伊勢志摩サミットで贈答品に採用された組子細工・指勘建具工芸

伊勢志摩サミットで贈答品に採用された組子細工・指勘建具工芸

2019/08/27

三重県三重郡菰野町で、 組子の技術を継承する指勘建具(さしかんたてぐ)工芸。平成28年の伊勢志摩サミットでは、組子の技術を駆使した文箱が贈答品に採用されました。父・之男さんのもとで技術を磨くのは、3代目の黒田裕次さん。大学で学んだ知識を生かし、経営やPRにも力を入れています。

中広

中広

組子細工と光が幻想的な雰囲気を演出

菰野町小島にある、木造の建物。「四日市地域まちかど博物館」という緑色のステッカーが貼られた玄関をくぐると、組子が織り成す幻想的な光景が目に飛び込んできます。案内されたのは、組子建具で四方を囲んだ和室。外からの自然光を受けた美しい影が差し込んでいました。鮮やかな色が特徴の「花火」や木本来の色だけで表現した「姫路城」は、黒田之男さんが手がけた組子。「蓮華」には、千本格子の中に幾何学模様をはめ込んでいます。独自の技法を用いているのは、「光輪」。組子では表現が難しいとされる円が特徴です。

指勘建具工芸の特徴は、独自の技法を活用した円の表現です。組子では円を描くのが難しいといいます
見学者にはその構造が伝わりやすいように、小さな見本が用意されています

釘や接着剤を使わず、切り込みやほぞを使って木を組み上げる日本の伝統工芸・組子。古くから、障子や窓などの装飾として用いられ、空間を演出してきました。

大きな木材から、必要な大きさに切り出していく「材料どり」
カンナで四面をなめらかにした後、必要な厚さ、細さに切って断面を整えます
ほぞの角度や深さは職人の感覚で調整し、合わせていきます。木材それぞれに特徴があり、環境によって伸び縮みするため、かなり繊細な作業といえます
必要なパーツを切り出した後は、切り込みやほぞを利用して組み上げます。大作になると、パーツを工場から自宅に持ち帰って作業することもあるそうです

指勘建具工芸では、吉野杉を多く使っています。油分を含んだ吉野杉は柔らかさが特徴。適度にしなるため、加工しやすい木材です。

注文を受けると、まずは寸法を確認。顧客の希望に合わせて、風景や模様の図面を考えます。図面に書き込むのはベーシックな模様のみで、細かなデザインは頭の中で構築します。調湿作用を持つ木材は環境によって膨張・収縮するなど、大きさが変わります。参考にするのは、過去の作品事例。さまざまな環境において書き留めたメモと、職人の経験がものをいいます。

「1回目で成功することはほとんどありません。2、3回目でやっとぴったりはまります」と話すのは、指勘建具工芸3代目の黒田裕次さん。創業者である祖父・勘兵衛さん、2代目の父・之男さんが培ってきた技術を受け継いでいます。

黒田裕次さん

黒田裕次さん

指勘建具工芸 3代目

受け継いだ技術を広める新たな挑戦

指勘建具工芸の創業は昭和7年。当初は直接の注文は少なく、施工を請け負う大工からの注文がほとんどだったといいます。やがて、職人の高齢化により注文が減少。バブル崩壊によって新築住宅の建設数も減り、厳しい状況に追い込まれました。平成元年から代表を務める之男さんは廃業も覚悟していたそうです。

「継いでほしい、とは一度もいわれませんでした」と裕次さん。大学卒業を控えて将来を考えた時に浮かんだのは、父・之男さんの背中でした。「バブル景気の時期、父は深夜まで忙しく働いていました。大変そうではあるものの、それ以上に楽しそうで、子どものころからその姿に憧れていました」。大学で経営学を学んでいた裕次さん。職人として技術を磨くと同時に、先代が発展させてきた組子技術PRにも注力したいと考えました。

光によって見え方が大きく変わる組子。行燈は、組子を生かすのに最も適しています

地域ならではの歴史や文化を紹介する「四日市地域まちかど博物館」として、平成21年に登録。長年にわたって育まれてきた技術を、作品とともに紹介しています。平成25年度には、県内の伝統工芸品や農林水産物の新商品開発・販路開拓支援を目的とする「デザイナー連携事業」に参加。コースターなどの雑貨を開発し、海外に日本文化を広げる拠点である「ジャパン・ハウス ロンドン」でも販売されています。その後、菰野のデザイン会社とも接点を持つようになり、食事の時に膳として使える新商品「御膳(ごぜん)」の企画・提案・パンフレットの制作を担当してもらいました。

テーブル置きとして開発した「御膳(ごぜん)」。食い初めなどの特別な日から、日常使いまでさまざまなシーンを想定して生み出されました

地域との繋がりを強め菰野の魅力を伝える

平成28年の伊勢志摩サミットでは、来日した関係者への贈答品に、三重県産の杉と檜を使用した文箱が採用されました。平成29年からは、「こものの未来を考え続けるためにもっとこものを学ぶこと」をテーマとした「こもガク」に参画。コースターや鍋敷きの組子体験や販売を実施しています。「こんな構造になっているとは知らなかった」「本当に留め具を使ってないんだと驚きました」と、体験参加者。体験を通して、組子の構造や作り方を紹介しました。「こもガク」をきっかけに、今年2月には日本各地の工芸メーカーによる合同展示会「大日本市」に出展。主催企業である中川政七商店の表参道店で、組子のワークショップも行いました。近年は、展示会・博覧会にやってくる外国人観光客や、英語版ウェブサイトを通して海外からの問い合わせが増加。「通訳を介すると専門的な内容をうまく伝えられないため、直接話すのが目標」と語学力の強化を課題としています。

「中川政七商店GINZA SIX店」で販売している麻の葉文様の文箱と、その図面

組子の技法を継承しながら、新たな意匠・商品を生み出して伝統を繋ぐ指勘建具工芸。「地域の人に支えられながら育んできた絆を広げていきたい。職人としてはまだまだ父にかないませんが、経営を支えながら、技術を吸収していきたいと思っています」と裕次さんは、意気込みを語ります。

まちかど博物館

日時:毎月第3土曜 10:00/13:00/15:00 ※要予約

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中広

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中広は岐阜に本社を置く広告会社です。 地元の情報を各戸配布のハッピーメディア(R)『地域みっちゃく生活情報誌(R)』のブランドで発信しています。

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