蚕畑だった場所に、欧州の田舎町を再現した唯一無二のカフェ。

蚕畑だった場所に、欧州の田舎町を再現した唯一無二のカフェ。

2019/07/15

茨城の県西部に位置する人口約5万人の城下町、結城市。そこには遠方からもお客様がやってくるというカフェ『カフェ ラ ファミーユ』があります。オーナーである奥澤裕之氏に店づくりへのこだわりを聞くとともに、その人気の秘密に迫りました。

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蚕畑だった場所に、欧州の田舎町を再現した唯一無二のカフェ。

カフェと雑貨店との間にある小路に佇む奥澤裕之氏

登場するのはカフェオーナーである奥澤裕之氏。今では遠方からもお客様がやってくるという人気カフェがあるのは、茨城の県西部に位置する人口約5万人の城下町、結城市です。店づくりへのこだわりとともに、多くの人たちを惹きつけてやまないという人気の秘密に迫ってみました。

カフェの建物を玄関となる道路側から眺めたところ

一軒家がつくり出す、隔絶された特別な空間が心地よさの秘密。

南には広い庭と畑が広がり、自由に出入りできます

閑静な住宅街を進んでいくと、突如として現れる白壁の建物。アンティークな風合いの鉄の門扉をくぐると建物への入り口があり、その脇には木の板を並べた小路が続きます。その風景はヨーロッパのどこかの町のようで、まるで異国の地へ迷い込んだような錯覚に陥ってしまいそうです。ここは奥澤氏が2003年にオープンした『カフェ ラ ファミーユ』。広大な敷地には一軒家のカフェと別棟になった雑貨店があり、その間の小路を進んでいくと目の前には庭や畑が広がります。庭の向こう側には納屋があり、農家をイメージしているようです。少し変わっているのは、敷地の入り口に周囲を隔てるように一番大きな建物のカフェが建っていること。

「道路に対して建物が背を向けるように配置し、キッチンなどのバックヤードは全て道路側にあります。カフェの中に入ると、車などの動くものがなるべく見えないようにしたかったのです」と、奥澤氏がその意図を説明してくれました。確かにカフェの窓を通して見えるのは、木や庭などの緑、隣の雑貨店など敷地内の風景が中心。奥澤氏がつくり上げた世界観の中で心地よい時間を過ごすことができます。

もともとは、フランスのブルターニュ地方を旅した時に、町の風景が気に入ったので、そのイメージを取り入れたそうです。「農業をやっている家は敷地も広くて、その中にいくつもの建物が点在している。日本に似ているなって思ったんです。ブルターニュやノルマンディーというフランスの北西部は、東北地方の日本海側の町を彷彿とさせるちょっと切ない感じがあって、それが僕にはピンときた。ただ、そのままコピーしているわけではなく、他にも色々な要素を入れているので、表現するならヨーロッパの田舎町といったところでしょうか」と、店のアイデアについて語ります。

建物の設計については、奥澤氏が大まかなラフを描き、気に入ったインテリアや雰囲気が掲載された洋書などをコピーし、スクラップブックを制作。それを設計者が図面に落とし込んでデザインしたとのこと。家具や調度品は、奥澤氏が長年にわたって買い集めてきたものがメインで、足りないテーブルなどは自作によるものです。アンティークの椅子や照明、雑貨などは、国も年代もスタイルも様々。しかし、店内の雰囲気は見事に調和し、『カフェ ラ ファミーユ』ならではともいえる独特の空間を楽しませてくれます。

