アートな幻想古書店のスタッフが教える上野カルチャー散歩

特集

上野でアート&カルチャーな気分を高める過ごし方。

2019/07/10

アートな幻想古書店のスタッフが教える上野カルチャー散歩

天使や妖精、悪魔や魔術など、幻想的な絵画から広がった幻想図書を中心に扱う「古書ドリス」。博物館や美術館が建ち並ぶ上野恩賜公園のふもとで古書店を営む店主とスタッフに、上野のアート&カルチャーな一日をより充実させてくれるお気に入りのスポットを聞いた。

Yahoo!ライフマガジン編集部

Yahoo!ライフマガジン編集部

上野はアートの余韻も楽しめる街

店構えはごく普通の古本屋さん

JR鶯谷駅から徒歩数分の場所にある「古書ドリス」。その原点は、2006年に徳島県で開業したオンライン古書店で、2012年に東京・江東区森下、2017年に台東区根岸に移転し現在にいたる。店主の喜多義治さんによると、「アート系の蔵書が多いため、上野の美術館帰りらしきお客さんも多い」のだとか。

妖しい店構えかと思いきや……

Instagram(@doris_misako)では、スタッフの金野(こんの)実紗さんがドリスの日常を描くイラストを公開

ーー幻想図書ということで、もっと淫靡で妖しい雰囲気を想像していました。

古書ドリス店主・喜多義治(きた・よしはる)さん
古書ドリス店主・喜多義治(きた・よしはる)さん
「お客さんに『もっとゴシックでビザールな雰囲気だと思っていました』と言われることも(笑)」
幻想絵画や現代美術、小説、写真、建築など幅広いセレクト。店内はシンプルで整然としているが、店の奥に行くにしたがって本のセレクトに妖しさが増す
喜多義治さん
喜多義治さん
「ですが、お客さんがドリスに来るのは刺激が得られる本と出会うため。幻想的な世界観は本のセレクトや並べ方で生み出すようにしているので、幅広いジャンルの本を置いても違和感がないよう内装は“フツー”でいいと思ったんです」
店主の喜多さんもスタッフの金野さんもいたって普通の優しい方々です

ーー上野恩賜公園に近い根岸にお店を出したきっかけを教えてください。

喜多義治さん
喜多義治さん
「上野はアート好きなら来る機会の多い場所ですよね。でも、絵を見た帰りに立ち寄れる古本屋って意外と少ないと思い、上野でのアート鑑賞の余韻とともに立ち寄れるこの場所を選びました」
古書ドリスの周辺には散歩で寄りたくなる魅力的なスポットが多い。「昔はちぎったノートに描いていましたが、最近はマンガ用の紙を使っています」(イラストの作者・スタッフ金野さん)

ーー金野(こんの)さんがドリスで表現したいものは?

金野実紗さん
金野実紗さん
「昔のファッションやダークなアートが大好きですが、生まれ育った岩手では好みの本と出会いにくかった。人生初の古書店だった森下時代のドリスは品ぞろえがどストライク過ぎて、その場で『働かせてください』と口走ってしまいました。だからイケイケな店にしたいですね」

\“金野棚”も必見/

「ハートにズッキュンとくるかわいい書籍を集めてみました。選考基準は主に表紙のカッコよさです」(金野さん)

ーーイケイケ?

金野実紗さん
金野実紗さん
「この店には男女を問わず心をドキドキさせてくれる、ファッショナブルでイケてるハードな本がたくさんある。自分が感じた『ヤバイ』『かっこいい』という衝撃をお客さんにも共有してほしくて、空いていた棚で『激しい女のためのコーナー』を作ったんです」
金野さんのイチオシは、アラーキーこと荒木経惟氏が撮影した鈴木いづみの写真集「IZUMI, this bad girl.」。棚のセレクトは日々更新される

ーー売れゆきは?

金野実紗さん
金野実紗さん
「ぼちぼちです(笑)。古書の知識は働きながら勉強中ですが、『私こういうのも好き!』っていう出会いの点と点が線につながって、自分の世界が広がっていく面白さを感じています」

\古書を買ったらここで休憩/
「デン」

古書ドリスの真向かいにある純喫茶の名店「デン」。(営業時間=月~日、祝日、祝前日9:00~18:30 、料理LO18:00。不定休)

ーーみなさん本を買った後はどうしているのでしょうか?

