韓国料理店で価値観がひっくり返った精神科医の話

連載

星野概念のめし場の処方箋【Vol.21〜】

2019/08/01

韓国料理店で価値観がひっくり返った精神科医の話

精神科医として総合病院に勤務する傍ら、文筆、音楽、ラジオなどマルチに働く星野概念が「食べに行く」という行為を通して、「こころ」に関する気づきをひも解く。

星野 概念

星野 概念

精神科医

当たり前だと思っていることは、本当に当たり前なのでしょうか。そう考えてみることは豊かなことだと思います。

こんにちは、精神科医の星野概念です。

この連載は、日常の食生活の中から僕が感じたり考えたりしたカウンセリング的要素をみなさんにご紹介するものです。

眠気と戦う日々。眠気が炭水化物と関連していることがいよいよ分かり、炭水化物を減らした食事を心がけた結果、サムギョプサルを食べる頻度が増えました。あるお店での食事のシメで、自分の中に小さな革命が起こり、それまでの価値観がひっくり返る経験をしました。今回はそんな話です。

  

【目次】
1.食事のシメについての新提案
2.自分の中での当たり前はひっくり返るかもしれない


1.食事のシメについての新提案

・のび太が羨ましい

4月に異動した職場にまだ慣れることができません。こんなに慣れることができないなんて、自分史上初めてのような気がします。

馴染めない職場で働いていると、やはり気を遣いますよね。常々気を遣い続けるというのは、常にちょっとした緊張状態にいるということですから、身体にはきっと負担がかかります。

  

緊張が続くと自律神経のバランスが偏るのであまりよく眠れないということも少なくありません。

のび太より素早く眠ると思っていた自分がのび太より遅くなるなんて!

  

日中は仕事に追われているので眠くなる隙間はないのですが、仕事がひと段落した夜が大変です。

仕事が終わり、ご飯を食べるとすぐにやってくる抗えない眠気。やらなければならないことがまだあるのに全然起きていられません。

そこで小一時間眠ってしまって、本格的な夜にはまたなかなか寝つけない。のび太はあんなにすぐ寝られるのに俺は……、なんて考え始めるとさらに眠れません。

  

・俺のオレキシン

炭水化物を摂ると眠くなる、というのは、ある種の都市伝説のようなものだと思っていました。

気のせいだろう、と。

でも、夕食の時も、炭水化物をしっかり摂るか摂らないかで眠気の具合は違うことが分かってきました。

やはり何かあるのだろうと思い調べてみたところ、どうやらオレキシンという脳内物質が関係しているらしいことが理解できました。

  

オレキシンは脳の食欲中枢で発見された物質ですが、これが活発に働いている時には覚醒活動が鈍っている時には睡眠に生体は偏るそうなのです。

俺の眠気は、俺のオレキシンが関連していて、お前の眠気は、お前のオレキシン(オマエキシンと言いたいが)が関連している。

  

オレキシンに関しては、「お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの」というジャイアニズムは通用しないのです。

  

だからのび太は眠れるのか!

・野生動物だって

野生動物の映像で、空腹時、狩りをし、食後に嘘みたいに眠くなる、といった映像を見たことがありませんか?

それもオレキシンが関係していて、満腹になるとオレキシンの活動性は低くなり眠くなるそうです。

さらに、オレキシンの活動性は血糖値にも関係していて、血糖値が低い時に活発になり、血糖値が高い時に鈍麻するということも知りました。

つまり、満腹になるだけでも眠くなるのに、さらに血糖値が大きく上昇すると、それに拍車がかかるということです。

血糖値を上げるのは糖分です。つまり炭水化物

  

なるほど、炭水化物を摂ると、満腹になる上に血糖値も上がります。そうなると、俺たちのオレキシンは活動性が下がり、眠くなるというわけです。

  
  

・そうとなったら炭水化物オフ

というわけで、ここ最近は夕食に炭水化物を摂ることをなるべく控えるようにしています。

だって、帰宅後、何もせず床で寝てしまって朝、といった日も少なくなかったので、そんなの改善させたいじゃないですか。

  

満腹でも眠くなることは分かったけど、せめて血糖値の影響を少なくしたい、というわけです。

とはいえ、満足感は欲しい。

日中頑張って仕事をしているんだから、夕食で満足感を追求することくらい当然じゃないか!

・肉と野菜

色々考えたのですが、頻繁に食べるようになったのは肉と野菜です。

もちろん魚は好きです。

魚も食べる。でも魚を食べると酒が欲しくなり、日本酒を飲むと酔ってコテンというのが古典的なお約束です。

なので肉と野菜。

炭水化物抜きで肉と野菜を摂る。

それが実現される料理、それは

サムギョプサル

  

です!

