代々木上原の老舗? 吉田風中国家庭料理「ジーテン」

代々木上原の老舗? 吉田風中国家庭料理「ジーテン」

2019/07/23

“アナログレストラン”はレストランジャーナリスト犬養裕美子が選ぶ「いい店」。作り手がその場できちんと料理をしていること。小さくても居心地のいい空間とサービス、かつ良心的な値段。つまり人の手、手間をかけた「アナログ」で「アナ場」な店。第70回は代々木上原「ジーテン」。

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

今年で20周年。吉田メニューは不滅です!

この取材に伺う数日前に「ジーテン」はネットの検索ワードで人気急上昇。何があったのかと驚いて調べたら、某首相(?)が奥様とお見えになったのこと! 吉田勝彦シェフに聞いたら「うちの常連さんが選んでくれただけで…」とさりげないが、首相の会食に選ばれるほどの魅力を「ジーテン」ファンならいくつもあげられると思う。

鮎揚げ 肝ソース 1尾800円 季節の素材を使った本日のメニュー。国産の素材を使う吉田シェフの個性を生かした料理。香ばしく揚げた鮎に、肝のほろ苦いソースがよく合う

第1にオープン以来、40品前後のグランドメニューはほとんど変わらない。あの時食べたあの料理がいつ来てもオーダーできる! 第2に健康に配慮したメニュー表記。全て写真付で、料理名と医食同源に基づいた効能が記されている。茹でワンタン(老化防止)、ナスの冷菜(解熱)、イカとセロリの炒め(利尿・血圧降下)など。食べ物が身体を作るのだから、何を食べるかはホントに重要。ついつい料理を選んでいるのか、健康相談に来たのか忘れてしまう。

インゲンのカリカリ炒め1000円「ジーテン」の人気ベスト3に入るベストセラー。油でカリカリに焼き炒める 

第3、旬の素材はテーブルの上に置かれた手書きメニューから選べる。第4、化学調味料は不使用で、国産素材にこだわる。特にシェフの故郷、岩手県の素材は豊富だ。第5、高級素材にこだわらない。アワビや鴨丸ごとなどお祝い料理はなし。日常料理だから安い! 一皿1000円前後。第6、麺・飯ものは、担々麺と高菜ご飯のみで、焼きそばや炒飯はナシという潔さ。

吉田シェフ一人で調理するので、焼きそば、麺類まで作るには設備も人手もいっぱいいっぱい。だから「逆にお客様に迷惑をかけることになるので、麺飯は最初からやらないと決めてました」。第7、お客さんの層が幅広い。周囲の住宅街からおとずれる家族連れもいれば、前述のように首相夫妻まで。また、料理人や芸能人が多いのは、吉田さんの人柄によるもの。

茹でワンタン(海老)1200円 ぷるぷるのワンタンの中にはパプアニューギニア産海老入り

先日も、或るミュージシャンがカウンターに座った。彼は吉田さんが30年前に代官山の店で副料理長を勤めていた時によく通ってくれていた常連さんだ。だが、ここで店をやっているのは知らなかったらしい。注文はインゲンのカリカリ炒め。一口食べてびっくりした表情で「これ、昔よく行った代官山の中華の味と同じだ」とさけんだ!「それ、僕が作っていました」と吉田さん。30年もの前の味を覚えてくれているお客がいるなんて料理人冥利につきる。というか、吉田さんの料理には、そんなジンワリ浸みるおいしさがあるのだ。

吉田勝彦シェフ 1964年、岩手県生まれ。調理師学校を卒業後「四川飯店」経て、代官山「Linka」でモダン中国料理の技法を見に着ける。おっとりした性格がテレビでも受けて料理番組出演や著書も多数

代々木上原といえば、おしゃれな店が立ち並ぶ大人の街としておなじみ。でも、この街がこれほど注目される前、その先陣を切っていたのが「ジーテン」だった。実は私もこの街に15年間仕事場があたったのでよく通った。化学調味料も高級素材も使わない、正直な料理。
「家庭の料理って、いいなあ~」としみじみ感じ最初の印象から20年を過ぎても、スピリットは変わらない。これからもマイペースで続けて欲しい。

カウンター9席、 テーブル席で2人×2卓。4名1卓。人気店なので事前に予約した方がベター

この記事を書いたライター情報

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

東京を中心に地方や海外の食文化、レストラン事情を最前線で取材。ファッション誌から専門誌まで数多くの雑誌で連載を持ち、その店の良さ、時代性をわかりやすく解説。特に新しい店の評価に対する読者の信頼は厚い。食に関わる講演・審査員など多数。農林水産省顕彰制度・料理マスターズ認定委員。

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