喜多義治さん
喜多義治さん
「ドリスの向かいにある喫茶店の『デン』に寄る方が多いです」

ーー出会った古書を喫茶店でパラパラとめくるのは楽しいものです。

金野実紗さん
金野実紗さん
「くり抜いたパンにたっぷりグラタンを入れた『グラパン』が名物ですが、ドリスで買ってくれた本と一緒に写真を撮ってSNSでシェアしてくださる方をよく見かけます」
人気のメニューは、「グラパンmix」(950円)とクリームソーダ(600円)
喜多義治さん
喜多義治さん
上野のアート鑑賞に『デン』とドリスを組み込んでくださる方は多いです。自分は出勤前にモーニングを食べたり、お店が暇な時はスマホでできる作業をしにいったりすることも」

\上野散歩の起点は鶯谷駅南口/

JR鶯谷駅南口周辺。写真の奥が上野恩賜公園なので空が広くて気持ちがいい

ーードリス流の上野エリアの楽しみ方は?

喜喜多義治さん
喜喜多義治さん
「お店から上野のお山に向かうとき、公園の北側にある鶯谷駅の南口から出発するコースも気持ちいいですよ」
駅前を東京国立博物館に沿って進むと、寛永寺輪王殿など寺町の静かな小道につながる
喜多義治さん
喜多義治さん
「上野駅からのルートより人が少なく静かだし、それほど遠回りにはなりません。目的地次第で使い分けるといいかもしれないですね」
小道の突き当りが上野恩賜公園。国立科学博物館のシロナガスクジラの像が出現する。ここまで駅から徒歩8分ほど

ーー美術館や博物館にはよく行かれますか?

喜多義治さん
喜多義治さん
「目的を決めて短時間で集中して鑑賞することが多いです。例えば、面白そうな韓国の美術本が入荷したから、東京国立博物館の東洋館に見に行くという具合です」

ーー知識欲旺盛な読書家らしい楽しみ方ですね。

喜多義治さん
喜多義治さん
「散歩や食事をしながらのんびりぶらつく、という優雅さはないです。でも、好奇心が湧いたらすぐに本物を見られるのは恵まれていますね」

\常設展でお気に入りを探す/
「国立西洋美術館」

世界遺産にも登録された国立西洋美術館。(写真提供:国立西洋美術館)
喜多義治さん
喜多義治さん
「短い時間なら、常設展示のお気に入りをピンポイントで鑑賞するのも充実した楽しみ方だと思います。自分は国立西洋美術館の新館2階にある、版画素描展示室がお気に入りです」
国立西洋美術館の新館2階にある版画素描展示室(テーマなどによって展示の内容は写真とは異なります)。写真提供:国立西洋美術館
喜多義治さん
喜多義治さん
「デンマークの画家・ヴィルヘルム・ハンマースホイが大好きなんですが、代表作の『ピアノを弾く妻イーダのいる室内』が常設展示室1階に展示されています。常設展も時期によって展示替えがありますが、その1枚だけじっくり見に行くこともあります」

\現代アートを谷中でチェック/
「SCAI THE BATHHOUSE(スカイザバスハウス)」

上野恩賜公園から徒歩で8分ほどの「SCAI THE BATHHOUSE(スカイザバスハウス)」(撮影:上野則宏 協力:SCAI THE BATHHOUSE)
喜多義治さん
喜多義治さん
「現代アートが好きなら、約200年の歴史を持つ銭湯『柏湯』を改装したギャラリーの『スカイザバスハウス』にも立ち寄ってほしいですね」

ーーミシュラン・グリーンガイド・ジャポンに「寄り道する価値がある」として紹介されたこともあります。

喜多義治さん
喜多義治さん
「先日は横尾忠則さんの個展を行うなど、見応えのある企画が多い。国立の大きな美術館だけでなく、こういったギャラリーも注目したいです」

音楽が心地よい自家焙煎コーヒーの店
「CAFE INCUS」(カフェ インカス)