教会で使われていた椅子などが並ぶメインのフロア
天気のいい日には南側のテラス席も利用できます

様々な飲食店を経験して、理想のスタイルによるカフェを実現。

雑貨にいたるまで、全てにこだわり抜いたインテリア

結城市で生まれ育った奥澤氏が飲食業界で本格的に働き始めたのは、19歳の時にラーメン屋の立ち上げを任されたことがきっかけ。好きなように店をつくっていいと言われ、当時からインテリアに興味があったため、ショットバーのような雰囲気の中でラーメンと餃子を食べる店という斬新な店をつくりました。この店の経営を軌道にのせた後、和食やフランス料理、エスニック料理といった様々な店で料理の腕を磨きました。その後、漠然と自分の店を持ちたいという思いが募り、一般の人たちはどのような飲食店を望んでいるのかをリサーチする目的も兼ねて移動カフェを始めます。ちょうどその頃に、その後の人生を決定づける大きな出会いがありました。

その出会いとは、東京・白金台の閑静な住宅街にパトリス・ジュリアン氏がオープンさせたレストランの『サントル フランセ デザール』(現在は閉店)。ジュリアン氏といえば、 90年代の日本のカフェ文化やビストロブームの中心的な存在だった人物で、現在はライフスタイルデザイナーや料理人として活躍しています。レストランでありながらティールームやギャラリーを兼ね備えた店に、奥澤氏は大きな感銘を受けたと言います。

「その頃は店をやりたいといっても漠然としていて、自分でも何がやりたいのかよくわかっていませんでした。そんな時に、一軒家を改装し自分が好きな物だけを集めた空間で、彼がフランスで食べていた料理をアレンジして出すというスタイルに出合って、自分がやりたかったのはこういうことなのかもしれないと思ったのです」と、当時を振り返ります。

60年代のフォルクスワーゲン・バスを改装した移動カフェは、「ゆくゆくは一軒家のカフェをつくることを前提に、その魅力を体現したものにしました」と、奥澤氏。コーヒーの他にも、サンドウィッチやクレープ、ラップサンドなども提供し、当時のカフェブームにのって地元の結城を中心に全国各地で営業。そして、36歳の時に念願の一軒家カフェ『カフェ ラ ファミーユ』をオープンさせました。

20年以上前、奥澤氏の両親はここで養蚕をしていました

多くの人たちが集まるその場所は、かつては結城紬(ゆうきつむぎ)を支えた蚕畑。

店名の由来を聞くと、「この店の敷地は、もともとは両親のもので、昔は田んぼや蚕畑だったところ。ちょうどその頃、結婚する相手ができて、僕たちの店が上手くいったら、同じ敷地内で一緒にやろうよって、美容師の姉に話していたんですね。家族でひとつのものをつくるというのもいいなと思って、フランス語で家族を意味する名前をつけました」。その後、お姉さんは独立して、雑貨店の隣に同じスタイルの建物を建てて美容室を経営。全ての敷地を合わせると1200坪という広大な土地に、日本とは思えない空間が広がる様子に思わず圧倒されてしまいます。

結城市の特産物といえば、絹織物の最高峰と称される結城紬。中でもほとんどの工程が手作業で行われる本場の結城紬は、ユネスコ無形文化遺産に登録され、「糸つむぎ・絣くくり(かすりくくり)・地機織り(じばたおり)」の3つの製造工程は、日本の重要無形文化財に指定されています。実は、奥澤氏の実家は元兼業農家で、稲作づくりの他に蚕を育てて糸を紡いで織って、染めて反物にする工程を手がける紬業をしていたそうです。

「僕が子供の頃は、日常着として結城紬が着られていました。ところが、20年ほど前にはだいぶ廃れてしまって、その頃には僕の親も紬業を辞めていました。店をつくる時に、蚕畑を少し残そうと思ったのですが、ヨーロッパの町がコンセプトなのでちょっと厳しい。他には、例えばスーツをつくるにしても、幅に限りがあるのでつなぎ目の処理や加工という問題があって、紬の反物は扱うのが難しいのです」と、複雑な思いを語ってくれました。

