“アナログレストラン”はレストランジャーナリスト犬養裕美子が選ぶ「いい店」。作り手がその場できちんと料理をしていること。小さくても居心地のいい空間とサービス、かつ良心的な値段。つまり人の手、手間をかけた「アナログ」で「アナ場」な店。第74回は雑司が谷「熱烈 上海食堂」。
犬養 裕美子
レストランジャーナリスト
食いしん坊を挑発するオールラウンドなメニュー
目白通りと明治通りが交差する千登世橋。どこかノスタルジックな「熱烈 上海食堂」のネオンサインが以前から気になっていた。思い切って入って見たらなんと満席。近所の店で聞いてみると、「リーズナブル」「あっさりしておいしい」「担々麺が絶品」とすこぶる評判がいい。そこで今度は店の口開けに伺うとすでに何組か座っていたが、無事にテーブル席に案内された。
メニューを開いて驚ろく。「数が多い!」「どれもおいしそう!」「迷う~!」早く食べたいのだが、見れば見るほど決められない。グランドメニューはもちろん、季節の素材を使った「おすすめメニュー」にも冷菜、温菜、鶏、豚、牛など、見逃せない料理が目白推し。
散々迷ったあげく、上海料理では外せない肉料理。皮つき豚バラ肉の角煮、棗(なつめ)と青菜の付け合わせ980円。上海流真鯛のお刺身サラダ1200円をとりあえず決めた。料理が出る前にお通しとして登場するのが、小鉢のお粥。毎日、2時間煮込むこのお粥は、食事の前に胃を温めてもあろうという心使い。
料理を決めて飲み始めて、改めて周囲を見回して面白いことに気付いた。お母さんと小さな子供の親子客が多いのだ。あれっと思ったのは子供の前に上海風鯛のお刺身サラダが運ばれてくると、お姉ちゃんは「コレ、コレ。コレがおいしいのよね~。もう、たまらない!」と食レポを始めた。妹はじっとお姉ちゃんが食べ飽きるのを待っている。ようやく自分の番になると、ひとり黙々と食べ始める姿がいじらしい。
「親子で来て下さる方、多いですよ。大人顔負けの感想を言ってくれるお子様も少なくないです」と笑う店主の多田光浩さん。
15年前にオープンしてから、着実に地域に愛されてきた町の「中華食堂」。誰もが「おいしい」という理由は、塩を控え、後味がとてもあっさりしているから。「できるだけ旨味調味料も使わないようにしています」。素材本来の味を引き出すために、旨味調味料には頼らない。また、頼らずに作るため手間暇を惜しまない。その積み重ねが多くのファンに支持されているのだろう。
鮑、フカヒレなどの高級素材料理でも一皿3000円以内。人気の点心、小籠包1個180円は、2個から注文可能。紹興酒はボトル売りがあるが、フルボトルに半量だけ入れて出すというユニークなサービス。一人客からグループまで幅広く受け入れてくれる懐の深さも頼りになる。私の大好きな上海家庭料理、中でも野菜を使った料理が並んでいるのがウレシイ。これから通うのが楽しみ!