犬養裕美子のお墨付き!うどんではなく寒天屋?「讃岐屋」

犬養裕美子のお墨付き!うどんではなく寒天屋?「讃岐屋」

2019/08/16

“アナログレストラン”はレストランジャーナリスト犬養裕美子が選ぶ「いい店」。作り手がその場できちんと料理をしていること。小さくても居心地のいい空間とサービス、かつ良心的な値段。つまり人の手、手間をかけた「アナログ」で「アナ場」な店。第71回は落合「讃岐屋」。

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

日本人なら知っておきたい海の味寒天のおいしさって何?

桜が散ろうという頃だった。小滝橋の交差点から神田川に沿った遊歩道に入り込んだら、行列に並ぶ人が見えた。「ラーメン屋かな?」と思って近づくと看板には「讃岐屋」とある。「うどん屋さん?」 しかし看板の脇に「寒天工房」と書かれている。「え、甘味屋なんだ。それも寒天の専門店!」。ここで作っているのは、貴重な天然素材、伊豆産の寒天、求肥、黒蜜。すべてあんみつ周辺の地味なアイテムだが、それだけに本物を守る心意気には並々ならぬものが伝わってきた。私も餡子ものは大好きだが、寒天目線の甘味って考えたことはなかった。さっそくここのあんみつを食べてみたら、その違いにびっくり。寒天は弾力があり、ちゃんと海藻の香りがするのだ。ホンモノって別物!

こし餡あんみつ486円 はじめての人は、これか小倉餡あんみつ486円がおすすめ。大ぶりの寒天、求肥餅、黒蜜、餡が実にバランスよく楽しめる

創業は大正3年。初代の岡照一氏は、もちろん四国香川県の出身。約120年前に上京し、子供のころから食べてきたところてんのおいしさを東京の人にも知ってほしいと、雑司が谷に店を構えた。時代とともに店も大きくなり、高田馬場駅近くに移転。先々代がなくなる昭和62年には、卸し中心になり、今の場所に移転してきたという

ところてん432円。初代が香川県から上京した折に残念に思っていたのがところてん。子供の頃から馴れ親しんだ繊細な食感は東京のところてんには見当たらず、ついに自分で店を出すまでに。「讃岐屋」の原点でもある

「以前は23区内にも同業者が40店ほどありましたが、今や4、5店しか残っていない。寒天は、天然の天草から作るんですが、この数年捕れなくなってきているのと同時に、値段も上がっている。以前の2倍近くになっているんです」とは3代目の福原豪さん。これでは続けていくこと自体が難しい。

「どの世界も後継者不足が問題になっていますが、うちはそれどころではありません。若い人は寒天、求肥、黒蜜自体を知らない。まず、食べて頂ける場所を整えようと、2年前に飲食のスペースを新しくしたんです」(福原豪さん)

年配のお客さんは、おばあちゃんこと、岡 範子さん(79歳)に会うのを楽しみにくる。「元気だった?」と始まり、「お互い元気で頑張りましょうね」と声をかける

ここで使う寒天の原料は、伊豆でとれる天草。これを昔ながらの蒸し煮にする。「毎日、同じように作っていても、仕上がりが違う。難しいんです」。あんみつや豆寒に使う寒天は通常10ミリ角が多いが、ここでは20ミリ角と2倍の大きさにスペースる。「こうすると食感の違いも風味もはっきりわかります。逆にところてんは、普通10ミリの幅ですが、うちは切れることはない」。添加物がたっぷり使われている商品とは、味も食感もまったく違う

季節限定のあんみつ486円/白餡の中に、季節のフルーツをカットして入れてある。春は桜、夏はアンズ、抹茶、秋はかぼちゃ、レモンなど

求肥も同様。「餅のかわりに添えられたニセモノ」と思っている人も多いと思うが、本来の求肥は、まさしくもち米だけで作られる”もっちもち”の食感。黒蜜は、黒砂糖、上白糖、水飴を使い、すべて自然の素材だ。コクがあるのに、しつこくない。すべてのパツーが嫌みのない、すっきりした味。これこそが江戸時代から続く、庶民のおやつなのだろう。

み焦炙り5本盛り432円/埼玉の醤油屋”金笛醤油”とのコラボ商品。炙りたては醤油の香りが香ばしく餅もやわらかい。店内のみのメニュー。13:00~なくなり次第終了

まずは、あんみつか、豆かんてんを食べて欲しい。食べ終えた後の心地よさ。寒天、黒蜜、あん、豆、求肥のどれもが、バランスよく輪になっている。わざわざここまで来たかいがあった!と思うはず。その感激はお持ち帰りで二度味わえる!

「寒天をおいしいと思って頂ければ、うれしい」(福原豪さん)

モダン和菓子は注目されるけど、昔の和菓子は見向きもされない。でも、本当はこんな地味な形で、本物を伝えている人たちがいる。私たちができることは、きちんと味わうこと。そこから本物が残っていくのだと思う。寒天、おいしいから!

3代目店主・福原豪さん。1964年、東京都生まれ。大手建築会社勤務していたが、妻の実家(「讃岐屋」)の2代目が体調不良により、家業を引き継ぐ。未経験の分野に飛び込み、30年かけて一から経営を立てなおす
店頭販売は11:00から17:00まで。近所の人は今日のおやつに、遠方からの人は手土産に貝に訪れる。あんみつ、豆かんなどの主要商品は。紀ノ国屋、クイーンズ伊勢丹などでも購入できる
カフェスペースは2年前にリニューアルしてシンプルに。ここでしか食べられないメニューや季節ものなどがある
神田川沿いの遊歩道に面した静かな場所。桜の季節に限らず、散歩がてら、足をのばす長年のファンも多い

この記事を書いたライター情報

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

東京を中心に地方や海外の食文化、レストラン事情を最前線で取材。ファッション誌から専門誌まで数多くの雑誌で連載を持ち、その店の良さ、時代性をわかりやすく解説。特に新しい店の評価に対する読者の信頼は厚い。食に関わる講演・審査員など多数。農林水産省顕彰制度・料理マスターズ認定委員。

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