埼玉・久喜市 イチゴの新品種栽培へ臨む農家の思い

2019/06/11

埼玉・久喜市 イチゴの新品種栽培へ臨む農家の思い

平成28年に誕生した埼玉県独自の品種のイチゴ栽培に、いち早く取り組んだイチゴ農家がある。久喜市にあるいちごの関園の関裕一さんに日ごろのイチゴ栽培や新品種のあまりんについて聞いた。

中広

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食べた人の笑顔がイチゴを作る一番の喜び

久喜インターチェンジから車で西へ10分ほど、住宅と田畑の広がる一角に、白いビニールハウス(以下、ハウス)が何棟も建っている。関裕一さんの家族が経営する、いちごの関園(以下、関園)だ。

関さんは、祖父の代から始めたイチゴ農家の三代目。現在は、両親、妻と共に約1千200坪、4つのハウスを切り盛りしている。

祖父の頃は、イチゴは米作りの裏作だったという関さん。「稲刈りが終わると、田んぼに小さな簡易ハウスを建て、イチゴを作っていました。田植えの時期がくると支柱を抜いて、ハウスを撤去していたんです」と、話す。

やがて父の光一(みつかず)さんが畑に連棟ハウスを建て、イチゴはそこで作るようになる。

幼少期から家族の仕事を見て育った関さんにとって、農業を継ぐのは自然の成り行きだった。久喜工業高等学校を卒業後、会社員を経験。その後、埼玉県農業大学校の園芸科施設野菜を専攻、イチゴ農家の道に入り今年で14年を数える。

いちごの関園の皆さん。左から、関裕一さん、理恵さん、福子さん、光一さん

今年作付けしたのは、かおり野、とちおとめ、そしてあまりんの3品種。試作で恋みのりも少し作ったという。昨年は試作品を含め8品種を育てたが、今年はそこから種類を絞った。イチゴは、品種によって必要な水と肥料の量が異なる。品種が増えるほど、管理の手間も必要なためだ。

受粉はミツバチを使って行う。花のつき始めから収穫期間が終わるまで、ミツバチも仕事に励む

イチゴの栽培は、春に親苗を植え、子苗を育てハウスに植え込み、摘み取るまで8カ月ほどかかる。その後11月から5月の7カ月間はずっと収穫期間が続く。このサイクルと並行して翌年の苗作りも行うため、ほぼ1年中イチゴの世話にかかりきりだという。「イチゴを育てる苦労は気になりませんが、収穫で腰を曲げ続けていたら、ひどい腰痛になってしまいました」と、関さん。

イチゴの赤い実は果実ではなく、花托(かたく)と呼ばれる雌(め)しべの土台部分が育ったものだ

摘み取ったイチゴは、実をチェックしながら家族でパック詰めしていく。選果室の一角では販売もしており、イチゴを買い求める人の声が直接耳に入る。

収穫したイチゴは選果室で一つひとつ目で確認し、手作業でパックに詰めていく

「イチゴは、子どもたちが大好きです。だから、おいしいと言ってくれる子どもたちの笑顔を見る瞬間がいちばん嬉しいですね」と、関さんも笑顔を見せた。

開発者の思いに触れあまりんの栽培に挑戦

関園で作っているあまりんは、平成28年に完成した埼玉県オリジナルの品種だ。イチゴの味は、甘さと酸味のバランスが重視される。あまりんの糖度は11〜15度で、とちおとめよりも甘みが強く、酸味は少ない。多くの人に好かれやすい品種といえよう。

あまりんの実は、整った円錐形で鮮やかな赤みがあり、果肉は淡い赤色。中も芯の近くまで赤い

あまりんは、埼玉県農業技術研究センターがやよいひめと、ふくはる香を掛け合わせて開発した。埼玉県内の生産者から、県ならではの品種をほしいという要望があったのだ。栽培は埼玉県内でしか許可されていない。

味の良さにこだわり、あまりんは開発開始から発表まで10年を費やした。関さんの所属するイチゴ農家団体の養液いちご研究会では、平成24年からあまりんの試作に協力。技術者たちが何万株も掛け合わせ、すべてを食べ比べ、求める株をひたすら選別する様子をそばで見聞きしてきた。

関園では、あまりんの発表後すぐに栽培、今年で3シーズン目を迎えた。

1シーズン目の一昨年は、200株ほどを植えて様子を見た。翌年は、これなら良いものが作れそうだと、2千株に増やした。

「今年はさらに量を増やし、約3千800株のあまりんを育てました」と、関さん。12月から収穫が始まり、売れ行きも好調だった。これからも他の品種と織り交ぜて栽培していく予定だ。

「近年のハウス栽培では、環境制御という考え方が指導機関から言われています」と、関さんはいう。これは、植物を人工的に整えたハウスの環境に慣れさせるのではなく、自然な生育状況にハウスの環境を合わせていくという考え方だ。

イチゴは本来、初夏の作物なので、暖かいほど成長していく。しかし、育ちやすいからと水や肥料、湿気を与えすぎると味がぼやける。冬のように厳しい環境の方が、食味は良くなるのだそうだ。「植物に合わせた栽培方法を用いながら、いかにおいしく作るかの調整が、いちばん難しいですね」と、関さんは話す。

あまりんの葉の茂り具合などを見て、生育の度合いを確認する関裕一さん

あまりんに続き、今後も新しい品種は次々と開発されていくだろう。関さんは、「新しいものは、ぜひ栽培してみたいです」と力強く語った。「時代によって、ニーズもお客様の好みも変化します。なにより、自分自身が新しいことに挑戦してみたいのです」。

小さな一粒に込められた、食べた人を笑顔にしたいという思い。いちごの関園と関さんの挑戦は、これからも続いていく。

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中広は岐阜に本社を置く広告会社です。 地元の情報を各戸配布のハッピーメディア(R)『地域みっちゃく生活情報誌(R)』のブランドで発信しています。

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