触れあい体験と自社製造の乳製品が人気!埼玉県南部の観光牧場

2019/07/17

触れあい体験と自社製造の乳製品が人気!埼玉県南部の観光牧場

昭和20年に創業した農事組合法人榎本牧場は、埼玉県南部では唯一の観光牧場だ。牛の搾乳やブラッシングなどの体験ができ、自社で作ったアイスクリームやヨーグルトも販売。多くの人が訪れる人気の理由について、代表理事の榎本求(もとむ)さんに聞いた。

中広

中広

乳牛飼育に不向きの土地でたった1頭から始めた牧場

牛を飼い育て、牛乳や肉を生産する牧場が、埼玉県内にはおよそ170ある。そのほとんどは観光化されておらず、牛を見て触れるのは、県南部になるとたった一つしかない。それが畔吉(あぜよし)にある農事組合法人榎本牧場だ。

榎本牧場の看板
榎本求さん

榎本求さん

農事組合法人榎本牧場 代表理事

戦後の混乱がおさまらないなか、榎本さんの父は1頭の乳牛を大切に世話して搾乳し、種付けをしては、少しずつ頭数を増やしたのだという。

埼玉県で牧場を営むのは容易ではない。乳牛のホルスタインやジャージー種はヨーロッパ原産であり、夏の暑さの厳しい埼玉県では牛に負担がかかるためだ。また都市部に近いほど、匂いや衛生管理などの問題が発生する。榎本さんも、「都市近郊の酪農家は、周囲への公害問題で辞めていく人が多いんです」と話す。

乳牛への暑熱対策に同牧場は、ミストをまく機械と大型の扇風機を導入して対策をした。ミストは、水が蒸発する際の気化熱で牛の体を冷やすため。扇風機は、風を送るだけでなく、匂いが牛舎にこもるのを解消するのにも役立った。牧場の立地は、すぐ西側に荒川が流れ、住宅密集地でないのも幸いした。

牛を育てるにはさらに、牛の主食の牧草を育てるための、広大な土地も必要だ。同牧場の敷地は約1万平方メートル(約3千坪)。これとは別に、荒川河川敷の17ヘクタール(約5万1千坪)を国土交通省から借り受け、ここで牧草を育てている。73年間にわたり牧場経営を続けてこられたのは、この広さの土地を確保できたからともいえる。

榎本牧場の乳牛たち

搾乳体験のアイデアが観光牧場化を推進

世話に勤しんだかいがあり同牧場の乳牛の数は、平成4年頃には130頭ほどになった。しかし今度は増えすぎて、2棟の牛舎からあふれ、屋外で飼育するまでになってしまった。立地的に建物の増築も難しく、榎本さんは事業の頭打ち状態に悩んでいた。

あるとき、息子の貴(たかし)さんが、全国の酪農家の集まる研修会に出席、搾乳体験のアイデアを持ち帰ってきた。これなら手洗い場とトイレの増築だけで済み、失敗したときのリスクも少ない。すぐにやってみようとなった。

この搾乳体験は、担当者が熱心に牛の説明をする、搾乳も満足いくまでさせてくれる。なにより都心から近いので気軽に出かけられると人気を集め、2年目で何社もの大手新聞社から取材を受けるまでになった。記事はさらに人を呼び、来訪者からお土産品はないのか、バーベキューはできないかとの声が寄せられるようになっていく。

「都市部に近い場所で牧場経営は厳しいと思っていましたが、うちの一番の強みになりました」と、榎本さんは笑顔を見せた。

来訪者が増えれば、思わぬ場面に遭遇する機会も増える。ときには牛の出産に立ち会った人もいて、「とても感動しました」と、興奮した面持ちで話しかけてきたという。搾乳体験の導入は、同牧場が来訪者とコミュニケーションをとるきっかけとなり、観光牧場化への転進をもたらしていった。

牧場体験メニューの一例

【搾乳体験】牛の乳首の根元を強く握ってから、上から下へ向かって指を握っていくと勢いよく乳が出る。出たばかりの乳は牛の体温で温かい
【ブラッシング】牛の体についた泥やふんを落としたあと、丁寧にブラシをかける。ブラッシングされると牛も喜ぶと榎本さんは話す
【バター作り】ペットボトルに入れた牛乳を10分ほど振って成分を分離させ、バターを作る。できたバターはその場でクラッカーにつけて味わえる
【勉強会】バター作りの合間に、牛についての簡単な勉強会を行う。牧場の仕事や牛の体のしくみなどをわかりやすく説明する

全国の酪農家に先駆けて6次産業化に取り組む

同牧場では現在、体験メニューのほかにバーベキュー場、自社加工品のアイスクリーム(以下、アイス)とヨーグルトを開発、販売している。アイスは国が6次産業化を推進するより以前の、平成12年からスタートさせた。

「その頃、全国の酪農組織の立ち上げ話があり、参加したんです。そこで先進的な事業に取り組んでいる牧場と出会い、アイス作りを勧められました」

製造機械の導入や保健所の許可を得る方法などアドバイスを受けながら、何度も試作した。しかし、どうしても機械メーカーの見本と同じ味にならない。8月下旬に発売を控えるも、7月中旬でもまだ味が決まらなかった。試行錯誤の連続に、スタッフが涙を見せる場面もあったという。

最終的に、自分たちの納得した味で売り出そうと決め、10種類の販売にこぎつけた。季節はすぐに秋になり、手ごたえのないまま年を越した。しかし4、5月に驚くほど売れ、3年後には製造が間に合わないまでになった。

榎本牧場のオリジナルアイスクリームとシャーベットはシングルコーン324円~
カップ324円(140ml)も販売

平成26年には新たな商品としてヨーグルトの販売を開始。「せっかく新鮮な牛乳がたくさんあるのだから、これを生かしたものをと考え、ヨーグルトに決めました」と、榎本さん。こちらも瞬く間に人気商品となった。

オリジナルヨーグルトと飲むヨーグルト。左から、226円(140ml )、388円(300g)、972円(750ml)

しかし、いくら味にこだわった商品でも、ただ物を置いただけでは売れないと榎本さんはいう。同牧場では、牛を間近に見たり触れたり、飼育されている様子を見られる。その牛の乳が、目の前に置かれたアイスやヨーグルトになっているのは、驚きと感動を生む。心を動かす体験が背景にあればこそ売れるというのが、経験から生まれた持論だ。

牧場のあちこちに、牛の体や一生についてのパネルをかけているのも、牛への理解を深め、親しんでほしいという思いがあるのだ。スタッフや来場者に可愛がられて育つ牛たちからは、今日もおいしいアイスやヨーグルトが作られている。

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中広は岐阜に本社を置く広告会社です。 地元の情報を各戸配布のハッピーメディア(R)『地域みっちゃく生活情報誌(R)』のブランドで発信しています。

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