“アナログレストラン”はレストランジャーナリスト犬養裕美子が選ぶ「いい店」。作り手がその場できちんと料理をしていること。居心地のいい空間とサービス、かつ良心的な値段。つまり人の手、手間をかけた「アナログ」で「アナ場」な店。第10回は新宿「げんかい食堂」
犬養 裕美子
レストランジャーナリスト
新宿に住む人、働く人のための食堂
新宿の中心地には飲食店の数こそ多いけれど、どこの街でも見かけるチェーン店ばかり。おいしい、個性的、ここにしかないというアナログな店をみつけるのは難しい。
ところが、思わぬ場所に、私好みの店があったのだ。場所は靖国通り沿いに立つ3階建てのビル「水たき 玄海」の1階玄関を抜け、奥にあるガラスの扉、ここが目指す「げんかい食堂」だ。
本店の「玄海」は昭和3年創業、2階と3階合わせて14もの個室、最大200名を収容できる大広間まであり、接待や記念日に欠かせない、コース主体の料理屋だ。「げんかい食堂」は、水たきだけでなく、焼鳥や鶏を使った鶏料理をアラカルトで楽しめる店。
「“玄海”は改まった日の料理屋、“げんかい食堂”は新宿に住む人、働く人のための店です」と3代目の矢野賀也さん。その証拠に、ここではランチメニューが16時まで設けられている。親子丼、焼きとり重、あつあつ鶏飯が各1000円(税込)、生米から炊く釜めし御膳各2000円(税込)など、巷のランチ戦争に関係なく、ゆったりと時間をかけて楽しめる。その料理がまたひと工夫凝らされている。「基本は水たきのスープを活用してうちならではの味を創ること」という。
水たきスープをさりげなく取り入れた鶏料理
例えば親子丼。蓋を開けると様子が違う。普通は玉ネギ、鶏肉、を溶き卵でとじたものがご飯の上にのっている。ところがここでは鶏肉は別に味付けして炒める。そして水炊たきスープとすりおろした玉ネギ、溶き卵で炒めた鶏肉をサンドしてご飯にのせてある。
ちなみに、本館の水たきはコース昼5400円~、夜8640円~(税込)。ここでは水たき単品が1人前2360円で食べられる。使用しているのはどちらも福島の伊達鶏だが、本館は鶏を丸ごと味わえるように、さまざまな部位を使いきる(そのため細かい作業が増えるが味はより深味を増す)。一方食堂は同じ生産者組合の伊達鶏だが、大きさや部位が違うので、厳密にいえば味は違うが、その旨味はやはり「接待でなく、思う存分味わいたい」という気持ちになる濃厚さ。
最後にこの店で注目すべきはスタッフの接客。笑顔、あいさつ、料理の説明など、すべて楽しんで仕事にしている。そのリーダーがなんと24歳という若さの對馬光店長。彼の作り出す“げんき”もまたリピートしたくなる大きな理由のひとつだ。
げんかい食堂
住所:東京都新宿区新宿5-5-1玄海ビル1F
電話:03-3356-0036
定休日:第2月曜(祝日の場合は第1月曜)、年末年始
営業時間:11時~21時20分LO
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