗吟醸 ちゅんちゅん」だ。「ちゅんちゅん」は福井弁で「とても熱い」という意味で、55度から60度で飲む飛び切り燗の特徴を分かりやすく表現した。

飛び切り燗吟醸 ちゅんちゅん・・・パッケージの徳利に羽が生えたイラストは宗利さんの発案。当初は「ちゅんちゅん」の意味を勘違いしたデザイン会社が、雀のイラストを入れていたという

豊酒造では、年越し酒として昔から親しまれている「しぼりたて うすにごり本醸造」や、宗利さんが理想とした熟成酒「1997酒造り人 宗利」、看板商品の「大吟醸 滴(したたり)」など、多種多様な酒をつくる。そのすべてで意識しているのが、「食に寄り添う酒」である。

しぼりたて うすにごり本醸造・・・初仕込みの酒。10度~20度で飲むのがおすすめの冷酒だが、冬の風物詩として親しまれている
大吟醸 滴・・・圧搾機で圧力をかけるのではなく、もろみの自重で抽出した袋吊りの大吟醸

「福井には海産物も農産物も、うまいものが多いですから」と宗利さんは笑顔。その隣で克宗さんもしみじみと頷いた。香りが強すぎると食材の味を打ち消してしまう。しかし、香りを弱くすると酒本来の魅力が消える。食事の邪魔をしないよう、ほどよい香りの酒をめざしている。

酒用米麹を使った発酵食品を販売

素材の味を楽しむ商品として、麹発酵食品も製造する。以前は家族用につくっていたものだが、地元客の要望を得て商品化した。もち米を酒用米麹で糖化発酵させた「食べる甘酒」は、一般的なものよりとろみが強く、甘味料を使用していないため、米本来の甘味を楽しめる。地元の人にとっては、正月に日吉神社でふるまわれるなじみの味だ。加熱処理をしない生味噌も、穏やかな旨味で食材を引き立てる。常温保存すると熟成が進むので、好みの熟成度合いに調整できる。

食べる甘酒(醴)・・・「醴」とは、古代の甘酒の名称。アルコール発酵をさせていないので、子どもでも安心して食べられる
造り酒屋のこだわり味噌・・・1月から3月の間に仕込み、土蔵でひと夏、自然熟成させた

2010年代初頭の塩麹ブームに乗って生まれたのが、甘酒の製造過程で天然塩を混ぜ込んだ「醴塩(れいしお)」。塩麹よりも塩の使用量を減らした。酵素で肉を柔らかくするため、からあげなどの調理に適している。豊酒造では、きゅうりの浅漬けや焼きトマトなど豊富なレシピを紹介するとともに、ウェブサイトでもレシピのページを制作中だ。

醴塩・・・ブドウ糖や必須アミノ酸、ビタミンなど栄養素が豊富。素材の味を生かす調味料だ

今後は広報活動にも力を入れていく。職人や、長年鯖江で暮らす人との関わりは深いが、大通りから一本入った立地ゆえか、若い人にはなかなか知られていない。

「店のことを知っている人でも、酒造ではなく酒屋だと勘違いしている人もいるんです」と克宗さんは苦笑する。「地元に250年以上続く酒造があるということを、まずは知ってもらいたいです」

酒の種類が豊富な販売所。座って説明を受けることもできる
看板犬の「緑天(りょくてん)」。毎年会いに遠方から訪れる客もいるのだとか

地元の食材を使い、新たな鯖江の味を生み出し続ける豊酒造株式会社。今後も地域の人々とともに歩み続けていく。

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中広は岐阜に本社を置く広告会社です。 地元の情報を各戸配布のハッピーメディア(R)『地域みっちゃく生活情報誌(R)』のブランドで発信しています。

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