「羊をめぐる冒険」から生まれた、客室3室のホテルという冒険。

「羊をめぐる冒険」から生まれた、客室3室のホテルという冒険。

2019/10/27

北海道の北部美深町に『TOURIST HOME & LIBRARY 青い星通信社』が誕生。「羊をめぐる冒険」から生まれた、客室3室だけのささやかなホテル。村上春樹ファンならきっとピン!とくるのでは? 館内は「草原の中の書斎」がコンセプト。真相を探ります。

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北海道の北部美深(びふか)町に『TOURIST HOME & LIBRARY 青い星通信社』が誕生。

外壁に取りつけられた看板。サインなどのデザインはアートディレクターの堀康太郎氏が手がけた

美深(びふか)町——「美しく深い町」という、どこかリリカルな名を持つ町が、北海道の北部にあります。北海道の中心である旭川市と北端である稚内市の、ちょうど中間地点。面積は東京23区全てを合わせたよりもやや広く、対して人口は東京ドームの収容人員の1/10にも満たないという、道北の田舎町です。豪雪地帯対策特別措置法における特別豪雪地帯に指定され、1931年(昭和6年)には日本の気象観測の歴史における最低気温の記録となっているマイナス41.5℃を計測した、豪雪・極寒の地でもあります。

この町の名前をご存じの方がいらっしゃるとするなら、その方はもしかしたらかなりの村上春樹ファンかもしれません。というのも美深町は、村上春樹初期の代表的な長編小説『羊をめぐる冒険』の舞台である架空の町「十二滝町」のモデルではないか、といわれている土地だからです。「札幌から道のりにして二六〇キロの地点」にあたり、「大規模稲作北限地」であるなど、小説に現れる記述とさまざまな点で符合します。小説では主人公は「全国で三位の赤字線」の列車に乗って目的地に到着しますが、美深町にはかつて、「全国一の赤字線」と呼ばれた旧国鉄美幸線(びこうせん)が走っていました(『羊をめぐる冒険』が発表された3年後の1985年に廃線となったそうです)。

そんな美深町の町はずれにこの6月、一軒のホテルがオープン。客室数はわずかに3。スタッフもオーナーとパートナーのふたりだけという、それはささやかなホテルです。掲げたコンセプトは「草原の中の書斎」。二棟の石煉瓦造りの建物をつなげた構造の館内は、そのうちの一棟がまるまるライブラリー・ラウンジにあてられ、ゲストは書物たちのささやき声が聴こえるようなその空間で、食事を味わったり酒を楽しんだり。そこはいわば、物語が生まれた地で物語の空気を実感するための場所なのだそうです。しかし、こんな過疎の町の、それも町はずれの草原の中にあるホテルに、本当にゲストはやって来るのでしょうか? それを確かめようと、『ONESTORY』はその小さなホテル『TOURIST HOME & LIBRARY 青い星通信社』を訪ねてみました。そこで見た意外性に満ちたシーンの数々を、ここではご紹介。

長い眠りについていた建物に、再び灯をともすという夢。

石煉瓦積みの外壁の表情が印象的な『青い星通信社』。写真右手の赤煉瓦の煙突もいまだ現役だ
写真右手にはJR宗谷本線の線路が走り、一両だけのディーゼル車が汽笛の響きを残して通り過ぎてゆく
ライブラリー・ラウンジの中には書棚をくり抜いたような空間に置かれた居心地いいソファも
ツインタイプのゲストルーム「水脈」。窓辺のソファは読書するにはうってつけの場所

偶然の糸が結ばれて形づくられた、道北という地への行路。

『青い星通信社』は、星野氏とパートナーである鶴 史子さんのふたりきりで切り盛りする

訪れる人をリラックスさせる、柔らかい空気のダイニング。

ゲストが自ら野菜を温め、溶けたラクレットチーズをかけて味わうという趣向のひと皿
チリやニュージーランド、カリフォルニアやオレゴンなどの、コストパフォーマンスの高いワインが揃う

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