観客を魅了する愛知の市民劇団「座☆NAGAKUTE」

2019/09/17

観客を魅了する愛知の市民劇団「座☆NAGAKUTE」

今年3月、「長久手市劇団 座☆NAGAKUTE」による最新作『ボクはヒロイン』が上演された。物語の舞台はフランスの老舗劇場。公演初日、恋人との結婚を父親に認めさせようと主演女優のシャルロットが逃げ出してしまう。開演直前にヒロインが行方不明となり劇場は大慌て。物語の行方は――――。

中広

中広

作品で感動を届けたい 観客を魅了する市民劇団

老舗劇場で巻き起こる恋愛模様、架空都市「オエド」を舞台に老中水野忠邦と民衆が闘う時代劇、現代に蘇った怪人二十面相を描く喜劇。一風変わった芝居で観客の心をつかむ「座☆NAGAKUTE」は、長久手市文化の家を拠点に21年活動している。

座☆NAGAKUTEの皆さん。年齢や性別を問わず、多様な職業に就くメンバーが所属。女性が多いため、台本によっては男性の役柄を女性が演じる場合もある。より多くの仲間を募集している

もとは長久手市文化の家の設立に合わせ、地域の劇団として結成。当初は舞台美術家の内山千吉さんが手がけていたが、15年前から長久手高校出身で「劇団B級遊撃隊」主宰の佃典彦さんが演出を務めている。

佃典彦さん

佃典彦さん

「劇団B級遊撃隊」主宰。劇作家・俳優

「団を引き受けた初年が最も大変でした。内山さんの頃は、定番戯曲(※演劇の台本やその形式で書かれた文芸作品)の上演が多くありました。しかし、私は不条理劇を好む傾向にあります」と佃さんは振り返る。演出家の交代で芝居の雰囲気が変わり、退団する団員もいたという。

演出家に加え、劇作家でもある佃さんの舞台は印象的だ。自らの劇作『カレー屋の女』は、瀬戸内の島に旅行で訪れたカップルが主役。女性しか住んでいない島で男性が翻弄される奇抜なストーリーである。型破りな物語の展開や団員による迫力の芝居に観客は魅せられた。

現在、公演は年に一度。年度のはじめに団員で台本を持ち寄って上演作品を決め、毎週金曜に長久手市文化の家で稽古をしている。

上演が近づくと練習日は増え、より熱が入る。舞台には全員が出演。新たに役を作ったり台詞を増やしたりして、全員で演じることを大切に、一つの物語を作り上げていく。

地元の高校出身の演出家 随所に思いを込めた最新作

今年3月に上演した『ボクはヒロイン』は、本格派のコメディー。脚本はM・ガブリエルさん、演出を佃さんが手がけた。「実はM・ガブリエル氏は日本人。これは『日本人によるインチキおフランス喜劇』なんです。それなら私たちも、とことんインチキしてやろうと思いました」とほほ笑む。舞台では役者が大げさな付け鼻や派手なメークをし、目立つ小道具などを採用。「インチキ」の雰囲気にこだわった演出で観客の笑いを誘った。

第31回公演『ボクはヒロイン』のあらすじ

舞台は経営に行き詰まる老舗劇場・ビクトル座。『恋はでまかせ』の初日に物語は始まる。今回の公演はビクトル座にとって起死回生をかけた大事なものであった。しかし、公演直前に主演のシャルロットが行方不明となり劇場は大騒ぎ。開演まで残りわずか!無事に『恋はでまかせ』の幕は上がるのか。

舞台の1シーン
「インチキ」の雰囲気にこだわった演出で笑いを誘った

脚本の意図や時代背景にも、佃さんは演出を加えた。劇中に登場する支配人のエドモンは、頑固で時代錯誤な男性。主演女優シャルロットの父親であるが、娘の結婚に反対していた。シャルロットはエドモンに結婚を認めさせようと劇場から逃亡することで物語は展開していく。舞台に設置されたエドモンの狭い部屋で話は進むが、これはエドモンが「小さな王様」であることを表している。そのため、あえてセットは小さく作ったという。

エドモンの部屋は狭く、すべての登場人物が集まると役者がセットの中に収まらない。「広い舞台に対し、狭いセットで演出してみたかった」と佃さんは笑顔を見せる

物語終盤にある部屋の壁が崩壊するシーンは、「昔ながらの考えが終わりを告げる瞬間をイメージしました。時代の変化や、風通しの良さも表しています」と佃さん。笑いを誘う場面が随所に散りばめられたコメディーだが、登場人物のキャラクターや物語のメッセージ性も巧みに表現している。「芝居は物理です。観客への見せ方や、登場人物の関係性を意識するのが重要ではないでしょうか」と団員を見つめる。佃さんは自身が演じる時に「距離」「位置」「声の大きさ」を重視。この要素は登場人物の関係性ですべて変化する。台詞に思いを込めるより、観客から見た際の客観性を意識しているそうだ。

心を一つに稽古に専念 まちの誇りとなる劇団に

「舞台の幕が降りる時、『ああ、終わってしまった』といつも寂しさを感じるんです」と、団長のしずはたまことさんは目を細める。長い準備期間を経て上演する舞台は、団員にとって特別。稽古中の掛け合い、休憩中の談笑など、劇団全員で共有する時間は大切だ。

しずはたまことさん

しずはたまことさん

座☆NAGAKUTE 団長

現在、地域住民を中心とした約20人が所属。ほとんどの団員が普段は仕事をしながら、合間をぬって稽古に励んでいる。「稽古中は日常を一旦置いて、すべての団員が役に集中しています。演技力より、一つのことを皆で作り上げていく過程を大切にしています」と熱を込める。来年3月に上演予定の作品は未定。現在は団員で台本を持ち寄り、内容を決めている最中だ。本格的な稽古は6月から始まる。

今後はより地域での認知度を上げていきたいと意気込むしずはたさん。「市民の皆さんが誇りに思う劇団でありたい。地域の劇団として結成された当初の目的を忘れず、地元に密着していきたいです」と笑顔を見せた。

舞台で繰り広げられる物語と役者の生き生きとした姿に感動し、観客は盛大な拍手を劇団に送る。座☆NAGAKUTEは、その瞬間を原動力にこれからも舞台に立ち続ける。

この記事を書いたライター情報

中広

中広

中広は岐阜に本社を置く広告会社です。 地元の情報を各戸配布のハッピーメディア(R)『地域みっちゃく生活情報誌(R)』のブランドで発信しています。

中広 が最近書いた記事

おすすめのコンテンツ

SERIES