・熟成の方が好み

というわけで新大久保近辺に行くことがこれまでより増えました。

探したところ、どうやら熟成した豚肉でサムギョプサルが食べられるお店がありました。

燗酒好みの影響か、「熟成」という言葉に弱いワタクシ。さっそくそのお店に行ってみることに。お店の名前は

ヨプの王豚塩焼き

です。

謎の名前!

  

・熟成肉はやはりうまい!

店内はなんだか綺麗。

それまで、ごった煮感が漂うお店でサムギョプサルを食べることで、肉!火!そして食欲!みたいな化学反応を生むと思っていたので、綺麗なお店で食べるサムギョプサルはどんなだろうと思いましたが、綺麗なお店は、やっぱり普通に居心地が良いです。

肉が熟成された冷蔵庫が見えます。

運ばれてきた肉は、分厚い!

その厚さ、なんと3.5cm!(webを調べました)

  

その厚さの肉を、焼きながら店員さんが細かく切り分けてくれます。

そして、これまた綺麗に焼かれ、切り分けられ、小さな建築のように積まれた豚肉があっという間に出来上がります。

さらに驚くべきは、野菜取り放題。

サンチュだけでなく、数種類の葉野菜を食べたいだけ食べられます。

野菜で巻くだけでなく、ギョウジャニンニクと一緒に食べる、サムギョプサルの斬新な(自分にとって)食べ方も知り、大満足です。

・シメに困る

大満足!ではあるのですが……。

炭水化物をなるべく摂らないとなると、なんとなく食事がシマりません。

理由はよく分からなかったのですが、チヂミやビビンバを食べたくなってしまう。

でも、食べたら寝ちゃうんだぞ、気をつけろ、という理性的な自分が脳内で呼びかけてきます。

そんな時に、

焼きチーズ

  

という追加メニューが目につきました。

チーズ、焼いたら溶けちゃわない?

でもメニューには、溶けない焼きチーズと書かれています。

イリュージョン……?

  
  
  

興味深いし、炭水化物ではないので頼んでみました。

・まさかのシメ

店員さんがチーズも焼いてくれます。

表面は確かに焦げて少し溶けますが、本体は溶けない!

そして、結構このチーズも厚い。

これを、一緒に運ばれてきたハチミツを少しつけながら食べたり、肉と一緒に食べたり。

  

これまた絶品です。

しかも、チーズはお腹にたまるからか、炭水化物ではないのにシマった感じがする!

まぁハチミツは糖分なので、糖質的な満足感に影響しているかもしれませんが、結局チヂミ欲も、ビビンバ欲も、そして冷麺欲も自然におさまり、無事シメの満足感も味わうことができました。

  

これまで、「シメは炭水化物」と決め込んでいました。だから、自制して炭水化物を抜くなら我慢をしなければならないと考えていましたが、満足感というキーワードで考えれば、シメ=炭水化物ではないのですね。早とちり早とちり。

  

2.自分の中での当たり前はひっくり返るかもしれない

今回、僕はシメ=炭水化物という自分の中の当たり前がひっくり返る経験をしました。

  

かなり驚いたのですが、よく考えれば誰も食事のシメは炭水化物だ、と決めているわけではありません。

  

ただ、自分の経験や、社会的な雰囲気で当たり前だと思い込んでいるものって、思いの外多いのかもしれません。

常識というものは、本当に常識なのか。

もちろん、人に迷惑がかかったり、傷つけたりするようなことはいけません。

でも、そうではない部分で、自分で当たり前だと思って枠を決めてしまっていることって案外あるのだと思います。

でもこれがなかなか難しくて、常に常識を疑ってかかるというのも疲れるし、そもそもそれが当然だと思っていたら、一度疑ってみたところで、

  

やっぱりそれが当然だという結果に至ることも少なくないはず。

  

だから、今回のような、当たり前だと思っていたことが偶然ひっくり返る瞬間というのは貴重です。

そして、そういう体験は、当たり前なことが当たり前ではないのかもしれない、という実感に繋がるので、今後また新たな価値観を見つけられる礎になるかもしれません。

  

こういう、実はこういうのもアリなんだ!という体験は、人を新鮮な気分にさせます。

皆さんもぜひ探してみてください。

まずは、ヨプへ!!

  

文・構成:星野概念
イラスト:権田直博


星野概念(ほしのがいねん)

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権田直博(ごんだなおひろ)

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画家

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総合病院に勤務し、日々精神医療に従事する傍ら、執筆や音楽活動を行う。

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