こちらはお姉さんが経営する美容室の『コレット』
改装時にできたステージでは定期的にライヴを開催

リニューアルを経て、ライヴも楽しめる更に魅力的な場所に

バーカウンターがあり、お酒を楽しむこともできます

『カフェ ラ ファミーユ』は、東日本大震災が起きた2011年の夏に大掛かりな改装を実施。「当時、おうちカフェというか、家をカフェみたいにするスタイルが流行って、もともとうちの店もそんなコンセプトで始めたので、そろそろ違うことをしなきゃと思って。逆に家にないようなものをつくりました。きちんとしたライヴができるステージをつくって、お酒を中心に楽しめるようにバーカウンターも設置。庭の向こう側には納屋をつくりました」と、その理由を続けます。

ステージの周囲を華やかに彩る大掛かりな彫刻は、「ブルターニュの港町にある劇場が取り壊され、そのパーツを持ってきたというイメージでつくった」ものだそうです。ステージで行われるライヴは、当初ミュゼットやマニューシュ・スイング(ジプシー音楽とジャズを融合させたもの)など、店の雰囲気にぴったりのものが中心でした。現在ではブルターニュ地方にも根付いているケルト音楽をはじめ、様々なジャンルを得意とするアーティストが定期的にライヴを開催しています。

建物や空間の雰囲気ばかりが注目されがちですが、奥澤氏はフランス料理の経験もあるので、料理の味にも定評があります。地元のそば粉を使ったガレットや、ローズポーク(茨城の銘柄豚)のグリル、シャルキュトリー(ハムなどの自家製加工肉)の盛り合わせなど、どれもレストランレベルの美味しさ。目の前の畑から採ってくるカステルフランコ(チコリの一種)やタルティーボ(トレビスの一種)といった、自家栽培の野菜もふんだんに使われています。

そして、カフェの隣にあるのは奥澤氏の奥様が営んでいる雑貨店です。アメリカのジェネラルストアをイメージしたという店内を覗くと、欧米で買い付けてきたアンティーク雑貨やヴィンテージの服、店づくりに関わった日本の作家による陶器や木工品などがぎっしり。『カフェ ラ ファミーユ』のノスタルジックな雰囲気を更に体験させてくれる、大きな役割を担っています。

バーカウンターがあり、お酒を楽しむこともできます
自家栽培の野菜を添えたハムとチーズ、卵のガレット
ジェネラルストアでは服や雑貨などを扱っています

30年に向けて、様々な世代が集う店へと変化し続ける

10年以上にわたり、丁寧な店づくりを続けてきた奥澤氏

2003年にこのカフェをつくった時に、30年をかけて店を発展させていく計画を立てていたそうです。「最初は雑貨店や美容室、納屋、庭もなくて、当時の15年後の完成図が今の姿。オープンして13年目なので、予定よりも早く実現できたという印象です。ずっと同じだとお客様にも飽きられますし、建物もどんどん進化してお客様と一緒に成長できるのが、結城のような土地で店をやることの強みなのかなと思います」と、これまでの感想を語ってくれました。

30年に向けての取り組について聞いてみると、「15年で計画していたものが早く実現したということは、それだけ世の中の流れが早くなって、情報の量も増えているということだと思います。以前なら、例えば3つに枝分かれした選択肢があって、その時の状況に応じて適した道を選ぶのは比較的容易でした。ところが、これからは枝分かれする選択肢が更に増える気がします。その時に、正しい選択肢を見つけることができるかどうかが悩みどころです」とのこと。

昔のお客様が結婚して子供ができて、そこに彼らの両親が加わり、現在の『カフェ ラ ファミーユ』には三世代のお客様が通います。次に考えているのは、こうした流れを発展させて、子育てが一段落した奥様が旦那様を誘ってふたりだけで来るとか、大学生になった子供が友人と一緒に来るとか、様々な世代のお客様が混在しても違和感がない店づくり。あらゆる層の人たちにとって快適なカフェを目指す、奥澤氏のこれからの活動にぜひ注目したいところです。

今でも自らキッチンに入って料理をつくる奥澤氏

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