自家焙煎コーヒーの店「CAFE INCUS(カフェ インカス)」(台東区上野5-5-2松原ビル1階、営業時間=7:00〜19:00、日祝9:00〜18:00、土曜定休)
喜多義治さん
喜多義治さん
「ちょっと気分を変えたい時に寄るのが『CAFE INCUS(カフェ インカス)』。山手線の線路に沿ってアメ横を抜けると、静かな街角に忽然と現れる自家焙煎コーヒーのお店で、本格的なアンプやスピーカーで鳴らすアナログ・レコードのジャズがすごく好みなんです」
「店名の由来はイギリスのレーベル『インカス・レコード』ですが、ジャズはあくまでBGMなので、音楽談義は期待しないでください(笑)」と話す、バリスタ歴20年のマスター・中野創一さんと奥様の久美子さん

ーーいわゆるジャズ喫茶ですか?

喜多義治さん
喜多義治さん
「そうではないようです。ですが、前衛的なフリージャズが聴こえていたので曲名を聞いたところ、丁寧に曲名を教えてくれました」

\珠玉の一杯をどうぞ/

SCAA(アメリカスペシャルティコーヒー協会)から高い評価を受けたコーヒー豆を自家焙煎。サイフォンで抽出され、たっぷりのカップに注がれる『ブレンド』(600円)は、ブラジル産とグアテマラ産の豆を使用

ーー上野は純喫茶の聖地とも言えますがインカスのようなクールなお店もあるんですね。

喜多義治さん
喜多義治さん
「純喫茶も大好きですし、こういったクールでうまいコーヒーを飲ませてくれる店と使い分けできるのが上野のいいところですね」

本場の味を楽しむ
「晴々飯店」(せいせいはんてん)

上野恩賜公園とは駅を挟んで反対側にある「晴々飯店」(台東区上野7-8-16、営業時間=11:00〜15:00、17:00〜23:00、無休※臨時休業日あり)
金野実紗さん
金野実紗さん
「上野の美術館には世界中の名品が集まりますが、中華料理やビリヤニなど、いろいろな国の料理の名店が多い気がします。最近のお気に入りは、本格的な四川料理が食べられる『晴々飯店(せいせいはんてん)』です」
「よだれ鶏定食」は、ライス(おかわり可)、スープ、サラダ、杏仁豆腐がついて780円とリーズナブル(ランチ11:00〜15:00)
金野実紗さん
金野実紗さん
「プレミアム麻婆豆腐(1080円)が有名ですが、蒸し鶏にラー油を効かせた辛味ダレを掛けた『よだれ鶏』のランチが最高。日本人向けにアレンジされていない本場の味つけが楽しめます」

「開館時間を延長する美術館や博物館が増えたので、ドリスも金曜日は21時まで営業しています。アート鑑賞の帰りや上野散歩のついでに寄ってもらえると嬉しいですね」と話す喜多義治さん。アートや音楽をはじめ、純喫茶やエスニック料理など、一日では回りきれないほどの魅力的なスポットばかりなので、美術館や博物館を満喫した後も上野の散歩を楽しみたい。

「国立西洋美術館」
住所/東京都台東区上野公園7-7
時間/9:30~17:30、金・土9:30~20:00 ※入館は閉館の30分前まで ※その他、時間延長期間あり(詳細はHP参照)
休館日/月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始 ※その他、臨時休館日あり(詳細はHP参照)
2019年9月23日(月・祝)まで新館展示室2階では、フィンランドの女性芸術家を包括的に紹介する日本で初めての試みとなる展覧会「モダン・ウーマン―フィンランド美術を彩った女性芸術家たち」を開催中

「SCAI THE BATHHOUSE(スカイザバスハウス)」
台東区谷中 6-1-23
開廊時間:12:00〜18:00
休廊:日・月・祝日 ※展示替えの間は休廊


取材ノート/古書ドリスさんでの取材終了後、書棚を端から端まで眺めたところ前から読みたかった本が山程見つかりました。人の手を経て偶然に出会う古書には、新刊本とはひと味違う魅力があります。

構成・取材・文・撮影=杉山元洋

\もっと上野を楽しみたい/

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