大人のためのカウンターフレンチ、代官山「ル・サンプル」

大人のためのカウンターフレンチ、代官山「ル・サンプル」

2019/08/29

“アナログレストラン”はレストランジャーナリスト犬養裕美子が選ぶ「いい店」。作り手がその場できちんと料理をしていること。小さくても居心地のいい空間とサービス、かつ良心的な値段。つまり人の手、手間をかけた「アナログ」で「アナ場」な店。第72回は代官山「ル・サンプル」。

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

カウンター7席はいい時間を過ごしたい大人のため

扉を開けると店内のすべてが見渡せる。カウンター7席のみの小さな空間だが、ここに身を置くとなんとも居心地がいい。目の前でオーナーシェフの菊池晃一郎さんが料理を作り、その傍らでマダムの章代さんがサービスを担当する。店内には静かなジャスが流れているが、決して気取った店ではない。

シャイな菊池シェフがお客と対面するカウンターとは! 「でも、だいぶ慣れました。いろいろな方がお見えになるので楽しいです」

実は菊池シェフ、若い頃ロサンジェルスで仕事をしていた。その時、菊地シェフの料理を気に入ったのが、ジャズピアニストの巨匠ジョー・サンプル。二人は客とシェフというよりも、互いに尊敬しあう友人として親交を深めた。2007年に帰国した菊池シェフが、広尾に店を構えた時、サンプル氏の名前を店名にしたのも、友情の証。日本公演の折には必ず菊池シェフの店に足を運んでくれたという。事情があって広尾をいったんクローズして再びアメリカに戻ったが、2016年ようやく代官山でレストランをオープン。今度は思い切ってカウンター席のみの店にした。

「40件ぐらい物件を見ましたが、ここは一度で気に入りました。車が行きかう通りから一歩入った静かな場所ですし、周囲には住宅も多い」。と、シャイなシェフと明るくかわいらしいマダム

ふたりとも一歩引いた(それでも隅々まで気を配っている)距離感が絶妙。私は最近、レストランの中で大声で話す客が多くなったような気がする。かつては大声の主はオジサンと決まっていたものが、今は女性が多い。大声の客が一人でもいると、他のテーブルも競うように大声となり、店全体がボリュームマックス。ところがここでは誰もがゆったり、穏やかに話す。それはシェフとマダムの雰囲気そのもの。お店って、つくづくお客と店の両方で作られるものだなと思う。

前菜は2皿同時に出てくる。大山鶏のガランティーヌ、ビンチョウマグロのピスタチオ風味のソーセージ、東京湾でとれたホンビノス貝(ハマグリに似た貝)のグラタン
魚料理も野菜を別皿に添えて。「最近、山梨県甲府市で美味しい野菜に出会ってすごく感激しました。茹でただけのジャガイモがとびきりおいしい。これじゃ料理人の出番がなくなってしまう!」(菊池シェフ)

料理はフランス料理を基本に、野菜をたっぷり組みあわせているのが特徴。コースは5皿で6480円。前菜は2皿が出でてくる。次は魚料理だが、これも野菜と魚が別皿で。そして肉料理。最後にデザート。リーズナブルな値段で野菜をたっぷり取れるのもうれしい。

「一皿のポーションを小さく、大きくなどのオーダーにもできる範囲でお受けしています」(菊池シェフ)

デザートプレート(1人前)桜桃のコンポート。ピスタチオのケーキ、小さな器に入ったピスタチオのブリュレ、ブラッドオレンジのアガー寄せ(巨峰、シャインマスカット)。フルーツたっぷり

コースが多いと感じる日はアラカルトもOK。前菜1200円~、メイン2700円~。「疲れをいやし、元気になる」というのがレストランの語源だが、この距離感だからこそ、カスタムメイドも可能になるのだろう。心穏やかな時間を過ごせるレストランは私たちの宝ものだ。

ル・サンプルの外観。煉瓦造りが目印

この記事を書いたライター情報

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

東京を中心に地方や海外の食文化、レストラン事情を最前線で取材。ファッション誌から専門誌まで数多くの雑誌で連載を持ち、その店の良さ、時代性をわかりやすく解説。特に新しい店の評価に対する読者の信頼は厚い。食に関わる講演・審査員など多数。農林水産省顕彰制度・料理マスターズ認定委員。

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