“アナログレストラン”はレストランジャーナリスト犬養裕美子が選ぶ「いい店」。作り手がその場できちんと料理をしていること。小さくても居心地のいい空間とサービス、かつ良心的な値段。つまり人の手、手間をかけた「アナログ」で「アナ場」な店。第73回は緑が丘「コルニーチェ」。
犬養 裕美子
レストランジャーナリスト
落ち着いたダイニングは、時が作り上げた貴重な空間
久し振りにお店の前を通ったので、中をのぞいてみた。「お久しぶりですね!」マダムの京玲子さんがとびきり元気な声で迎えてくれた。「もう、ずいぶん昔ですね。こちらに取材に伺ったの」「はい、8年前です」。マダムの記憶力はバツグンだ。
打てば響く、反応の速さが気持ちいい。
緑ケ丘「コルニーチェ」はマダムのさわやかな接客と、京大輔シェフのシンプルで王道をいく料理を武器に、オープンして18年。この街に根差した特別な店だ。2019年の春、そんな人気店に移転話が持ち上がった。新しくできる駅ビルに入らないかというのだ。常連客からは様々な反応が出たという。
「ここがなくなったら、どこに行けばいいんだ?」と怒る人もいれば、「ここで週1回のランチを楽しみにしていたのに」と悲しむ人もいる。結局、その話はまとまらず、長年のファンはホッと胸をなでおろした。「うちのような小さな店を思ってくださる方が大勢いることがわかって、あらためて常連さんの思いに感謝しました」。
自宅のようにリラックスできるダイニングはテーブルの間隔も広く、都心の店にはない贅沢な空間を味わえる。料理も量の調整から、コースのアレンジなど、できる限りの要望に応えてくれる。そして京シェフのスペシャリテといえば、前菜では「無農薬はっぱの生ハムサラダ」。
サラダに生ハムをのせた実にシンプルな一皿だが、その完成度は極めて高い。緑の葉っぱそれぞれの苦味、甘みを生ハムの塩味と脂が引き締め、まろやかに仕上がっている。こんなにていねいなサラダ、家では作れない。
「ペスカトーレのリングイネ」はテレビで紹介されて大ブレイクした一品。新鮮な魚介を7~8種使うソースの贅沢なパスタだ。季節の素材を取り入れるので、メニューは2か月ごとに替わる。このおいしさを常連客だけのものにしておくのはもったいない。あなたも少し足をのばして味わってみてほしい。きっと常連客になりたくなるはず!
ランチ2500円、4000円、5000円、夜は前菜1400円〜、パスタ1400円〜、メイン2200円〜、シェフおまかせコース6000円(税・サ込)